探偵、勇者になる
芦屋 瞭銘
第1章 隣国の勇者の死
第1話 嘘の自己紹介は地獄にて
全く、不可解な話である。
「初めまして。新しく勇者として加入します。フィルです」
僕が挨拶をすると、これから行動を共にするパーティメンバーたちは薄っすらとぎこちない笑いを浮かべていた。当然だろう、前任の勇者がいなくなって二週間足らずで新しい勇者が現れたのだから。
「前任のアインスさんよりはかなり力量不足ではありますが……よろしくお願いします」
全く気にしていないふりをして、僕はへらりと笑って見せる。そうすれば彼らは控えめに口を開いた。
「はい。よろしくお願いします」
「よろしくお願いしま〜す」
「ああ、よろしく」
メンバー3人はそれだけ言ってまた口を閉ざす。なんとも居心地が悪かった。普段は煩い僕の使い魔すら、余りの空気に黙りこくっている。
先に言っておくが僕は勇者などではない。そもそも戦いに向いてすらいない。
僕の挨拶は真っ赤な嘘である。
ーーーーー
居心地最悪の挨拶から一週間と少し前のこと。東の国に住む僕の元にある男が現れた。
「おはよう、フィル」
「おはようルーク。珍しいね、こんな朝一に」
「少し厄介なことがあってさ」
訪れたルークという男は東の国に住む薬屋で、僕とはご近所さんだった。彼は厄介事と出くわすと決まって僕を訪ねてくる。もう慣れたものだった。
「ほう、それはどんな?」
「君、さては新聞を読んでいないな?」
「今朝のはまだ見ていないけど……」
僕がそう告げれば、彼は朝刊を狭い机に広げた。それに合わせて僕は飲んでいたコーヒーを持ち上げる。
「西の国の勇者が死んだらしい。今日はどこに行ってもこの話で持ちきりだ」
「え……」
新聞の一面には、”西の勇者アインス、命を落とす”の文字。挿絵に西の国の国旗とアインスを描いたと思われる絵が載せられている。
勇者アインスといえば、ひと月前に魔王を討伐して世界を救った英雄だった。
違う国まで名を轟かせるほどの功績を残した彼が、一体なぜ急に亡くなってしまったのか。僕は記事を読み進めていく。そこに記された内容に、僕は目を見張った。
「低級モンスターとの戦闘による死……? 冗談だろう?」
「みんなそう言ってるよ。この間魔王に勝った勇者が、俺たちでも倒せる弱いモンスターにやられたんだからな」
「戦い始めた時点でもう瀕死だったとか?」
「どうもそうじゃないらしい。万全の体制で挑んだんだと」
ルークの補足情報に僕は首を捻る。情報が集まるほど謎が深まってしまうようだった。
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