第2章 現場検証

第3話 第一関門

「ちょっと待ってくれルーク、これって……」

「ああ、気づいたか。書かれているとおり、君にはアインスのいたパーティに新しい勇者の代わりとして潜入してもらう。その準備も進めなければな」


「はあああああぁぁぁあああ!?!?!!?!」


 僕の叫び声が小さな部屋に響く。

 勇者の代わりなんてとんでもない。僕は東の国に住む、フィル・イーフル。しがない探偵なのだから。


ーーーーー


 そして話は冒頭に戻る。東の国で準備を整えた僕とイッポは、探偵ではなく勇者として西の国アティークロウの地に立っていた。なぜこんな回りくどい潜入捜査をさせられているのか、いまだに納得いっていない。


「全く! ルークのやつ! いきなり異国に飛ばしやがって!!」

「もう決まったことだからしょうがないよ。それに、西の国で仕事なんてのもたまにはいいんじゃない?」

「フィルがイイヤツだからつけ込まれてるんだ! あんな怪しくて厄介な奴、許さなくていい!」

「僕も納得してるわけじゃないよ。でも事情が事情だからね」


 そう、ここでルークを恨んでも仕方がない。この潜入操作の提案はアインスの家族のものだからだ。彼らはアインスを殺した犯人として、当日行動を共にしていたアインスのパーティメンバーを怪しんでいる。探偵を派遣して警戒させるより、新しい勇者として打ち解けたほうがいいかもしれないと手紙に書かれていた。

 西の国はまだまだ発展途上。異国の探偵が真相を暴きに来たなんて言ったら、犯人であるならなんとしてでもそれを食い止めようとするかもしれない。相手は魔王を討伐した力の強い者たちだ。武力での勝ち目は期待できない。


 ”初めまして。新しく勇者として加入します。フィルです”


 アティークロウ国王との面会を終え、パーティメンバーがその場に現れた。自己紹介の後の沈黙はまだ続いている。僕はどうしようもない空気の中、三人の様子を確認した。依頼の手紙にあったメンバーと照らし合わせていく。


 女性の魔法使いが一人、背の高い神官が一人、ガタイのいい若い戦士が一人。目星は簡単につく。


「あ、ああ。ごめんなさい。こんなに早く新しい方が来るなんて思わなくて……」


 すると魔法使いと思しき女の子が沈黙を破った。サッと手を胸に当てて美しくお辞儀する。足元まで丈のある濃い紺色のマントが大きく揺れた。


「私はディア。魔法使いです。使える魔法は多いほうだと思いますので、お役に立てるように頑張りますね」


 僕が返事を返すと、彼らはお互いに視線を送り合い、今度は神官の男が一歩前に出た。彼ら自体もそこまで仲が良くないのだろうか、あまり言葉を交わさない。


「ボクは神官のヴィーロスだよ〜。よろしくね、新しい勇者様」


 ひらりと手を振ってヴィーロスと名乗った男は微笑んだ。見上げるほどの長身だが纏う雰囲気は幼く感じる。見た目によらず年齢が低い可能性がありそうだ。


「シルテベート。オレは戦士。よろしく」


 寡黙な人なのだろうか、三人目に名乗った戦士は挨拶した後すぐに目を逸らしてしまった。彼から情報を引き出すのは少し苦労するかもしれない。


「最後に、僕の使い魔を紹介します。イッポ」

「は〜い! イッポだよ、よろしくね! えっとね〜イッポの趣味はね〜……」


 イッポが自己紹介している間に僕は次の話題を考える。正直ここまで話が弾まない雰囲気だとは思わず、このまま解散になりかねなかった。しかし彼らには聞きたいことが山ほどある。イッポに目配せして少し話を伸ばしてもらい、思考を巡らせた。

 出会ってすぐに課題は山積み。先が思いやられるが、どうにかするしかない。


「あの、実は案内してもらいたい場所があるんです。早速ですけど時間をもらえますか?」


 第一の関門、それは自然な流れで彼らを連れて事件現場に出向くことだ。

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