オタサーの王子化まであと5日。


「ねね、九九くん。九九くんはどういう作品が好き?」


「えっと、特にこれと言ってないかな?」


「一緒だ! 私も色んな作品を楽しめるんだよね! 広く浅くってよくないかな〜とか思ってたんだけど、九九くんと同じなら最高だよ! うぅでも何について語るか困っちゃうぅ!」


「う、うん。俺も作品選びには困るけど」


「私も日頃読む作品に困るんだよね! でもぉ、最近は読み物としてソシャゲにハマっててぇ〜」


「へ、へえ〜。レッドアーカイビューとか?」


「そうそう! ワキャモちゃんとか、ニカちゃんとかとシンパシー感じちゃってマジハオみたいな?」


「多分、そうだろうね……」


「うん! ついつい壊しちゃったりしちゃうとこがね!」


「そっちか。案外、パワー系なんだ」


「九九くんは、そういう女の子好き?」


「どちらかと言うと、きら……」


「私、物壊したりとかしたことないし、パワー系とか絶対そういうのではないし、そもそもこんなに華奢で可愛いフリフリの女の子がパワー系なわけないよね。重いものとか全然持てないし、保健室に教科書置き勉するくらいだし、持てるものって言ったらビル7階の窓際にある植木鉢くらいだし、か弱くて可愛い感じの女の子だから、全然冗談だよ〜」


「そっか。まあ全然どっちも好きだよ〜」


「やだぁ、好き、なんて。九九くんは女の子を喜ばせるのが上手だね」


「あはは〜」


 思考放棄で、あはは〜、と笑っておく。


「あはは〜、じゃないんだけど」


 しばらく執筆していた手塚さんは痺れを切らしたて、俺たちに近づいてきた。


「この人誰?」


「誰って玲亜だけど?」


「とても、昨日『そりゃあ私も信じたいけど、今まで下心で入部しようとした男子を何人見てきた? それに会長命令ってのもね』って私に言ってきた人とは思えないんだけど」


「九九くんにそんなこと言う奴は死ねばいいと思うから今殺すね。はい! 莉央玲亜は死んで、伊安玲亜に改名しました!」


「この人誰、じゃないね。言葉を誤ったわ、これ何?」


 手塚さんに尋ねられたけど、俺だってわからない。


 昨日もまた面接後に部室で見学をしていたのだけれど、結局莉央さんが帰ってくることはなかった。


 そして今日、部活に来たらコレ。


 座椅子に座って本を読んでいると、椅子を寄せてきて、ぴとと肩にひっつかれ、マシンガントークである。


 どうしてこうなった?


「どうして伊安君がわからないって顔してるのかなあ……」


「いや、本当に心当たりがないんです」


「うーん、ま、本当っぽいけどねえ。でも玲亜がこんなんになったのは伊安君が原因には変わりなさそうだし、だとしたら……」


「だとしたら?」


「本当に会長の刺客って思っちゃうかなあ」


 手塚さんの言っていることは至極当然のこと。


 文芸部を廃部にすると脅した会長がよこした人間が、僅か二日にして部員を故障させたのだ。刺客と捉えられてもおかしくない、どころか捉えられなければむしろ詐欺とかに遭わないか心配になる。


 けどまあ刺客じゃないわけで。


「刺客じゃないって信じてもらうのは難しいよね?」


「現状はね。今すぐ退部にすることを検討してるくらいには信じられない」


「だよなあ。じゃあわかった考えを変える」


「考えを変える?」


 首を傾げた手塚さんに俺はハッキリと告げた。


「刺客だと思ってくれてもいいよ。そうであっても部活に残したいと思うくらいの有用性を証明する」


「ええと、それはかなり難しいと思うわよ」


「うん。でもやらなきゃ、退部にするでしょ?」


「まあ……」


「だったら、やるよ。俺に手塚さんの創作をサポートさせてくれないかな?」



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