第5話 当然の疑問
「っ!」
シュウゥゥゥゥ……と音を立ててポーイはすぐに消えてしまった。どうやら倒すことに成功したらしい。
ポーイが消滅した場所から青白い光が僕の胸元に吸い込まれる。魔の力を持つ相手との戦いに勝てば、相手の強さに応じて力を得られるとルークが言っていた。これがそうなのだろう。
普段はイッポに戦闘を任せっきりにして隠れているので、魔物が消滅する瞬間を間近で見たのは初めてだった。
「フィル大丈夫!?」
「ああ、うん。いきなりでびっくりしたけど倒せたみたい」
幸い、本物の剣に触れて一週間足らずの僕ですら倒せる程度のモンスターだった。イッポがすぐに飛んできてくれて僕に怪我がないか確認してくれていた。そんな中、僕の思考はイッポの言葉に反応できないほど深くに沈む。
もう一度、頭の中で繰り返した。ポーイは戦闘にほとんど慣れていない僕が勝てる程度の低級モンスター。今、この身をもってそれを体感した。
だからこそ、当然の疑問が浮かぶ。
本当に勇者はあれに敗れたというのか?
「フィル……?」
心配そうなイッポの声にハッとする。僕はイッポを撫でてからディアに声をかけた。
「ディアさん。アインスさんが亡くなった日についてお聞きしても?」
「え? え、ええ……」
彼女は一瞬驚いた声を出して控えめに頷いてくれる。
「当日、アインスさんが亡くなった瞬間を見られましたか?」
「いいえ。あの日はポーイがこの聖女の泉に大量発生していて、四人それぞれ担当する場所を決めていました。みんな一人で各々戦っていたのです」
「そうですか……アインスさんの持ち場はここだった……」
「ええ。そうです」
事件の瞬間、アインスさんは一人だった。大量発生していたとはいえ、あの程度の魔物に一人だったから敗れたとは思えないけれど。
「他の方の持ち場をお聞きしても良いですか?」
「ええ。聖女の像の視点を中心とした区域に担当分けしていて、私が聖女の像の正面、裏がヴィーロス、アインスが左手側、シルが右手側でした。東西南北の方角に直すと、私が南側、ヴィーロスが北側、アインスが東側、シルが西側となります」
僕は頭にしっかりと内容を叩き込んだ。ここでメモを取ればいよいよ探偵であると公言しているようなものだ。自分が勇者としてここにいるのを忘れないようにしないと。
「ありがとうございます。では……彼は毒などに侵されていましたか? それかかなりの不調だったとか」
「いいえ。その質問は国の検視官に何度も確認を受けましたが、あの日のアインスは万全に見えました。怪我も不調もなかったかと」
「魔王を倒した日から力が衰えている様子などは?」
「ないな。魔王を倒してからひと月も経っていない。アインスは強いままだった」
ディアの後ろからシルテベートが答えた。その隣にはヴィーロスもいる。
「…………」
僕は首を傾げながら立ち上がった。アインスを知らない僕ですら信じられない事件だ。やけに淡々としている彼らに僕は疑問を投げかける。
「皆さんは彼の死にご納得されているのですか?」
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