第22話 英雄の再誕㉒
何も言わず隣を歩く平賀アトミックギャル美に、貝介は険しい目を向けた。
「なぜついてくる」
「えーいいじゃん」
平賀アトミックギャル美はへらりと笑った。真意の読み取れない笑顔だ。
「鳥沼さんとこ行くんでしょ? この前ダベって楽しかったから、また会いたいんだよ」
「勝手に思考鏡を覗いてんじゃねえ」
思わず声を荒げてしまう。
鳥沼から別の場所で所用ができたため、落ち合う場所を変えたいという連絡がきたのは先ほどのことだった。貝介が連絡を受けている間、平賀アトミックギャル美がやけに神妙な顔をしていると思ったら、勝手に思考鏡の連絡を読み取っていたらしい。
「仕方ないじゃん。ウチって天才だからさ、そういうの勝手に聞こえてきちゃうんだよね」
そう言いながら、平賀アトミックギャル美はわきわきと指を蠢かせた。その爪の先からゆらりと接続探肢が覗く。
「これだから機械化者は嫌いなんだ」
「お、半機械論者ですか?」
「そういうわけではない」
平賀アトミックギャル美が茶化すように笑う。貝介は不機嫌そうな声で言い返す。
ちらりと隣を歩く平賀アトミックギャル美を見る。見た目には機械を取り込んでいる様子はない肉の身体をしているけれども、その内側には何を仕込んでいるのか分かったものではない。
貝介は軽く身震いをする。
実際、貝介は狂信的な半機械論者というわけではない。肉体に組み込みこそしないものの、必要であれば思考鏡も使う。ただ、肉体に自分以外のものが混ざりこんでくるのがどうにも気に入らないだけだ。
「えー、便利だよ。組み込み機械。貝介クンだったら、ウチお安く手術してあげるよ」
「いらん」
「ウチと貝介クンの仲じゃん」
「そんなものはない」
毅然とした口調で貝介が言い返すと、平賀アトミックギャル美はわざとらしく頬を膨らませた。
「だいたい、本当にいつまでついてくるつもりだ。鳥沼殿のところまでは連れて行かぬからな」
「えー」
「機密の話もあるのだ。それこそ部外の組み込み者の近くでは話せんわ」
「わかったわかった」
適当な口調で答え手をひらひらと振る平賀アトミックギャル美に、貝介の手は非振動鉈へと伸びかけるが、寸でのところで留まった。
「まあ、途中まではさ、いいじゃん。どうせ同じ道なんだから」
悪びれもしない平賀アトミックギャル美の言葉に、貝介は黙ってため息をついた。
まあいいか、と自分に言い聞かせる。もうすぐ大通りだ。大通りに出たら適当に撒いてしまえばよい。
そう思って、狭い路地から大通りに入ったとき、貝介は視界の端に見覚えのある顔を捉えた。
「ヤスケ、ではないか」
とぼとぼと一人うつむいて歩いていたのは、以前このあたりで見かけた幼子であるヤスケだった。
「ああ、発狂頭巾のお兄さん」
ヤスケは顔を上げて言った。その顔には前にあったときのあふれんばかりの無邪気な元気はなかった。年頃に似つかわしくない、なにかに思い悩んでいるような、そんな表情が浮かんでいた。
【つづく】
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