第49話 迷い猫
「うーん。戻ってきたらこんなことになっていたとは」
「主の秘密を守るためとも思いましたが、このような地です。こやつを尋問してからでも結論をだすのは遅くないとかと思っておったのですが」
「可愛い女の子に非常な真似はできませんわよ?」
村での仕事が割り当てられていないので、遊んでくるといって空間転移で基地までやってきた。
ちょうどいいところにと言われて連れていかれたのは、いつの間に作られたのか分からないが牢屋だった。
そして、忍び装束を着た獣人族の女の子が捕まっていた。猫、かな?
「返してらっしゃい」
「我が主よ、ここの秘密を見られたのにそのまま逃がすのはありえませんぞ」
「せめて例の魔法で言動を縛りませんと」
「あ、そっか。というかどっから来たのこの子」
「あちらの方角ですな。森の中で隠れながら移動しておりましたので捕らえさせていただきました」
「バルバトス様から五分近く逃げおおせられましたのよ? 良い腕をしておりますわ」
「へえ、そりゃすごい」
この森で生きていけるくらいの実力があるのも驚きだが、そんな中でバルバトスから短時間とはいえ追いかけっこが成立したのもすごい。
「捕まえたのは?」
「昨日の日中ですな」
「何も言わない感じ?」
「いえ、ですが一番偉い者と話す。と」
「食事は?」
「手を付けませぬ」
うーん、なんとも言い難いこの感じ。
「お前が、こいつらの主か」
「うん? 主というか、代表?」
「主ですぞ」
「主ですわ」
どうやら会話はしてくれるようだ。
「そうか。ここにあった城はどうした?」
「ああ、もう取っ払ったよ。邪魔だったし」
「じゃま……そ、そうだったか。なんでこの地にいる」
「必要だったから。今は開拓中だ」
「開拓中、ここはゴブリン共の巣だった。外には地獣やダンジョンの魔物で溢れてる……なのに、ここを開拓するのか。なんでだ」
「なんでって……都合が良かったから?」
「質問ばかりしてくる子ですわね」
「こちらの質問には答えなかったのに、まったく都合が良い」
「……家臣のお二人には、失礼をした。いただいた食事も手を付けず、申し訳ない」
牢屋の中で姿勢を正し、頭を下げる少女。
「ぬ?」
「家臣……それもいい響きですわね」
「新たに立たれた王よ、どうか我らを……我らさとをお導きください」
「「「 王? 」」」
「はい、王さま。です」
王様? にされてしまったらしい。
「えっと、オレはクラッドフィールドだ。王さまじゃないよ」
「王さまらしいすばらしい名前」
「話を聞いてくれない!?」
「王、王もよろしいですな」
「この地にクラフィ王国を樹立させますわよ!」
「味方も錯乱している!?」
ツッコミが追い付かないよ!?
「ここは元々ハイグランド公国、大きい国ではなかったけど自然ゆたかでのどかなお国柄だったときいてた、ます」
「ああ、うん」
「ですがダンジョンがいっぱいできて、いっぱい魔物。国の人逃げた。王さまも、です」
「お、おお。首都を放棄したのかな? まあ黒い森に飲まれるくらいの位置だもんね、ここ。それってどれだけ前か知ってる?」
「どれだけ、いっぱい? おばあがおばあのおばあの代って言ってたから、いっぱい、です」
「あ、そう。あと無理して敬語で話さなくていいからね?」
「むりじゃないです」
すんごいキリっとした顔で返ってきた。なんで否定するときは流暢なんだよ。
「あらたな王さま、立つとき、我らの里も、王さまのもとに集う」
「いや、立ってないし、集われても困るし」
「……やはり王さま、はくしき」
「意味わかって使ってる? 会話あんまり成り立ってないよ?」
姿勢を正したまま、頭を下げる少女。
「わたしはアサヒ。さとで動ける数少ないもの、ます。ここから出ないと、さとほろぶ。出してもらうには、何をすればいい、です、か?」
「何をって、言われても」
「まあ例の魔法で誓ってもらえばよろしいのではないかと」
「ですわね。わたくしもバルバトス様の意見に賛成です」
「なんでも、します。王さま、おじひを」
なんでもと言われたので、宣誓魔法の魔道具を使うことにした。秘密順守、敵対不可、口外法度を宣誓させる。
効果がきちんと発動したのを確認できたので、牢からでてもらう。水をあげるとゴクゴクと飲んだ。
「その里に帰るのか?」
「王さまに、お願い、あります。ここを滅ぼせるほど、王さまたち、強い。さとに、ちからを」
「力をって言われてもね」
「……半年前にさと、地獣におそわれた。戦士たちも隠密たちも、等しく戦って、げきたいしたものの、みんなおおけが。結界も一部こわれた」
「結界か……どこにあるか分からないけど、この森の近くにあるなら結界が正常に作動してないと……」
「人の気配に魔物は敏感ですからな。すぐにその里は魔物に飲み込まれてしまいましょうぞ」
「戦えるひと、減った。はたけも……兄さまも姉さまも寝たきり。ユニコーンの角で、なんとかしのいでる。ます」
「貴重な品を使っておりますのね」
「うん、でも限界。ボク、わたしじゃユニコーン、狩れない。です」
黒い森の中でも生き続けた里か。すごいな。
「分かった。力を貸そう」
「我が主よ、よろしいので?」
「結界くらい直せるさ。それでバイバイだ」
「ふふ。お優しいですわね」
「王さま、ありがとう」
「王様じゃないけどねー」
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