第13話 薬草採取は基本

「アオ?」

 ツユさん、なんでそんな装備を整えて俺を睨むんですかい?


「犬、お前から吸血鬼の気配がする。どういう事だ」

 吸血鬼の気配?昼間会ったアレの事か?どうと言われても説明が難しいな。アオアオンで分かります?

「吸血鬼の眷属で無いならこれを呑め」

 投げられた丸い物をお口でキャッチ、変な物では無さそうなのでゴクリと飲み込んだ。

「ふん、殺す必要が無くなったか」

 いちいち言うことが物騒なんだよこいつ。どゆこと?またどこか行くの?



「今から話すことを覚えておきなさい。お前がどうするかは関係無い、知っておくだけでいい」

「ワオ?」

「吸血鬼は殺さなくてはいけない、奴らは人類の敵だから。吸血鬼は見つけ次第殺さなくてはいけない、奴らは増える虫けらだから。吸血鬼は喋る前に殺さなくてはいけない、奴らの言葉は全て毒だから」

 殺意高いっスね。



「犬、疑われたくなければ吸血鬼を殺しなさい。吸血鬼と敵対する組織は3つ、教会・狩人・冒険者です。彼らは吸血鬼の残り香すらも許さない」


 吸血鬼と敵対って言っても戦えるのなんて魔法使いだけだろ?

 言っちゃ悪いが、俺がその気になればこの軍の全員に襲われても相手にならない。魔物と人間はそれくらいの差があるんだ。今の俺は魔物じゃないけど。


「私は元狩人、それも中堅程度。一流は魔物領域内を闊歩する超人達です。甘く見ていると気がついたら首が飛んでいますよ」


 ふ、ふ~ん。一応覚えておこうかな。一応ね。


「次に見つけたら必ず殺しなさい。アレは存在してはならない、アレの存在を許すということは人の存在を許さないのと同義です」

 へーい。



 ツユは説教だけして帰っていった。

 吸血鬼なぁ、殺すつもりだったんだけど逃げられちゃったんだよ。なんか悪いことしてたっぽいし、先制でやっちまえばよかったな。

 全然雑魚だった、不思議な逃げ方をしただけだ。囲ってるやつも弱かった。あれと敵対する組織と言ってもどんだけだよ、冒険者なんて普通の人じゃん。

 あんな奴ら、俺が本気を出したら相手にならんよ。あいつらが俺に出来ることなんて無い。それこそ会心の一撃をぶつけたとしてもイテテで終わりだ。


 人間にとって吸血鬼が怖いのは、吸血鬼が人間を食料にする魔物だからだ。魔物全体の中で見たらクソ雑魚だわあんな物。

 大体魔物の癖に人間の血を吸うってなんだよ、軟弱にも程があるわ。魔物なら魔物を殺して肉を食え。あんなにも美味しくて食べるだけで力が湧くというのにな。人間なんて食ってる奴等に負けるかよ。


 俺は強い。あんな奴が何をしようと関係ないね。次に見つけたらぶっ殺すけどな。

 吸血鬼だからじゃ無い、魔物は殺すべき物だ。

 ……俺って魔物じゃないよな?久しぶりに魔物と戦ったせいで昂ってるかもしれん。

 ソワソワするぜ。久々に魔物を殺った時の喜び、魂が歓喜する感覚。魔物を食いたい食欲じゃない、魔物を殺したい衝動だ。

 思いのままに力を振るって魔物を蹂躙したい。人間相手にそんなの考えたことはないし、ヒトモドキ相手でも何にも思わなかったのにな。あぁあの吸血鬼をぶち殺したい。


 こんな時には魂の叫びに限るぜ!魔物をぶっ殺したい気持ちを込めて一発行くぞ!

 4つの足に力を込めて、睨みつけるは欠けた月。我が想いを知れ!!

「オオォォォォォォン!!」

 殺意を込めた雄叫びだ。ムラムラを吐き出して気分スッキリでござる。


 宿舎のあちこちからどったんばったん音が聞こえだしたので、知らぬ顔をして寝た。






 翌日。部隊はまだまだ厳戒態勢だ。昨夜も魔物の気配があった?知らんなぁ?

