第6話 笑笑笑


「皆さんは彼の死にご納得されているのですか?」


 その問いかけに答えはない。ただ、彼らの表情を見て僕は背筋を凍らせた。


「……!」


 そこにあったのは悲しみや憎しみじゃない。全員が、僕の問いかけに笑っていたのだ。

 何かを尊ぶような笑顔、楽しむような笑顔、誇らしげな笑顔。違和感しかない三つの笑顔がこちらを向いている。


「……なんだよコイツら……なんで笑ってられんだ……」


 僕にしか聞こえない声量でイッポが呟く。全く同感だ。


「それは……その」

 ようやくディアが歯切れ悪く声を出す。芝生に立ち尽くしたまま、僕は他の二人にも視線を送った。


「でも、でも……ボク達はあの日、死んじゃったアインスを見つけたから。信じられないけれど、ポーイにやられちゃったんだと思うよ」

「同意だ」


 不自然に視線を逸らされた。素人が見ても怪しいと感じるだろう。



 このパーティはおかしい。やはり彼らは何かを隠している。




 アインスの家族がパーティメンバーを疑って異国に探偵の派遣を依頼したのも、今十分納得がいった。僕はこれからこの人物たちから情報を引き出して真実を辿り着かなければならない。背筋がぞくりとした。不気味で不可解さは、真実を求める糧となる。



 さあ、どこから崩してやろうか。


ーーーーー


「イッポ、まずはこの聖女の泉全体を確認したい。付き合って」

「わかった!」


 パーティメンバーには一度帰ってもらい、聖女の泉には僕とイッポだけが残った。彼らとここに来たかったのは現場に連れていってその態度を確認したかったから。ボロを出して怪しい動きを見せたものに焦点を当てようとしていた。

 しかし全員が怪しいそぶりを見せたので作戦替えだ。彼らには一人ずつ後から話を聞きに行くことにする。


 聖女の泉自体はさほど広くはない。十数分歩けば一周できることだろう。


「イッポ」


 僕が名前を呼ぶと、イッポの青い目が黄金色に変わり輝き始める。僕の足元から同じく黄金色の魔力が波動となって広がった。これが僕とイッポによる現場検証の初手だ。特殊な魔法が使われた痕跡があれば、大抵はこれで調べがつく。


「この辺はあまり魔法の痕跡がないな」

「そうなんだ? 勇者がここで戦ってから一週間ぐらいだし、魔法の跡は結構残っていると思ったけど」

「他のところも調べてみようよ。とりあえずうろうろしてみてさ」

「わかった」


 イッポを肩に乗せたまま僕はゆっくりと移動する。その間イッポは反応しないので、本当に何も見つからないのだろう。一定のペースで少し歩いたところで、僕たちは遺跡のようなものの入り口に辿り着いた。


「ここはなんだろう?」

「よくある古い遺跡っぽいねぇ。ああ……結構深いみたい。地下15階くらいはあるかも」

「そんなに!?」


 イッポの答えに驚きながら、僕は視線を後ろに向けた。ここは聖女の泉の奥側で、聖女の後ろ姿が見えている。確かここは事件の日、ヴィーロスが魔物退治を任せれていた場所だったはず。彼はこの遺跡の中で戦っていたのだろうか?


「今は地上の調査を先に済ませよう」

「それもそうだね、じゃあまた歩いて」

「うん」


 再び僕はイッポを肩に乗せたまま歩き出した。数分歩けば聖女の右手側、つまりアインスが命を落とした場所の真反対に辿り着く。





「フィル、ストップ!」


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