第2話 厄介なこと
「本当にこれが事実なのか……? こんな話、誰も納得していないんじゃ……」
「だから言っただろう、厄介なことになっているって」
ため息混じりにルークは数枚の紙を取り出す。便箋のようだ。
「改めて、君に依頼だ。勇者アインスの死の真相を暴いてほしいと家族から声が上がっている」
ルークが便箋の最後の行に指を置く。そこには、”東の国一の探偵に依頼を”と記されていた。さらにその下には目が飛び出そうなほどの報酬額も書かれている。これを見て依頼を受けない者はいないだろう。東の国一番の探偵と記された依頼を持って来られたのは満更でもないが、僕は疑いの目をルークに向けた。
「君、ただの薬屋だろう? どうやったらこんな大きな仕事が舞い込むんだ」
「まあまあ、細かいことは気にせずに。かなり重大な話だから今は事件に集中しようじゃないか」
「またそうやって誤魔化す……」
ルークは出会ってからずっと謎の男のままだった。”近所で薬屋を営む男”以上の情報は何もわからない。だから厄介ごとがあると言ってその度にでかい仕事を僕に持ってくるのが不思議でしょうがなかった。これまでの依頼も全て、それなりの報酬が出ている。まあ彼の言うとおり、今は事件に集中したほうがよさそうだけれど。
「そういえばイッポはどうした? 今日は姿が見えないな」
「まだ寝てるよ。昨日夜更かししたみたいだね」
イッポは僕の使い魔だ。もう随分と長い付き合いになる。突然僕の元に現れてからは使い魔兼助手として仕事を手伝ってくれていた。両手に収まるような大きさでふわふわとした毛並みを持ち、愛らしい姿をしている。
「……ん〜……よんだぁ?」
「おはようイッポ」
「やあ、イッポ久しぶり。少し太ったか?」
「げ……」
イッポはルークを一目見て嫌そうな声を漏らした。どうも二人は相性が悪いらしい。
「なんだその声は? 人が大きな仕事を持ってきたっていうのに。その報酬で君のご飯は賄われているんだぞ」
「関係ないね。オマエじゃ解決できない仕事をフィルに押し付けてるだけじゃんか」
「まあ、そうとも言うな。でも君が生活できているのも俺が仕事を渡してそれをフィルがこなしているからだ。……だから敬え」
「ふんっ、いやだね!」
「なんだとこの小動物! 痛っ!」
二人の小競り合いをBGMにしながら僕はもう一度朝刊と便箋に視線を戻した。便箋の差出人はアインスの家族。両親、そして姉と妹の連名で出されている。どう考えてもアインスの死はおかしいと悲しみの言葉が綴られていた。
なぜ東の国に依頼を出したのかと言うと、西の国は発展途上で事件事故の調査技術が乏しく、手に負えないからだそうだ。
確かに新聞も写真ではなく挿絵が使われていた。おそらく写真の普及もそこまでなく、アインスの顔を残しているものがないのだろう。
朝刊はまた読み返すとして、僕は依頼が書かれている便箋をじっくり確認していった。どうやら西の国の国王もこの件に噛んでいるらしい。王族と城の人間も可能な限り調査の協力をしてくれると。読めば読むほど大事だ。
そして最後の一節。僕は書かれている内容を見て、大きく目を見開いた。
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