第14話 it's バナ~ナ

「ワンワンワン、ワワーワワワオン!ワンワンワンワ、ワーワワワンワン!」

 何人たりとも著作権を問えない無敵の犬語ソングを口ずさみつつ魔物領域を散歩する犬。この子とっても強いんですよ。

 ほら!今も鋭い爪で切り裂きましたよ!すごいですねぇ、犬科の筈なのに今の爪はす~ごく伸びてました。あ、尻尾!今度は尻尾で攻撃しましたねぇ、突然大きな魚の尻尾に変化して叩き潰しましたよ。まるでクジラみたいですねぇ。


 とまぁこんな感じで、薬草集めをしながら魔物の間引きを無償で行っている。

 最初は退屈しのぎがメインだったんだが、やっぱり魔物を倒すと充足感が半端ないんだ。やり残した仕事を片付けるような、歯に詰まったカスが取れるような、そんな感じ。

 そしてすぐに気づいた。これ魔物倒すと成長してるわ。

 もしかして前世でも肉を食う必要って無かったんじゃないか?過去に魔物を食う種族だった記憶が断片的に残っていたせいで、つい食っちゃったんだよな。倒すだけで強くなるなら食わなくていいじゃん!


 まぁ、いいか。生まれ変わって更に強くなったのは間違いないし、あのまま生きててもオルヒとはお別れするつもりだったからな。それに犬生も悪くないぜ。




 雑魚魔物たちを片付けながら薬草を探していく。たかが草でもやはり奥に行くほど魔素が濃くなり、より品質が高そうだった。

 そういえば虫を見ないな。植物の繁殖に虫が必須な訳では無いが、花をつける植物が多いということは虫もいるはず。全然見当たらないが、奥に行けば魔虫なんかもいるんだろうか?アラクネとかなら見てみたい気もするが、デカい芋虫とかゲジゲジは見たくねぇな。


 虫が居ないかとキョロキョロと見回していると草むらがガサガサと揺れだした。

『ギャウガァァ!』

 飛び出して来たのはゴブリンくん。懐かしいな、前世でも結局一匹しか出会わなかったレアモンスターだ。

 バコン!

 突っ込んできた所を犬パンチ一撃で終わらせる。そういえば前世で会った時もこんなだったなぁ、こいつら何がしたいんだ?


 ゴブリンと言えば群れで行動する魔物で、集落が発見されることもあると聞いたことがある。一匹で行動しているのはハグレなのか、それとも偵察?鉄砲玉?

 ふむ、集落でも見つけたらイベント発生みたいでいいじゃないか。囚われた女の子が居たりするんだよな!……だいたい悲惨な話が多いから無い方がいいか。

 とりあえず臭いのを我慢してフンフンと匂いを覚えておいた。似た匂いがしたら辿ってみよう。



 まぁ今日のところはこれくらいで帰ろうかね。

 集めた薬草を網籠に詰めて咥える。この網籠は自作である。ド田舎村出身だからな、籠を編んだり匙や器を削り出すくらいは出来るぜ。

 腕はにょっきり生やせる。羽や魚の尾を出すのと同じで、人として生きた経験から当たり前の様に腕を出せるんだ。だからまぁ、その気になれば色々やれるんだよ。やらんけど。



 たったか走って町に戻った。

「オンオン!」

「あ、ジロウちゃんまた採ってきてくれたのね!偉いわぁ!」

 薬を調合しているおばじゃなくてお姉さんに薬草をお渡しする。この人は面倒な事を言わずにありがとうで済ませてくれるから助かる。


 お姉さんは草花を選別して、ある物は干し、ある物は綺麗に洗って煮込み始める。何をやっているのかを説明してくれる訳では無いが、そのゆっくりとした繊細な扱いには、一つ一つ意味があると感じられる。

