第17話 吸血鬼は増える
ばっくばっくばくーん!
悩んだけど魔物を食べることにした。だってもう吸血鬼と対立しちゃってるしな。
あいつは弱かったけどあいつの仲間が弱いかは分からない。それに俺だけが生きればいいってわけじゃない、ヒトモドキをぶつけて来ている奴に吸血鬼が絡んでいるならオルヒやご主人も守らなきゃいけない。
食べると決めてしまえば魔物肉は大変うみゃい。食べた直後にもりもり力が増す感覚もある。倒すだけだと器から溢れたエネルギーを吸収する感じで、食べてしまえば器ごと吸収する感じ?更にドン!って具合なわけよ。
『クォォン!』
尾が3本ある白狐が魔法を操り、炎の柱が唸りを上げて迫る。
馬鹿が、ただの火で俺が燃やせるかよ。無視して正面から炎に飛び込んで突っ切る。
「ガァァ!」
『キャイイ!』
ぐしゃり。間抜けな顔を晒した白狐の頭を一口で齧り取った。そのまま咀嚼して呑み下す。
うむ、こういうのでいいんだよ。モリモリと余さず食い切った。
気持ち悪いキメラの電撃ブレスも、クソデカイ牛鬼の突進も、人間サイズの蜂の毒針も、俺には何のダメージも与えられない。回避もせずに頭から食らってやった。
移動速度も上昇して、より深く魔物領域に踏み込んでいく。もっと強い敵、もっと旨い肉、それらを求めつつも毎晩小屋に戻って寝た。
ツユの飯を食べ、空振りアピールをするご主人を眺め、オルヒに撫でられていると心が落ち着く。
要するに俺は魔物を食いながら人間の中で生きることを選んだ。しかたないじゃない、元人間だもの。じろう。
大きく力を付けた夏が終わり、すっかり冷える様になって秋も終わる頃。ついに大規模な攻撃が来た。
敵はまだ目視出来ないが、1万とか2万とか情報が錯綜している。
軍団は戦うようだ。彼らは国軍ではないが、相手はヒトモドキを使っている。この軍団は教会の救世軍なので、それらは仇敵って事なんだろう。
軍団の戦闘員は600くらいか?町の戦力と併せても1000は行かないだろう。
まともにぶつかれば磨り潰される数の差があるんだが、何か奥の手があるのか?
嫌な予感がビンビンする。逃げて欲しいがそうも行かないんだろう、今回は俺も出し惜しみ無しで行くと決めている。
あの吸血鬼が関わっているはずだ。安易に攻撃して逃がすんじゃなかった、仲間を集められる前に確実に殺す必要がある。
「ジロウ、今回は厳しい戦いになりそうだ。お前、戦えるんだろう?」
「オン!」
勿論だぜご主人、今回は俺も戦う。
「よし!存分に働け。そしてもしもの時は俺ではなくオルヒ殿を助けろ」
「オウ?」
「もしもの時にな。ツユの事も助けてやってくれ。俺は強いから大丈夫だ!」
「ウォン!」
ご主人、俺も強いんだぜ。本気で戦ったらもう一緒には居られないかもしれないが、俺はここで今まで生きた恩を返す。
「犬、存分に働きなさい」
「オフ!」
そういやお前は戦うの?ご主人だけ守る感じなのかな?まぁ前線は俺に任せとけ!最初に一発かまして終わりかもしれないけどなぁ!
出し惜しみ無しってのはそういう事だ。ヒトモドキと人間がゾロゾロ進軍している所に最大威力の必殺ビームをブチ込むぜ。
それで軍団は終わり、まともに食えば吸血鬼共も蒸発するさ。流石に感知されるだろうけど、ヒトモドキ達の速度では回避は不可能なはず。
俺はやるぜ、俺はやるぜ、鼻を鳴らして先に行こうとしたらオルヒに声をかけられた。
「ジロウくん、今はそっちに行っちゃ駄目だよ。今回は大きな戦いになるからね、無理しないで逃げるんだよ。君は人間の戦いには関係ないんだから」
不安そうにしながらも俺に逃げろと言う。
そう言うなオルヒ、大丈夫だ、あんちゃんが守ってやる。お前の出る幕こそ無いぜ。
頭を擦り付けて匂いを嗅いでおいた。ヘヘッ、俺は犬だし仕方ねぇよなぁ!
「オオオォォォォン!」
景気づけに鼓舞する気持ちを込めて遠吠え一発!効くのかどうかは知らん!
「オフ!」
戦場に向けて走り出した。俺がデカイ一発を上げてやるからよ、むしろ俺にビビるなよ?
走り出して5分もしない内に敵の影が見えた。数は分からん、ただ凄い数だ。あの町に戦士は1000も居ないだろうに、敵は軽く万を超えていそうな大軍。
俺のせいか?その前にツユもやってたんだったな。いや関係ないか、敵を倒すために全力を尽くすのは当たり前のことだ。集められるだけの数を持ってきたんだろう。
馬鹿め、全て燃やしてやる。ヒトモドキも人間も関係無い、敵は殺す。それだけだ。
見晴しのいい小さな丘に登って敵を見据えた。四肢を踏ん張って特大ビームの発射準備OK!
「アアァァァァァ!」
周辺の魔素を掻き集め、体内の魔素を操って力を一点に留める。一撃で終わらせてやるぜ!喰らえ!滅びのバーストスト…。
ギュドン!
発射寸前に敵方から何かが飛んでくる!
「ギャイン!」
俺の体を貫通した!?馬鹿な!どんな敵にも破られた事がない俺の体を!
「見つけたぞ駄犬!あの屈辱!一日も忘れたことは無い!!」
あの時の吸血鬼!?それにしては何だこの力は!
「こいつが言っていたやつか。なるほど強そうだ。だが我らの敵ではないな」
更にもう一匹。そういえば吸血鬼は増える虫けらなんだっけか。
「ゴアァァァァ!!」
敵は強い。だから何だ、やるって決めてんだよ。
こいつらを始末して敵の軍団にデカイのをブチ込んでみせる。
大丈夫だぜオルヒ、あんちゃんがみんなぶっとばしてやるからよ。
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