第8話 調査資料


「あの……あなたは?」

「これは失礼を。私はトパーズ。西の国アティークロウの検視官を勤めております」

「初めまして。僕はフィル。この子は使い魔のイッポです」


 イッポが挨拶がわりに片腕だけひょいっと持ち上げた。トパーズと名乗った人物は口角を上げてこちらに一歩近づく。中性的な見た目で、長いオレンジイエローの髪を頭の上でくくっている。性別はわからない。


「存じ上げておりますとも。新しい勇者様……いえ、東の国一の名探偵様」

「……!」


 どうやら正体を知られているようだ。アティークロウの検視官と言ったか。僕はぐっと芝生を踏み締めた。


「そんなに警戒しないでいただきたい。私は君の味方だ。勇者アインスの死の真相を突き止める手助けがしたい」

「あ、ありがとうございます……?」

「まずはこれを」


 彼に手渡されたのは分厚いファイルだった。中を見ると、魔法を使えるものの詳細情報とグラスマークが描かれている。西の国でもグラスマークを記録する文化はあったらしい。


「そちらの小動ぶ……いや使い魔様はグラスマークの目視が可能なようだね」

「ええ。簡単な照合なら可能です」


 トパーズの言葉に答えながら僕はファイルのページをどんどん捲っていった。さすがにこの数の照合はイッポの体力では難しい。ひとまずは疑わしい人物から見ていくのがいいだろう。


「イッポ」

「見てみる」


 最初に見つけた目ぼしいページはディア・ドウトスター。魔法使いディアのグラスマークだ。オレンジ色の波紋のような図がファイルには描かれている。


「う〜ん……色が違うな。ここにオレンジはない」

「ディアさんはここで魔法を使っていないか……じゃあ次」


 僕はまた勢いよくページを捲っていく。少しして手が止まった。

「あった、シルテベートさん。これはどう?」

「え〜っと……似た色はあるけど、形が違う……かな。その色の波紋が途切れてる感じ」

「なるほどね。シルテベートさんは魔法はあまり使わなそうだったし、途切れちゃう可能性はあるな」


 この場所はシルテベートの持ち場だったこともあり、魔法の痕跡が残っているのは多少は頷ける。

 脳内で色々な仮説を立てながら僕はまたファイルを捲った。ファイルのほぼ最後に名前を見つける。


「これは?」

「うわ、これはいっぱいある。しかも濃い」

「ヴィーロスさんはここで魔法を使ったようだね。しかもかなり強い魔法を」


 僕がイッポに見せたのはヴィーロスのグラスマークだった。彼の魔法の痕跡はここに多く残されているらしい。その疑問に答えを出すようにトパーズが口を開いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る