第48話 SGS-12D
「ダンジョン攻略だー!」
「「 ぉー…… 」」
「テンション低いなおい!」
「そりゃあ低くもなるよ」
「そもそも虫だし」
父さんが見つけたのは洞窟型のダンジョン。シンプルに横穴になっている場所だ。
「ま、まあ見つけてしまったもんはしょうがないだろ? いくぞいくぞ」
父さんを先頭に兄さんとオレもダンジョンに入る。
他の人らがいるときは灯りが必要だけど、オレたち一家は夜目が効くからこのくらいの暗さならば必要ない。
「よし、クラフィ戦闘だな」
「まあ、いいけど」
ドリーおじが鍛え直してくれたナタを片手に先に進む。
早速奥から魔物、三本クワガタか、はさみが三本ある拳大のクワガタムシの魔物。結構格好いい。
「ふっ」
飛んできた三本クワガタにナタを振るって倒していく。数こそ多いが強くない。
「ナタの切れ味じゃねえな」
「いい武器持ってるなぁ。王都にはそんなもんまで売ってるのか」
「や、これは特注品。黒い森の魔物素材だよ」
「ああ、父さんに連れてかれたんだってな? 大変だったか」
「バカ疲れた……」
「大変なんだな」
「いや、お前も次の当番の時には連れて行くからな? 随分腕も上げてきたし、生存に関してはクラフィよりお前のが元々上だからな?」
「聞いてねえけど!?」
「今言った」
「今聞いたわ! あれだろ? ダンジョンの方に意識行ってて忘れてただろ!」
うん。そんな気がする。
「そそそそんなことねえし!」
「動揺しすぎだろ、子供かよ」
「父さん、フォローできないよ」
てか魔物、どんどん来てるからね?
「で、次の当番っていつなのさ」
兄さんがオレの横をすり抜けていった三本クワガタを剣で倒しつつ、父さんに聞いている。
「……明後日?」
「はや」
「うん、殴るわ」
「いいんじゃない?」
「はっはっはっはっー! まあお役目というのは突然くるものだよ!」
「「 嘘でしょ 」」
「はい、すいません」
父さん、ちゃんと働いて?
「あ、クラフィ。糸だ」
「あー。邪魔だね」
念動で蜘蛛の巣を壁に寄せる。ついでに地面のも引っこ抜いて壁にべちゃっとつける。
蜘蛛系の魔物の糸はそれだけで罠になりえる。父さんと兄さんだけだったら父さんが火の魔法で対処してたのかな?
糸を処理していくと視界が開ける。洞窟の先は広場のようになっているみたいだ。そこにいたのは案の定蜘蛛の魔物、大きいな。
「ビッグスパイダーだな。父さん、魔法で焼いちゃってよ」
「……なあ、クラフィ。なんかないか?」
「うん?」
「いや、こういった所でああいう手合いを相手にするのにいいもの持ってないかなーって」
父さん、なんかソワソワしてるかと思ったら。
「……なるほど、兄さんも巻き込むつもりか」
「いや、実際あのSBランスて剣はかなり有用だぞ? すらっぐ? もだ。ガイアもお役目に入るなら渡してやりたい」
「内緒にするんじゃ?」
「ガイアももう一人前だし! 家族だし! それにあそこまで便利だと、さすがにな。ガイアが簡単に死ぬとは思えないが、あれを持たせただけで怪我の危険性も減ると考えるとどうしてもな」
まあ確かに兄さんの生存率も確実にあがるだろうね。だが父さん、兄さんを心配しているように見せているが、オレは騙されないぞ。
「なるほど確かに。で、本音は?」
「もっと色々使ってみたい!」
「兄さーん! 面白いものあるよー!」
「あ! お前! ガイアにしか貸さない気だな!?」
「え? 何? どしたの?」
洞窟側が小さくてビッグスパイダーはこちらに糸を飛ばしてくるか、爪を伸ばしてくるくらいしか攻撃手段がなかった。
糸は念動魔法で壁に貼りつけて、爪は届かない位置まで下がれば無である。兄さんは父さん魔法はやくーと呟いているところだった。
「しょっとがんー!」
取り出したのは散弾銃『SGS-12D』だ。ソーサラー&ガンスミス社で開発された集弾性と貫通性、速射性に優れた銃である。
弾は七発、空になったら魔力を貯めることで再び使用可能なタイプで魔導核の交換がないモデルである。量産性と汎用性が重視されたこのモデルは、魔力量の乏しい者でも扱えるように少ない魔力量で充填できる仕様だ。ハンドガンやアサルトライフルと違い、使用される場所は限られているが、市街地や閉鎖空間などでは無類の強さを誇る一品である。
「絶対にオレの前に出ないでね」
「おおー!」
「お? おう?」
両手で構えて広場に突撃、中に突入した瞬間にビッグスパイダーがお出迎えだ。
爪を振り上げてこちらに攻撃を仕掛けてこようとするビッグスパイダーに、SGS-12Dの銃口が向けられる。
『ドパッ!』
音と共に、ビックスパイダーがバラバラに吹き飛ばされた。更にその奥に控えていたビッグスパイダーにも貫通した弾が襲い掛かり肉片と化す!
