第15話 ヤバい薬草(丸薬)
「やぁっ!はぁっ!」
「駄目だ!そんな手打ちで魔物が倒せるか!」
「ぶはぁっ!ぜはぁっ!ぶひぃっ!」
「走れ走れ!魔物に追われて足を止めたら飯にしかならんぞ!」
みなさん大変活発に訓練で励んでおられる今日このごろ。ぶっちゃけもう帰ったら?と思っているんだが、ただのワンコである俺に事情が説明されるわけもなく、彼らは何らかの任務を全うするべく努力しているようだ。
この地に来てどれだけ経つんだろう?俺が生まれたのがたぶん冬で、記憶を取り戻したのが夏。それから冬を超えて春も過ぎて初夏に入りつつある。ここに来た時期をはっきり記憶していないんだが、去年の冬前には来ていたんじゃないかな?
断片的に聞いた話をつなぎ合わせると、この軍団はどこぞの教会の巫女様の指示で誰かを探しに来て、発見は出来ないがまだ探し続けろって事のはず。
人探しに来たのに見つからない。なのに移動中に前世の俺である魔物に襲われ、ここでもヒトモドキ集団と小競り合いが続いて怪我人続出。もう諦めなよ。
訓練に励む軍団から離れ、俺は魔物領域内で実験用の薬草畑を耕していた。
別に何か必要に駆られたわけじゃない。ただ興味があったのと、こういう作業も嫌いじゃないってだけ。
にょっきりと爪を伸ばし、土に打ち込んで引っ掻くと簡単つ土が掘り返される。サクサク掘れて気持ちいいです。農民やってた時にこれが出来たら村でも人気者だっただろうなぁ。
そこらの地面を適当に掘り起こしただけだがたぶん大丈夫だろう。魔物領域では全てが生命力に溢れている、人間の領域よりも健全な気がする程だ。
持ってきた網籠をひっくり返し、チューリップっぽい球根を一つずつ咥えて埋めていく。前足で掘り起こし、鼻を突っ込んで植えて、また前足でぽんぽんと固めるだけだ。畝すら無く、適当な仕事っぷりに元農民の魂が泣いちゃうね。
全部植えたら仕上げ、この実験の肝を実行する。
ぽ~い、どちゃり。咥えて持って帰った魔物の体を埋め埋め。
領域内の薬草は特別な種類の草花じゃない、特別な育ち方をして魔素を溜め込んでいるだけだ。きっとその魔素は魔物由来の物で、食べ残しや溢れた血を吸収したんじゃないかと云うのが俺の考察である。
魔物を養分として薬草が育つのか?俺の一大プロジェクトが始まる!
いやぁ感慨深いなぁ。これから頑張っていこう。
ニョキ。
ん?
ニョキニョキニョキ。
え?
ニョッキリ!
ふぁ!?
あ…ありのまま、今起こった事を話すぜ!
俺は球根を植えていたと思ったら、いつのまにか花畑が咲いていた。時期外れだとか促成栽培だとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。
これ大丈夫なの?魔素を吸い込んだなら魔素を含んでいるのでは?うーん、軟膏とかならいいのかな?まぁ普通に飲ませてもいたが少量だろうし平気平気、俺は知らね。
思いがけず実験が即終了してしまった。
まぁこれからは持ち帰る薬草を探す必要が無くなったし、実験も成功して仮説も証明されたので喜んでおこう。
しかしこれだけ早く育つなら種子の掛け合わせで遊べそうだな。宇宙ノーカみたいなやつな。バブーみな殺すべし、慈悲はない。
とりあえず思いついたのでバナナの木をぶっこ抜いてきた。幹が柔くてつい一本丸ごと食ってしまったぜ。畑の中心にあるチューリップ達を引き抜いてバナナを突き刺す。こいつらは特に受粉とかしてる気配も無く成長する超植物なので、後は栄養だけくれてやれば勝手に育つだろう。掛け合わさった立派なバナナーリップに思いを馳せて魔物を捕まえてこよう。
それから10日。俺は毎日魔物を運んで埋めた。埋めてしまったんだ。
『ギャァァス!ムギャァァァ!』
元気なバナナが暴れていた。
ここは魔物領域、生命力と死の香りが満ちる魔境。不条理こそが条理。
とりあえずぶち殺し、バナナは食べずに埋めた。薬草達は相変わらず変質することも無く成長してくれている。
やはり魔素は色々なものを変質させてしまうんだろう、だが世界のすべてが魔素の影響に負けてしまうわけじゃない。
魔素をエネルギーとして利用しつつも魔素の影響を受けていない薬草達。こいつらは無尽蔵に受け入れる事ができるのか?
バナナの木だって昨日までは魔物化していなかった、人間だって一回食べて魔物になるわけじゃない。となれば許容量の違いがあると思うんだが。
バナナの木、薬草、人間、魔物化する獣達。その差は何が原因なんだろうか?
それから更に10日後。そこには大きな花から半身を現した美しい少女の姿があった。
『パパ!あたしはパパのおかげで産まれたんだよ!ありがとう!ダイスキ!』
「アオ!」
ちゅどーん!邪悪な花は消え去った。
養分にしたのが30匹くらいで魔物化したのかな?大きさもバラバラだし、参考程度に覚えておこう。
残骸は焼き尽くし、魔物化一歩手前であろう薬草達を全部抜いた。
今日はこれで丸薬を作ってみよう。
チューリップ薬草は一番沢山持っていったので加工は覚えている。一番簡単そうだったから沢山持っていった。
球根部分を小川に運んで綺麗に洗った後、丁寧に刻んでから乾燥させて磨り潰し、バナナを潰した物を少しずつ加えて固めたら完成だ。たぶん作り方は割と自由なんじゃないかな、使える物を使って作ってる感じがする。
花?心を和ませます。オルヒの部屋にいっぱいあるんじゃねぇかな。
網籠ごと水につけてジャバジャバ、爪でシャキシャキ切り裂いて、大きな石の上に並べて乾燥し、大きな石の表面を「ア~」と溶かして窪みを作る。乾いた細かい球根を窪みに入れて、腕を生やして木の棒で磨り潰した。
最後にバナナか。バナナ、焼け残ったギリギリ魔物化してないヤバいバナナがあるんだが行けるか?皮を剥いてみるとすげぇいい香りがする。置いとくと食っちゃいそうなので薬草に加えた。
ぐちゃぐちゃと混ぜていると気のせいか何か声が聞こえる気がする。ちょっと動いてない?蠢いているというか……ヤバイか?
「アー」と細いビームを出して軽く焼いておいた。静かになったしまぁ大丈夫だろう。あーいい匂いがするぜ。
いい感じに粘度が出てきたので小さく丸めて出来上がりだ。
完成した謎の薬草丸薬、効果は治癒。
治癒ってなんだよって思うんだが、おばお姉さんがそう言ってたんだし仕方ない。魔法のある世界で魔を含んだ薬草なんだからそういうもんなんだよ。
魔物化寸前まで魔素を詰め込んだ特別性だぜ、きっと空だって飛べるはず。
ルンルンで帰ってツユに見せてやったらパクられた。
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