第10話 一貫性の欠如

「ヴィーロスさんが以前は物静かで落ち着いていた? 本当ですか?」

「え〜そんなふうには見えなかったけどなぁ」


 ”ボクとシルくんは後から向かうね〜”

 ”でも、でも……ボク達はあの日、死んじゃったアインスを見つけたから。信じられないけれど、ポーイにやられちゃったんだと思うよ”


 ヴィーロスは第一印象では余裕のある青年という印象を抱いていたものの、接する時間が長くなるほど、そわそわとして子供っぽい仕草が増えたように思う。そんな彼が物静かで落ち着きがあったとは思えなかった。しかも事件の日を境に変わってしまったときた。実に奇妙なことである。

 トパーズは困ったように眉を顰めた。


「性格が変わったところまではまだいいが……まるで幼子のように、発言に一貫性がなくなってしまっている。これまでの供述も、他の二名の証言と照らし合わせてなんとか証拠として残したくらいだ」


 ため息混じりにそう言われ、少々深刻な事態なのだろうと悟った。これは益々本人と話す必要がありそうだ。


「僕からも本人に話を聞いてみます。何か新しい情報も引き出せるかもしれません」

「ああ。まあ……あまり彼の証言は信用しすぎない方がいいと助言しておこう」


 彼の言葉に頷いて、僕は肩に乗っているイッポの様子を確認した。疲れている様子はない。もう少し調査を続けても大丈夫だろう。彼の魔力は強くて万能だが、それなりに消耗も激しいので、こまめに確認しなければならない。


「それじゃあイッポ、照合の続きだ。この近くに他のグラスマークはある?」

「う、うん。あるにはあるんだけどさ……」

「どうしたの?」


 イッポがまた芝生を眺めたまま微妙な顔をした。


「ここっていうか……この場所全体にもかけられてるかも」

「え?」


 何も見えないけれど僕も地面を見る。なんでもない芝生が広がるだけだ。


「この場所全体って、聖女の泉全体?」

「そう。芝生によく似た色だったから今気づいたんだ。歩いてきたとこ全部、このグラスマークの色だ」


 トパーズさんに手渡されたファイルを僕はすぐに捲っていった。数十ページ捲っただけでも芝生のような緑のグラスマークは多く見つかる。一つ一つ照合していては時間がかかるだろう。

 既に事件から一週間は経っている。グラスマークの期限は晴れの日が続けば大体15日前後だ。雨が降れば短くもなる。


 調査の間に消えてしまわないといいけれど。

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