二章
第7話 転生ばう
俺の人生は失敗だった。誰が見たって失敗作だ。
何度も何度も生きた。虫に、鳥に、獣に。脳が小さすぎて殆ど記憶していないが。
人としても二度目のチャンスがあったのに、駄目駄目の駄目だった。
沢山の後悔はあるが、それでも俺自身が選択し続けた人生。
全て忘れない。そしていつか本当の俺を取り戻す。あいつに奪われた人生そのものを。
そんなことを きゅうに う?
「……」
「アオ?」
――――――――――
吾輩は犬である。名前は次郎。
たぶん犬。人よりでかいがフサフサで尻尾があって爪が出し入れ出来ないからきっと犬だ。青毛に黒が混ざっているファンタジーなハンサム犬だ。
とても寒い時期に生まれたのをぼんやり覚えている。親とはすぐに引き離された。
悲しかったが、幸い生きることには困らなかった。
だんだん暖かくなり、暑くなり、草場でゲンナリしていた時に突然知らない記憶が溢れ出した。
今はまた春、しっかりと記憶を思い出した俺は麗らかな春の陽を堪能していた。
なぜ再度の人生?を生きているのかはわからない、何か理由があった気はするんだが思い出せない。そんな事考えてもなんにもならんし。
吾輩飼い犬であるからして、なんにも考える必要がないのである。
しかも前回と同じく、思い出した前世の力も取り戻している。前世だけじゃない、その前の生も少しだけ思い出した。
虫になってずっと草を食ってた事もある、鳥になってずっと虫を食ってた事もある、獣になってずっと肉を食ってた事もある。魔物になって魔物や人を食っていた事もある。……あんまり思い出したくないな。
まぁ、人間が動物を食うのと変わらん。そういう種族に産まれて生きただけの事。
今の俺は犬界最強、キングオブワンコ。人の言葉も当然理解している。頑張れば喋れるかもしれん。
なにが切っ掛けで前世を思い出したのか、たぶん脳の発達じゃないか?犬は3歳幼児並の知能があると聞いたことがある、生まれて半年でその条件をクリアしたんじゃないだろうか。
前世の最後に魔法で焼かれたおかげか魔物化の影響もなく、それなのに尻尾も羽も牙も出し入れ自由なんだよね。虫だった頃の様に足を増やせるし、鳥のように羽を生やすことも出来る。たぶん水の中でも呼吸できる。本気出せばこの国落とせると思うぞ。
しかして目下、そんな俺でも如何ともし難い問題が浮上しているのだ。
「次郎、今日も稽古に行くぞ」
「わふ」
稽古着にしては少し小洒落た格好をするこの男、前世で俺が腹を貫いた和装の武士男である。
大きくはないが引き締まったいい体をしており、男の癖に黒髪艶々ポニーテールという出で立ちだ。
それにしてもあの状態で生き残れるものなの?いや俺も似たような状態から生き残ったけどさ、もしかしてお前もやっちゃった?
馴染みのある町を歩き、広場で訓練をしている連中に混ざる。
この町の名はナルス、大魔境と接する辺境の町だ。
訓練場に着いてキョロキョロと周囲を伺うご主人。端のほうで軽い体操をしている女性を見つけて、顔を引き締めて近寄っていく。
「やあ!奇遇ですね。私も丁度稽古をしようと思いまして」
自然を装って挨拶する武士男、だがこれでは、
「おはようございますノブタダさん。今日もジロウ君と一緒なんですね」
自然な挨拶を交わして、ついでに視線も躱して俺を撫でる。この女には全部バレバレだろう。
「あははは、オルヒ殿は次郎がお気に入りですなぁ」
顔を赤くして女を凝視する武士男。こういう時、どんな顔をすればいいのかわからないの。
最初会った時は驚いたさ。だけど向こうからしたら前世の俺は調子に乗って戦場に出たまま行方不明だ。お前に殺されて生まれ変わって犬になりましたと言うのものなぁ。
一体何があったのか、オルヒは魔術師になっていた。万人に1人とされる稀有な才能。魔を操り魔を滅ぼす、魔物の天敵である。あの魔法を思い出すとおっかなくて俺の自慢の尻尾が萎れて丸まってしまうのだ。やっぱり国を落とすのは無理です。
「じゃあ私、団長に呼ばれているので失礼しますね。訓練がんばってください」
「あ・・・」
まぁこうなる。
みなと仲良くやっているようで、何人かに声をかけられながら行ってしまった。
「次郎、お前もうちょっと引き止められんのか。上手くやればいい肉を食わせてやってもいいぞ」
「アウン」
自分で頑張れご主人。
「走れ走れー!一番遅かったやつが所属する隊は腕立て100回追加だ!」
ぜぇぜぇ息を上げながら教官に対する怒りとも絶望とも取れる顔で走るこの連中、国の兵士かと思っていたが実際の所属はどっかの教会の部隊なんだそうだ。
前世ではこいつらの組織的な動きに手間取ったところを魔法でやられちゃった。
その正体は、貴重な魔術師が所属する救世軍様である。
お告げに従ってこんな辺境まで来たのに俺に襲われて、しかもお目当ては既に居ないって事らしい。
大変だなー。
「ノブタダ様、タオルと果実水を用意しております」
「あぁツユ、ありがとう」
更にややこしいのがこのツユという女。主人の侍女?メイド?下僕か奴隷?なんか知らんが甲斐甲斐しく我が主人のお世話をする女だ。
こいつも黒髪で、いつもメイド服を着て頭を団子にまとめている。そして俺の敵。
「いぬ、貴様にも水をくれてやる」
だばだばと地面に恵みを与えている。俺にくれるんじゃなかったの?
「さっさと飲め」
こいつ俺に対して辛辣過ぎない?犬に水飲ませる時に地面に放水するやついる?
「ふぅーうまい、いつも助かるよ」
「っ!勿体ないお言葉」
やってらんねー。
まぁ見てりゃ分かる、ツユはご主人が好き、ご主人はオルヒが好き、オルヒは……恋人とかいるのかな。
好き好き殺すの半円形、この微妙な関係がハラハラするのよ。
ご主人はいいやつだしオルヒには幸せになってもらいたいんだけどなーおれもなー。
まぁ犬の考える事ではないな。何も考えずに思いっきり走り回りてぇー。
そんな俺の犬生である。
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