第4話 英雄の再誕④

 おおい、君ちゃん。君だよ君。そこでぼへーっと画面見つめてる君。儂に会えるなんて幸運だねえ? え? 何? わかんない? かーっ遅れてんね。いいさ、じゃあ初めから説明……するの面倒くさいから、発狂頭巾で調べて、出てきたの見なよ。あ、六期は飛ばしていいよ。つまんないから。

 見てきた? じゃ、わかったね? 儂が発狂頭巾ってわけ。理性とか正気とかそういうメンドーなの抜きでズバ! ってね。

 で、なんで儂がこのガキを捕まえてるかって話なんだけど、このガキ迷惑なことに喚きながらこの人混みの中駆け回っていやがったのさ。しかもなんて言ってたか聞いたかい?

「狂っておるのは、儂か、お前か?」

 許せないよなあ?

 だから、儂はこうして本物の発狂頭巾として偽物を成敗しなければならないんだ! ははははははは! 発狂頭巾はつらいなあ!

 あ? なんだ? そこの兄ちゃんはやたらじろじろ見てきて。時代遅れな鉈なんて持っちゃってぁ! 

 発狂頭巾を邪魔するってんなら、容赦しねえぞ。なんたって俺は


「狂ってるのは、儂か? お主か?」


 声が聞こえた。思考鏡の記録した甲高い模倣者の思考の声ではない。低い、地獄の沼を煮込んだような声だった。

 影が視界を横切り、不意に映像が揺れる。浮遊感。

「なんだぁ?」

 間抜けな声。青空を背景に噴水のように鮮血を噴き出す首無しの胴を写し、思考鏡は生体信号を見失って暗転した。


「これは?」

 思考鏡を外し、こめかみをさすりながら貝介は尋ねた。

「件の殺された模倣者の思考鏡を解析したものだ」

「思考鏡してたようには見えませんでしたが」

「網膜型の思考鏡よ」

 空夜が口を挟む。

「最近流行ってるのよ、知らないの? 目の中に直接入れる形のやつ」

「ぞっとしないですね」

 貝介は身を震わせた。装着するタイプの思考鏡で模倣者の思考を覗いただけで、気分が悪くなる。それを四六時中身に着けているなんて考えただけで恐ろしい。

「で、本題なんだけど」

 空夜は再び端末を取り上げた。貝介も渋々思考鏡を装着する。

「10分の1まで速度落としてみるわ」

 ゆっくりとした速度で、再び映像が動き出す。緩慢な世界に貝介の顔が映し出される。

「ここよ」

 模倣者の視界に影が降り立った。だが、奇妙なことに鈍足の世界の中、影は通常と同じ速度で動いているように見えた。それは頭巾を被った男だった。男は鉈を振りかぶり、まっすぐに振りぬいた。

 無駄も躊躇いもない動きだった。

 振りぬいた勢いで頭巾が捲れ、かすかに男の顔が見える。間違いないその顔はやはり。

「旦那だ」

「お前もそう思うか」

 呟いた八に、鳥沼が尋ねた。貝介も頷く。

「俺もそう思います。でもこれは何者なのですか?」

「わからん。だが、調べる必要がある。これは他の模倣者とは何かが違う」

「はい」

 貝介は頷いた。不快感の渦が腹の中で暴れまわる。

 言われるまでもなく、調査するつもりだった。何者であれ、父の名誉を汚すものを許すつもりは毛頭ない。

「さしあたっては……」

「ねえねえねえねえ! 馬鈴っちぃいいいい!」

 不意に耳をつんざく叫び声ととともに、古本屋の扉が荒々しく叩き開けた。

 何者かが猛烈な勢いで店に飛び込んできた。


【つづく】

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