第18話 丘の戦い

「ふん!フェンリルと言えどまだ幼体、切り刻んで塵の様に捨ててやるわ!ブラッディ・ニードル!」

 吸血鬼野郎が剣を構えて細い何かを飛ばしてきやがる。早く鋭いそれは回避を許さず、たちまち体中に穴が空いていく。


「ガァァァァァァ!」

 構うか!そんな物で俺が殺せると思うな!その頭を捻り切ってやるぞ!

「おっと、随分打たれ強いな。我が剣の冴えを見ろ、カーミン・ヴァルス」

 もう一体の吸血鬼が割り込んで剣を振るう。ちょろちょろと鬱陶しい!剣の冴えだと?早いだけだ、ご主人の剣術とは比較にもならん魔物の身体能力に任せた滅茶苦茶な剣、調子に乗って名付けまでしているのか恥知らずが!ここだ!

 無駄な動きで体が流れた瞬間を狙う。入った!俺の爪で胴体を真っ二つに割ってやる!


「あまいあまい、獣としか戦ったことがないようだな」

 通り過ぎたはずの剣がぐにゃりと曲がって襲ってくる!

「ギャン!」

 凄まじい切れ味の細剣が俺の前脚を切り落として胸に突き刺さった。くそっ、ただの剣ではなかったか。

「ブラッディ・ニードル!」

 動きが止まった所に追撃が飛んでくる。必死に身を捻るが数十本の鋭い針が貫通した。

 体中から血が吹き出して俺の毛を赤く染めていく。強いな、以前に会った時よりも、魔物領域で出会った吸血鬼よりも強い。何故だ。


「不思議そうだな。ふん!我らは人間の血を吸うことで人間の体を保っているのだ、あの時は血を吸いすぎて一時的に力を落としていたに過ぎぬ!本来の力であれば貴様の如き犬一匹!相手にならぬわ!」

「ははは、摘み食いが過ぎたな。まぁ仕方ないか」

 余裕ぶりやがって。俺が舐めるのはいいが俺を舐めるのは許さん。

 チラリと脇を見ると敵の軍団が進軍を続けている。味方の軍と接触してしまえば大規模な攻撃は出来なくなる、時間が無い。



「アオオォォォォ!」

 様子見は終わりだ。

「なに!?」

 ミシミシと音をたてて体が膨れ上がる。体高1メートル程だった体は見上げるほどの巨体へ、失った脚は硬い鱗に覆われ筋肉が脈打つ新たな脚へと変化した。

「なんだこれは!フェンリルでは無いのか!?」

「オォン!」

 体を振って渾身の尾撃を振り抜く!鱗で覆われた長く太い尾が鞭のようにしなって吸血鬼を捉えた!

 ドパァァン!

「ぐぉぉぉぉ!」


「ちっ!カーミン・ヴァルス!」

 間抜けが!今更そんな小さな剣で何が出来る!新しい脚で剣を打ち払い、驚愕する吸血鬼を踏みつけて大地を砕いた。



 今だ!先にあちらのケリを付ける!

「アァァァァァァ!」

 今度こそぶちかますぜ!これで仕舞いだ!

『駄犬がアァァァァ!!スカーレット・ランサー!』

『ルージュ・リバレイション!』

「ギャウン!」

 またかよ!さっさと撃たせろ!


『もう油断はない!全力で殺して食ってやる!』

『調子に乗るのもここまでだ!』

 吸血鬼共の姿が変わっている。優雅な姿勢は崩れて皮膚が盛り上がり、血管が浮き上がって脈打っていた。

 その目は赤黒く輝き、口元からは長い牙。優雅さの影はもはやどこにもなく、そこにいるのは底知れぬ飢えを持つ化け物だ。変身とかずるくね?俺もやったけどさ。

「オォォ!」

 先手必勝!半端に溜めた犬ビームだ!もらった!


 確実に標的を捉えたが、直撃する寸前に吸血鬼共の体が霞んてビームが素通りしてしまう。あの時町で見たやつだ。

 しかしこれは読んでいた。何度も同じ手で驚くかよ!そのまま首を振って狙いを付けていた敵の軍団を薙ぎ払う!

 ズドォォォン!

 ビームが直撃して火柱が上がる。最大威力には足りないし狙いも正確では無いが、それでも大半をやったはずだ。これならご主人達が勝てる。



『おのれぇぇ!最早構わぬ!貴様だけを殺せればよい!』

 奇遇だな、こっちも同じだぜ!



 互いを殺す為だけの戦いが始まった。

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