第9話 奇妙な食い違い
「ヴィーロスさんはここで魔法を使った。しかもかなり強い魔法を」
僕は芝生と手に持ったファイルを見比べた。それにイッポも頷いてくれる。
「勇者アインスが発見されてすぐに、神官ヴィーロスが蘇生魔法を何度か使用したと供述している。おそらくその跡かと」
「蘇生魔法ならグラスマークは濃いものが残るでしょうね。でも……あれ?」
「ああ、フィルさんもお気づきになられたようだ」
待っていたと言わんばかりにトパーズが問いかけてくる。何度も頭で整理はしているが、今いる場所は、事件当日シルテベートが魔物と戦っていた場所だ。なのに何故、アインスを蘇生しようとした際のグラスマークが残るのか?
倒れた勇者を蘇生しようとしたなら、聖女を挟んで真反対の場所に跡が残っていないと不自然になる。
「アインスさんの体をこちらへ移動したとか?」
「そう考えるのが自然だが、それだと目的がわからない」
「そうですね……別に聖女の泉の東側で魔法を使うことに、不都合があるようには思えない……スペースも十分ありましたし」
なぜヴィーロスはわざわざ移動してこの場所で蘇生魔法を使ったのだろう? 勇者が倒されてしまったなんて急を要する事態だろうに。
「他のパーティメンバーはこのことについてなんと?」
「それが、不可解なんだ……」
トパーズの表情が一気に曇る。僕は次の言葉を待った。
「3人とも、倒れた勇者を発見してその場ですぐに回復魔法や蘇生魔法を使ったと供述しているんだ。勇者の体を移動などはしていないと」
「え……?」
「しかしその主張は、信用に足る証拠とも言えるグラスマークと大きくずれている。大変奇妙なことにな」
確かに奇妙なことだ。文字通り受け取るのなら、倒れているアインスを見つけてすぐに蘇生魔法を使ったのに、別の場所に魔法の痕跡が残ったということになる。そんな話、聞いたこともない。
「なるほど……ヴィーロスさんには特に、もう少しその時のことを聞いた方が良さそうですね」
「同意だが、少し問題もある」
「問題?」
イッポも首を捻った。ヴィーロスは軽い感じの青年だが、ここに来ることにも快く返事をくれた人物でもあり、特別難があるようには思えない。
「勇者アインスが命を落とした日から、彼の性格がガラリと変わってしまってな」
「え?」
そこまで聞いて僕は頭の中でヴィーロスを思い出す。
「以前はその……もっとしっかりとしていて、物静かで落ち着きのある方だったのだ。なのにあの日を境に何故か子供っぽくなってしまった。国の連中も驚いたものだよ」
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