第43話 HD-777とレイブンクロー9

「最高の立地じゃないか!」

「おめでとうございます、我が主よ」

「おめでとうございます。ですが、流石にあの数は簡単ではありませんわね」


 森や湿原、開けた荒野など黒い森といっても様々な顔を見せてくれた。荒野なんかはいけるかと思ったけど、魔力測定の結果が悪かったから断念。

 二人を覚醒させて共に黒い森の中を徘徊しつづけること一週間。サイバロッサ領都に顔をだすのはいつにしようかなと考え始めていたころに、そこを見つけた。


「まさかこの森に文明の跡があるとは思わなんだですな」

「明らかに街、崩れておりますが城でございますわ」

「森に飲まれる前に国があったのかもしれないね。まあそんなことはどうでもいい」


 建物の跡があり、それらが雑にだが整備されている。住んでいるものがいるのだ。


「緑の血族ですか。これほどの規模の群れはもはや国家と変わりませんな」

「ゴブリンにホブゴブリンくらいでしたら見たことがありますたけど、グランドゴブリンにブラックゴブリン。上位種って本当におりますのね」

「それぞれの種に職業持ちが見受けられますな。これはなかなかに骨が折れますぞ」

「奥の山から覗きたいな。そっちに移動するよ」

「「 はっ! 」」


 もはや慣れ親しんできた気合の入った返事を無視して、空間跳躍のための扉を生み出す。

 そこを通り、山の上から城をのぞき込んだ。

 手のひらサイズの単眼鏡『ウォッチャー8000』を使い城までの距離を測定。城下町は半径十キロってところか? さすがにウォッチャー8000の測定圏外だ。

 山間に作られた街にしては、随分と平地の条件が良いな。


「山がかなり近いな」

 しかも高い。雲のせいで山頂が見えないからウォッチャー8000でも距離が測れない。とにかく千メートルは確実に超えている。


「背後からの敵襲を防ぐためですな。山自体が自然の障壁となるように城を建てたのでしょう。山のそこら中に櫓が立てられていたはずですぞ」

「こんなに都合のいい場所がありますのね」

「どうでしょうな。土属性の魔法使いがいればある程度の整地は行えますから」

「ああ、自分らで用意したのか」

「可能性は十分あるかと」


 そして何らかの理由で滅んだと。ダンジョンが乱立したからか、それともその前に何かあったか。理由は不明だけど、魔力測定の結果は花丸だ。

 しかも山から流れる水源まである。完璧ではないのだろうか?


「攻略するか」

「城攻めですな!!」

「え? 三人ですわよ?」


 そうだけど、時間を掛ければいけないことはないと思う。


「まず、そうだな。二人には新しい武器を覚えてもらおうか」

「新しい」

「武器、ですの?」


 戦闘車両が使えれば早く攻略はできるだが、三人では運用人数が圧倒的に足りない。

 車両の運転も付属の武器の操作も複雑だ。ちょっと教えた程度で覚えられるものではない。サポートドローンは軍規則により戦闘に参加ができないようになっているからあてにはできない。アンドロイドであれば可能だったのだが、まあ言ってもしょうがない。


「オレが使っていた銃の類似品。まあ遠距離攻撃が可能な武器だ」


 少人数でこういった基地の攻略をするのであれば、そういったものよりも確実に敵を減らす武器を選択するのが軍人だ。


「結界をしいて箱庭にいこう。二人にはそれぞれの適正にあった武器を覚えてもらう。大丈夫、目標を決めて引き金を引くだけだから」


 肉体強化処理が行われたうえで、二人とも騎士という戦う人種だ。もちろん適性があるだろうけど、十分に扱えるだろう。

 今日から武器の習熟だ。

 しばらくの間は箱庭の試射場で練習してもらうことになるな。






「準備完了ですわ」

「そうか。それでは開始してくれ」

「ほっほっほっ、腕がなりますな」


 開幕のベルを鳴らすのはベアトリーチェだ。

 彼女が肩に担ぐのは魔導ランチャー『HD-777』というミサイルランチャータイプの魔導銃だ。

 これはKIRISIMAが開発した魔導ミサイル兵器。スコープごしに標的を視認、脳波と連動してロックオンをかけてトリガーを引けば誘導性能の高い魔導ミサイルが標的をに向かって飛んでいくのだ。

 一度に十二発の弾を発射できるようになっており、また単体の目標に多重ロックすることも可能。射程は約八百メートル。目標に着弾後、直径約十一メートルの爆発が発生し相手を文字通り爆散させるミサイル兵器である。

 発射口が上部から斜めについているので、屋根や天井のある場所では運用ができない。また本体重量が百キログラム以上あるため、運用時には身体強化魔法と併用することが勧められている。


「発射ですわ!」

「確認しなくていいから。どんどん行こう」


 一度発射したら魔導核が空になるのでリロードが必要だ。撃ちださせてリロードが終わるころには先に撃ったミサイルは標的に着弾しているので、同じターゲットに複数発射させる心配はない。魔力が充填されている魔導核には限界があるが、まあ一万個以上あるから足りるはずだ。


「ふふふふふ、ははははは! まるで大魔法使いになったようですのよ! 吹き飛びなさい!」

「ミサイルハイになってやがる……」


 室外にいたゴブリン的な何かにミサイルは当たり、爆発で周辺のものを巻き込んで次々と敵を減らしていく。長い年月の中でもろくなっていたであろう城壁や天井、床もろとも破壊していく。


「では私も。少々爆炎が邪魔ですな」


 そう言いながらも地に伏せて武器を構え、スコープを覗きこむバルバトス。彼が構えるのはスナイパーライフル。『レイブンクロー9』である。

 このスナイパーライフルは人類が持ちうるスナイパーライフルの最高傑作と言われた『轟雷Ⅹ』の量産品である。軍が開発した轟雷Xを元に、スラッグ社に委託生産が任された。

 量産品のため轟雷Xよりも射程はやや短く弾速も低下。しかし運用魔力の低下や貫通エンチャントの向上などもあり改善された点もある。コスト的にも量産品らしい値段の仕上がりで、スラッグ社を指名した兵器開発部もにっこりの品物である。


「一つ……二つ……三つ……四つ」


 口に出して言っているのは、放った弾丸の数だ。八発で弾切れになる。空になったら魔導核を交換してリロードしなければならないのは他の火器と同様だ。

 バルバトスにはベアトリーチェのHD-777の射程では届かない敵を中心に狙撃してもらっている。

 スナイパーライフルであるレイブンクロー9の射程は驚異の三千五百十一メートル。さらにスコープにはズームが六倍でついている。

 撃ちだされる魔弾は風や重力の影響を受けず、強い貫通性能であらゆる生き物の命を貫くのだ。


「くっくっくっ、逃げられると思うなよ」

「こちらはスナイピングハイ……気づいた魔物がいるな」


 HD-777はかなり目立つ。レイブンクロー9も命中精度が落ちるからサイレンサーなどは付けていないので音がそれなりに響く。

 そうなると近辺の魔物の目を引くので、ここで二人の護衛をするのがオレの役割だ。

 体が小さいせいで反動が強い武器を連続して使うのね。

 アサルトライフルのスラッグAS900を連射モードにし、近づいてくる敵を倒していく。オレの手が回らなくなったら、使役札の出番だ。


「さて、どれだけ削れるかな」


 たまにウォッチャー8000で敵の位置を確認したりして、攻撃を集中させる位置を変更する。時には空間跳躍を用いて攻撃地点自体を変更だ。





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