 自分の知らない技術に触れるのはいい。ご主人の剣術も、オルヒやツユの魔法も、薬の調合も、全て欲しい。全てを俺の物にしたい。


 飯の時間になるまで、俺はそれをじっと見続けた。




 こんな日々が20日ほど続いたのかな。

 ヒトモドキは諦めたんだろうか?怪我人は薬草の効果もあって次々に復帰し、部隊も落ち着きを取り戻した頃。


 見つけた。ゴブリンの集落だ。

 集落は人間の村の様な物とは違い、簡易な砦?盗賊の根城みたいな?生活よりも防衛を主眼においた作りだった。

 林間の空地を利用したのか伐採したのか、平地に様々な物を配置して利用しているようだ。

 簡易な土塁や石壁、木材で組んだ見張所の様な物もある。土塁の周囲をよく見ると尖った杭なども見えていて、いくつか罠が設置されていそうだ。


 この辺りの魔物と言えば強いのがゴリラや虎の変化亜種っぽい奴等。虎は柵を乗り越えそうだがゴリラは無理かな?まぁすぐに破壊されるだろうけど、その間に攻撃するんだろうさ。

 何にしろ俺には全く関係無い。石壁も一息に超えられるし、体当たりでワンパンだし、どんな武器も刺さらない。俺に見つかった時点でおしまいだ、諦めて欲しい。



 さっそくぶちかまそうと思ったが、もしかして本当に女の子が捕まっていたりしないだろうな?そんな展開は凄く嫌なんだが、確認せずに吹っ飛ばしたらずっと気になりそうで嫌だ。

 今は集落内で動いているゴブリンが見えるので、こいつらは昼行性なのかもしれない。一旦引いて夜中に強襲する事にしよう。


 町に戻って夜を待つ事にした。帰らないと飯を食いそびれるからな。

 最近はツユがちゃんとご飯を用意してくれるんだよ、俺の薬草集めを評価してくれているらしい。

 魔物狩りはライフワーク、薬草を集めて加工を学ぶのも趣味の内、それで評価されるとはありがてぇ。趣味が仕事っていいよね。

 飯を食ってからゆっくり休み、みなが寝静まった頃に出発だ。






 ゴブリンの集落に来た。わざわざ改めて夜に来たわけだが、何やら色々動いている気配がある。

 もしや夜行性だったか?、それにしては見張り台にゴブリンの姿は無いし、灯りがあるわけでも警戒している訳でもない。

 観察すると何やら一箇所に集まっているようで、その中心で小さな体が嬲られているのを見つけてしまった。


 まじか、本当に捕まっていたのか。ていうか俺が昼間襲撃していれば避けられたんじゃないのか?

 滅茶苦茶気分悪いぜ、ゴブリンが人を攫って嬲るなんて聞いたことも無かったが、このクソ弱い連中が人間を標的にするのは分かる。

 魔物同士で戦えない軟弱者め、馬鹿で弱いクズめ、今すぐ滅ぼしてやる!


「オオォォォン!!」

 遠吠えを上げてから走り出した。これは恐怖を与える為の物だ、殺意を込めた遠吠えの効果は学習済みだぜ。

 震え上がって動けないゴブリン共を切り裂き、集まりの中心まで突っ込んだ。するとそこにはぼろぼろに嬲られたゴブリンが!

 ゴブリンじゃねぇか!仲間か?別の集落のやつか?もしかして私は悪くないゴブリンで私の村を救って下さいとかか!?

 知らねぇどうでもいいわ!魔物に慈悲はない!死に晒せ!


 空に向かってハイジャンプ!翼を出してバッサバッサと滞空しながら魔素を掻き集めていく。

 ズゴゴゴゴゴ!凝縮された魔素が大気を揺らす、消し炭も残さず吹き飛ばしてくれるわ!

「ガァァァァァ!!」

 眩しい光の中、数多のゴブリン共と共に集落は消え去った。後には大きなクレーターが残るのみ。




 虚しい戦いであった。俺はこんな夜中に何やってんだよ。

 ごうごうと燃える森。ここらの植物は丈夫なので放っておいても消えるだろたぶん。

 明るい火を上から眺めていたら懐かしいものを見つけた。バナナだ。これ美味かったよな、何よりオルヒの喜ぶ顔が懐かしいぜ。


 一つ齧りついてみるとスウィ~トな香りと強い甘み、うみゃぁい!

 大きな房を3つ千切り取って土産にしよう。みな喜んでくれるかな。

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