「うわっ! なんだそれ!?」
「おおー! すげー!」
たった一回引き金を引いただけで、一度に八十八発もの魔力弾が相手に襲い掛かるショットガンだ。ビックスパイダー程度の相手であれば、貫通した弾で二体も三体も倒すことが可能だ。
「ぐろ……」
「あ、うん。まあね」
体液をまき散らしながら吹き飛びつつもバラバラになる巨体の蜘蛛。そりゃあグロい光景にもなるわな。
「魔石がどこにあるかもわかんねえな」
「まとめて倒せるのはいいけど、素材回収もこれじゃあ難しいね」
「てかどう考えても過剰だろ。どんだけ危ねえもんを使ってるんだよ」
ぽかん、と兄さんに頭を叩かれた。
や、確かに言う通りですけど。
「でかいだけでEとかDランクの魔物なんか剣で十分だろ。父さんも一緒にはしゃいでんじゃないよ」
「「 申し訳ない 」」
普通に説教されました。すいません。
「なるほど。これは確かに便利だわ」
「でしょー?」
SGS-12Dを片手に構え、腰にはSBランスを携えた兄さん。
魔力の運用も少ないので父さんみたいにしっかりと魔法が使える人よりも兄さんみたいに魔力が少なく大規模な魔法が行えない人の方が、実はこれらの武器は運用が上手くなる傾向にある。
選択肢が少ないから。
「魔力のチャージはざっくり四秒か。その間は剣で守ればいいし、こいつの効果範囲から考えればそこまで接近される前にチャージも終わるか」
説教をこちらにしてきつつも、物の有用性は理解してくれたようだ。
これ以上の情報は混乱を招くだけだからオレが転生者だとは言っていない。父さんと一緒に攻略したダンジョンで発見したものだということにしておいた。
「父さんも持ってるの?」
「剣はな。銃はもっと小さい奴だ」
「スラッグTCC-07だね。手のひらサイズ、とまではいかないけど今持ってるのと比較するとかなり小さいよ」
「こんなのを隠し持ってたんだな」
「村の連中を信用してない訳じゃないけど、まあ全員分あるわけじゃねえし。それに力のない奴でも使えるモンだからな」
全員分あるけど、力のない人でも使えるのは正解だ。
「だから普段は黒い森の管理小屋に隠してあるし、こっちには持ってこないんだよ」
話ながらも兄さんを先頭に、どんどんダンジョンの中を進んでいく。
SGS-12Dの威力を把握してからか、足取りがやや軽い。なんだかんだ言って気に入ってくれたようだ。
「確かに強力だね。どのレベルの魔物まで通じるかは試してみたいところだけど」
「ほんじゃ、丁度いいのと出会えそうだな」
兄さんを先頭に快進撃を続けていたオレたち。洞窟の中に不釣り合いな立派な門が現れた。
「ボスルーム、かな」
「いや、この規模のダンジョンならもう終点のはずだ。つまりマスタールームだな」
父さんが持っていた剣を鞘に戻して、飲み物を口にする。
オレたちもそれに合わせて水を口に含んだ。軽い休憩だな。
「このダンジョンはコアじゃなくてマスターの管理下のダンジョンだ。ガイア、理由は?」
「虫の魔物しかいないから」
「そうだ。コアだったらコアが生成された時に周辺にいた魔物をダンジョン内に生み出す。そこに統一性はあっても、全種類が虫ってのはありえない」
父さんの言葉に兄さんもオレも頷く。
「じゃあクラフィ、ここにいるマスターは何だと思う?」
「え? 断定できるの? ちょっと待って。考える!」
「おう」
魔物は昆虫系。黒蟻虫人だったらたぶん蟻しかでてこないダンジョンになってたはず。蜂や蟻みたいな群れる虫ではない。けど虫を増やすか、虫を食べるマスター?
「インセクトイーター!」
「ちげーよ、なんで植物の魔物になるんだよ」
「や、虫を出すのは食べるからかな、って」
「斜め上の答えだからなそれ。ガイアは分るか?」
「サモナーパピヨンかな?」
「正解! だと思うぞ」
「サモナーパピヨンって、Cランクのあいつか」
人と同じくらいの紫色の羽をもった蝶の魔物だ。飛びながら鱗粉を振りまいて移動をし、自分の鱗粉のかかった虫の魔物を召喚魔法で召喚することのできる魔物だ。
自分よりも弱い魔物しか呼び出せないから召喚する魔物もたかがしれているし、何故か虫以外の魔物は呼び出せない。そのうえ召喚魔法だから時間もかかる。Cランク扱いなのは魔石がCランクだからであって、強さはDランククラスである悲しい虫の魔物だ。
「一応マスターになってると強さのランクが二段階くらい上がるから気を付けろ。戦闘中に何を出すかわかんねえしな」
「はいはい」
「はーい」
軽い休憩と父さんのダンジョン授業も終わりのようだ。父さんが扉に手をかける。
「開けるぞ」
「おう」
「うん」
父さんが扉をあけ、兄さんが先行して中に入る。
そこには兄さんの予想通り、サモナーパピヨンが『ドパン!』……いた。死んだ。
「おお、やっぱつええわ」
「はやぁ」
「召喚系の魔物には何もさせちゃいけねーからな。お、魔石無事じゃんラッキー」
「風情も何もないね……」
武器を渡したのはオレだけどさ。
マスターを倒したのでダンジョンの中を調査する時間だ。残っている魔物を倒したり、横穴が開いていて別のダンジョンに続いていたり、実は有用な鉱石が取れる場所があったりと調べることはある。
一通り確認したうえで有用なものは特に発見できなかったので、あとは村長に報告である。
黒蟻虫人の巣と同様に他の魔物の巣になったり、新しいダンジョンになったりしないように潰さないといけない。
土系統の魔法が得意な面々を集めてきて埋めたり、爆裂魔法が得意な人が吹き飛ばしたりだ。
「よし、帰るか」
「これ、貰っていいのか?」
「うん。気を付けてつかってね」
「ああ、正直助かるわ。黒い森でしか使っちゃダメ、なんだよな」
「別にいいけど、人に見られたら上手く誤魔化してよ? オレは知らないからね」
「なんかオレの時と扱いがちがくね?」
「父さんは父さんだから」
「どういう意味だオイ!」
しっかり者とお調子者の違いです。
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