 怪我人がすぐに治る訳もなく、足りない人員での警戒や訓練強化で無駄に混乱している。

 魔法であればすぐに治るんだろうけどなぁ。オルヒは火の魔法を使っているところしか見たことがないが、ツユは多分使えるんじゃないか?ご主人が生きているのは多分魔法で癒やしたんだろうと思うんだよ、俺が腹に大穴空けて致命傷だったからな。


 魔法治療は限られた人しか受けられないという。そりゃそうだ、だって魔法使いが1万人に1人と言われてるんだから。

 前世で冒険者をしていた時に聞いた話だと、大商人が町を買える金を積んで治療してもらったとかだ。世知辛い、あの話をした時のジャック君の顔は憎しみに満ちていたぜ。ツユはそういった人の恨みを買わない様に隠しているんだと思う。


 そういえばジャック君の話には続きがあって、彼は治療を受けさせる事が出来ない代わりに、魔物領域に生えるという薬草を求めたそうだ。結局その治療を受けさせたかった相手には間に合わず、ジャック君も半死半生の傷を負って薬草を諦めたという救いのないお話。


 今の俺なら薬草くらい取りに行けると思うんだけどさ、肝心の薬草がどういう物か分からない。まぁ、ダラダラするのも飽きたしボディランゲージでも頑張ってみるか。




「ワンワン、アオウン、アウアウワオン」

「散歩なら勝手に行きなさい」

 ツユにアタックをしたがまるで通じない。出掛けたいって所は合ってるから、何かしら感じ取ってはいると思うんだけど、流石に厳しいか。


「オンオン!オウン!」

「あらジロウ君、君たまに一人で町を抜け出してるらしいねぇ。危ないから遠くに行っちゃ駄目だよ」

 オルヒも無理か。誰か犬語の分かる方いませんかー?


 やっぱ無理か、そりゃそうだ別に本気じゃない。

 ここはご主人に犠牲になってもらおう。あぁ見えてご主人は色々知識もあるからな、きっと薬草くらい分かるんじゃね?

「フンっ!セイッ!ハアッ!」

 わざと大きな声を出して誰かにアピっているご主人が暇そうなので、オルヒの時と同じ様に股の間に入り込んで担ぎ上げる。


 行くぜご主人!薬草狩りだ!

「コラ!離さんか馬鹿者!」

 ボコスカ殴って来やがる!この野郎!オルヒは最終手段で一発だけだったのに、初手から殴ってきやがった!

「ウォウ!」

 短く吠えて最高速度で走り出す。必死にしがみついてろよ!

「次郎ぉぉぉ!」

 叫ぶご主人を無視して魔物領域まで走り抜けた。






「オウ?」

 魔素を含んだ花を適当に摘んでご主人に見せる。

「違う違う、もっと沢山含んだ花だ。魔法の花と呼べるくらいな。魔素が多ければ大体何かに利用できる」

 あいあ~い。ポイントは魔素ね。


 魔物領域まで強制連行したご主人は意外に物分りがよかった。俺が適当に花を咥えて見せると何となく理解してくれたのだ。

 やはり持つべきものは賢い主人だよ。通じ合えたようで割とマジで嬉しい。

 ペットを飼っている全国のご主人達、彼らの気持ちを理解する事が何よりの愛情だぞ!


 魔素の濃い植物となると植物の魔物か、もしくは魔物の血を吸っている普通の植物になる。人の生活圏で効果の高い薬草が取れないのはそういう訳ね。

 高性能な犬ノーズを駆使して薬草を探し歩き、白い花が一輪ついたチューリップみたいなのを見つけた。きっとこれだぜ、一度見つけると分かる明らかな違いがある、次からは簡単に見つけられそうだ。前足で丁寧に掘って根っこから抜いておく。


 ごしゅじ~ん!これ見てくれ~!

「セィヤァー!」

「アオ?」

 ご主人が魔物をぶった切っていた。ちょっと薬草探しを頑張りすぎたかも。

「でかしたぞ次郎!引き上げだ!」






 再びご主人を乗せて帰った。

 俺が見つけた薬草を随分と喜んでくれたご主人だったが、町に帰ったご主人はツユに花を整えさせてオルヒに渡しやがった。


 なんでやねん。何も伝わってへんやんけ。

 それはそれとして、やることは分かったのでソロで行くことにした。ソロだと遠慮する必要がないしね。魔物も狩りまくったるでぇ。

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