第21話 やっぱり馴染めない
「キャウ」「クア」
数時間待ってようやく兄弟が生まれた。性別は分からんというか無さそう?まぁ可愛いとは思うようん。だって白いし、俺と違ってもこもこの毛が生えてるし。本当に兄弟なの?托卵では?
『子らよ、よく産まれてくれた。我は嬉しい』
「ウキャ」「ガァウ」
うーん、兄弟が赤ちゃん過ぎる。話をしても理解できないだろこれ。これが普通なんだろうけどさ。
親子が見つめ合っているが、俺は物凄く居心地が悪い。俺なんかが産まれてきてスマン、せめて記憶が戻るのがもっと後ならよかったのに。
『お前も我が子だ』
そう言って俺を見る龍の眼に偽りはない。偽りなのは俺の方だ。
純粋に産まれるはずだった龍の子を乗っ取り、生にしがみつく気持ち悪い何か。まるで引き裂いても死なない吸血鬼みたいじゃないか。
せめて嘘はつかずに心のままに生きよう。そう決めた。
「アストレイア様。お食事をおもちしました」
『子らよ、まずは食べなさい』
若い人間の神官っぽいのが恭しく捧げたのは果物だった。龍が果物かよ、まぁ酒を飲む描写とか見たことあるし色々食うのかもしれんが、ここは肉じゃね?
「ガウー」
果物を両手で抱えて齧り付く兄弟達、可愛いの権化かよ。白いぬいぐるみが果物で遊んでるみたいに見える。
『お前も食べなさい』
うーん、いらねぇな。どうせならそこの人間でも食うか?
「シィィィィ!」
「ひっ!アストレイア様ぁ!」
『人は食べてはならぬ』
食わねぇよ。
居心地が悪い。体に力は入らないないものの羽や爪は乾いて固くなってきているし、もう出ていこうかとも考えたんだが。
「この後、聖王様と巫女様が面会を希望されています。構いませんか?」
『構わぬ。我が子を見せておきたい』
という事でもう少し残る事になった。
聖王ってのはこの国の王様か?どうでもいい。だが巫女ってのは前世の救世軍に指示を出していたやつだろうか?無駄な探し物を続けさせ、ヒトモドキと戦わせ、その後ろには吸血鬼までいた。援軍も寄越さずに辺境に留め置きながら自分はこんな清潔な場所から指示を出していたのか?
腹の中で殺意が渦巻く。殺したい、あいつの死に関わった者全てを殺したい。吸血鬼!魔物!俺自身!ノブタダやツユも、ここに来るという巫女も、全て殺してしまいたい。
暫くして聖王というのがやってきた。
皆恭しく頭を下げていたのに、こいつは頭を下げない。
「守護竜殿、おめでとう。無事に産まれたようでよかった」
『ありがとう。子らも育ち、いずれ国を守る龍となるだろう』
お互い俺という不穏分子には触れずに挨拶を交わして帰っていった。どちらにとっても自分から排斥はしたくないってトコかね。
『あれが人の王。人は力が弱くても数が多い、そして多数の人を纏めているのが王だ。弱くても侮ってはいけない』
所詮人は人だよ。
入れ替わりで今度は巫女が入ってきた。
「アストレイア様。新しい竜の誕生をお喜び申し上げます」
すんごい美女だ。髪は七色に輝き、ゆったりとした服装の上からも分かる凹凸、長い脚に透き通るような白い肌。そしてこの匂いは魔素の片鱗、魔法使いだろう。喰ってやれば力が付きそうだ。
『あぁ、我が子達を見守ってくれ』
「勿論です。しかし私もそろそろ引退を考えています。小竜様方には別の巫女が着く予定です」
何か話しているが頭に入って来ない。殺したい、力をつけたい、こいつを喰って強くなり沢山殺したい。
『巫女、お前は魔物をどう思う?』
「っ!産まれたばかりなのでは!?」
『魔物をどうしたい?』
「……魔物は人の脅威です。ですが同時に、触らなければ無関心でいられる相手です。距離を取るのがよいと思います」
『では吸血鬼はどう思う?あいつらは人を狩るぞ』
「彼らも同様。寄れば撃退はしますが、こちらから攻撃するには強大過ぎます。人には手が負えぬ相手です」
撃退するだと?国の真ん中にいたらそうだろうな、魔物領域から遠ければそうだろう。そして端から食われるのだ、お前の命令で動く手足が食われたのだ!
『死ね!我が力となれ!』
羽は脆い、獣の脚を産み出して駆けた。一息で噛み砕ける距離、魔の脅威をその魂に刻んで死ね!
「アストレイア様!」
『止まれ!』
止まる訳が無い。こいつを殺して俺も殺されるとしても構うものか、どうせ何度でも生まれるんだ。生まれる度に殺せるだけ殺してやろう。
身体全体を大きな狼に変化させて巫女に迫る。凶暴な口を開けて噛み砕く寸前、上から大きな手で押さえつけられた。
「ガルアァァァ!!」
『何に怒っているのかは知らぬ。だが怒りに支配されるな、巫女はお前に何もしていない』
『憎い!全てが憎い!魔物を殺せ!吸血鬼を殺せ!絶望と死を与えろ!俺はそのために生まれた!』
『子よ。憎しみだけに生きるな。そんな事の為に生まれたのではない。我は子らを愛している』
『そんな物を知るから憎しみが増すのだ!離せ!愚かな巫女を喰い力をつける!そして魔物を殺す!一匹残らず!全ての魔物を殺し尽くす!』
『愚かな……。では魔物を殺してこい、すきなだけ殺して落ち着いたら戻ってくればよい。我はお前を愛している』
手がどかされ自由になった。巫女を見るが毅然としている。こいつは魔法使いだろう、助けがなくても身を守る自信があったのかもしれない。
体を戻して小竜の小さな羽で飛んだ。地理は分からなくても魔物の領域は大きいのでどの方向に飛んでも見つかるはずだ。
どれだけ離れても親龍のいる場所を感じ取れた。俺が愛されているというのは本当なのかもな。気が向いたらたまに顔を出してもいいか。
暫く飛んで魔物領域との境界を見つけた。これからは魔物を殺して食う。力をつけてより奥へ。世界の全てを滅ぼす力を手に入れるため。
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