オタサーの王子化まであと7日


「伊安九九くんだっけ?」


 椅子から立ち上がった手塚奈々さんに冷たさのある笑みを向けられて、ヒヤリとする。


「は、はい」


「会長から聞いてるよ、入部するんだよね? 今日から文化祭までよろしく〜」


「よろしくお願いします……」


 早速気まずい。朗らかな態度だけど、大人の対応って感じがビンビンする。文化祭まで、と限定しているあたり、京都人よろしくな棘も感じる。


 まあでも、よく考えたら当然のこと。廃部にすると脅した会長がよこした見ず知らずの男子に、警戒するなというほうが難しい。


「えっと、鳴川さん……?」


 むすっとした鳴川さんがこっちをジロジロ見てきたので尋ねた。


「別に……」


 ぶっきらぼうな返事をすると、ぷいと顔をノートパソコンに向けタイピングを始めた。黒髪ウルフカットの超美少女のクールな態度に好きな人は堪らないだろうけど、俺は居心地が悪くて堪らない。


「別にってことないでしょ。ねえ、一体、どういう目的?」


 二人も大概だけど一際厳しい目を向けてくるのは莉央さん。地雷系みたいなファンシーな見た目と小動物的愛らしさのお陰で和らいでいるが、それでも十分に圧を感じる。


「皆のサポートをしたいと思ってるんだけど」


「サポート? 自分で書くんじゃなくて? 怪しい、私たち目当てで入部するってわけじゃないよね?」


 びくん、と鳴川さんが跳ねたが何もなかったように、ノートパソコンに向かってタイピングを再開した。


「そんな意図は一切ないよ」


「怪しい。だとしても、上位入賞しなきゃ廃部、とだけ告げてきた会長の回し者でしょ?」


「それはそう」


「ならまだ信用できない。私たちのこと妨害する気じゃないよね?」


「そんな気ないけど……う〜ん、会長からは何て聞いてる?」


「文化祭まで男子を一人入部させろってだけ」


 どうやら会長は事と次第を正確に伝えてないみたい。あの人、言葉足らずの部分多かったからなあ。


 でも今、ちゃんと歓迎されていない理由がわかった。


 部員目当ての下心がないことを、会長から妨害ではなくサポートを頼まれていることを


「俺は単純にサポートするつもりだけだよ。仲良くやれたらいいな、って思うけど、全然文化祭まででいいし」


「……怪しい。大体からサポートって言われても、してもらうことなんてないし。伊安だっけ? 何が出来るの?」


 そう。そこが問題。


 我ながらサポートしようと意気込んではいるが、特に小説の知識なんてものは持っていない。会長は買ってくれてはいるが、俺は平凡な男子高校生。人並み以上に出来ることもないし、俺にやれることなんてないかもしれない。


 まあでも、


「小説関係のアドバイスとかは無理だけど、やれることは何でもやるよ」


 俺の決意の宣言には、案の定渋い反応が返ってくる。


「ううーん……あやふやよねえ。やっぱり下心で近づいてきたんじゃないの?」


「そうね。怪しいしかない」


 と手塚さんと莉央さんが言って、そんな二人の言葉を聞いた鳴川さんは口をへの字に結んだ。


「ま、まあ行動で示すしかないと思うから、少しだけでも籍を置いてくれないかな?」


「それは会長命令だし、もちろんそのつもりだけど」


「ありがとう、手塚さん。鳴川さんは?」


 ただこくりと頷いて、またノートパソコンに目を向けた。


 一応がすぎるけど、二人の許諾は得られた。あとは莉央さんだけ。


「どうかな?」


「……良いけど、ただ!!」


「ただ?」


「会長の刺客だとわかったり! 下心出してきたらすぐに追い出すからね!!」


「勿論そうして。認めてくれて、ありがとね」


 何だかんだ無事入部は認めてくれたみたい。


 ならこれからは、創作のサポート……のまえに、まず信用してもらえるように頑張ろう。


 俺は心の中で今後の方針を定めた。

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