第44話 ES-66
「ほら、ミサイルはもう終わり。切り替えるよ」
「ま、まだこの子が撃ち足りないと言っておりますわ!」
「誘導弾は運用が難しいからダメです」
ロックした先に飛び、そこで爆発を生み出すミサイル兵器は確かに便利だ。だがロックした相手が動けばミサイルの軌道が変わる危険性がある。
ミサイルを背中にこちらに走りこんでくる魔物がいないとも限らないのだ。これから眼下の城跡地に向かうから敵との距離が近くなるのでこれ以上の運用は危険である。
HD-777を回収し空間庫に仕舞う。代わりに新しい武器を取り出してベアトリーチェに渡した。
「もっと援護をと思わないでもないですが、仕方ありませんな」
「三人しかいないからね。殲滅に入るにも慎重にいかないといけない」
こちらもレイブンクロー9を取り上げたので残念そうに言うバルバトス。
眼下に広がるのは煙をそこら中から上げる荒廃した元古城。もはや原型はとどめていない。
「まだゴブリンはかなりいるが、戦意は残ってるかな」
「人であればすでに逃げておりますでしょう。スコープ越しに見ていても逃げ出す個体はかなり多かったようではございますが」
「統率している魔物を仕留められたかどうかですわね。わたくしは相手の立場までは認識できておりませんので」
「『王』やそれに位置するゴブリンですな? 私も狙撃に夢中でしたので」
「や、お前は見れただろ」
レイブンクロー9のズーム機能舐めんなよ?
ウォッチャー8000の視覚補助を魔力視覚に切り替える。壁越しだろうとも魔物の位置がこれで分かるので、隠れている魔物を見つけ出してそちらに向かって指をさす。
「まず一発」
「発射します!」
オレの指さす方向へベアトリーチェが砲身を向けて引き金を引く。
発射された魔導弾は着弾後大爆発! 隠れているゴブリンは悲鳴も残さず周りの瓦礫ごとバラバラに吹き飛ばされていく。
彼女に持たせているのはロケットランチャー『ES-66』。軍の兵器開発部とES連合社により共同開発された品だ。
速射性と連射性に優れ、弾速も早く着弾時の爆発範囲も38メートルと非常に大きい。
射程も二千八百メートルと長く、スコープにはズームも付いているので遠距離での運用にも優れている。こちらも魔導核交換のリロード方式だ。
「……これはこれで……いえ、さっきのミサイルよりも」
「爆発に快感を覚える人は一定数いるけどさぁ。てか試し打ちは何回もしたじゃない」
「訓練時は標的が的でしたし、それにヘッドホンもしておりましたの」
「……そんなに違うかなぁ」
「全然違いますわ! うふふふふふふへへへへへ」
嫁入り前の女性がしていい表情ではない。
「まったく。まだ戦闘中だというのに」
「普段『ほっほっほっ』て笑ってる人も『くっくっくっ』に変わってたけどね」
「……ほっほっほっほっ」
なかったことにするらしい。
「次」
「はっ!」
「浅い、追撃二発」
「はっ!」
ウォッチャー8000で敵の位置を確認し続けて、ES-66で爆発。確実に敵の数を減らしつつ、古城エリアへ。足元が崩れやすくなっているかもしれないので、バルバトスの先導を元に慎重に進む。
魔力を隠して運用できる相手だとウォッチャー8000では捕捉できないが、ゴブリン系列の魔物でそういった技能を持っている魔物は今のところでてきていない。護衛役のバルバトスが若干暇そうである。
「到着だ。隠れているのはいなそうかな」
城を目の前に、ウォッチャー8000で確認。城内の中央あたりには魔物がまだいるな。
「雷纏う狼の式、起動」
KIRISIMA製の護符を五枚引きちぎって投げる。一枚当たり三体、十五体の青白い雷を纏った狼の使役獣が生まれた。
「すべての魔物を片付けろ」
「「「 ワン! 」」」
オレの指示に従い城内へ狼たちは散らばっていく。こっちはこれでいいだろう。
「じゃあ街の中央へ向かおうか」
「城を落とすのではないのですか?」
「人間同士の戦争じゃないからね」
指導者を捕まえるなり倒すなりが目的であれば城を攻めるのが目的になるだろうけど、今回は単純に魔物の駆除が目的だ。
城とその一部だと思われる場所を背にして、街だった場所に足を運ぶ。
ゴブリンたちがある程度整備をして使っていたらしく、木々に飲み込まれていないのが幸いだな。
「というか流石に片付けたのか。引っこ抜いたりした形跡があるし」
木々に飲まれた街だったのかもしれない。それらを撤去した形跡があった。建物を修復した気配はないが、彼らが住むには十分だったのだろう。
「それなりに高い建造物が多いな」
「ええ。これより先はより慎重に進んだ方がよろしいかと」
「とりあえず発射」
「はっ!」
先ほどと同様に指差しでロケラン指示を出す。
城よりも城下町の方がゴミゴミしているので、隠れているゴブリン種が多いな。
連続して起こる爆発と、吹き飛び崩れる建造物。それに巻き込まれる魔物も多そうだ。
「ここらへんかな」
「山側から見た限りですが、あちらの高い建物がやや南西でしたからな」
「もう到着ですの?」
目的地に到着。そこは城を含めたこの平地の中心に近い位置である。
「そういうこと、しばらくしたら掃討戦に移行するけどまずは準備させて」
オレは近くに散らばっていた瓦礫やゴブリン連中の肉片、彼らの持ち物などあらゆるものを念動で動かして場所を確保。
そこに3Dプリンタで用意した祭壇のような台座を空間庫から取り出して配置した。
中央部分には巨大な魔導核。宇宙イカから取り出した巨大で高純度の魔石から作り上げた傑作である。
台座の四方にも同じく魔導核だ。こちらは別の役割なので大きさもこぶし大より大きい程度、だがこれも高純度の上質な魔導核なのは変わらない。
「えっと、まずこのボタンを押して……次はこっち、それで次はこっち」
いくつかのボタンを押して魔力を流すと台座に魔力が走り、魔導核がうっすらと光を帯びて作動を始めた。
「なんと」
「美しい光景ですわ」
魔導核から小さな波動が生まれ、その波動が街を通過していく。城も含んだ街の外。それこそ森の一部にまで及んだその波動は徐々に上空へと持ち上がり、魔導核を中心に半径五キロの地点に光の壁を生み出した。
「おお、素晴らしい」
「これが魔物除けの結界ですのね。発動する瞬間を見たのは初めてですわ」
「とはいえ問題もあるけどね」
外から魔物がくる心配はこれでなくなったが、まだ結界の内側には大量のゴブリン系列の魔物がいるだろうから。
「さて、ここからは掃討戦だ。結界の設定は中から外は無効になってるから逃げる奴は追わなくていいけど、結界内にとどまってるやつらは全部倒さないといけない」
「……この広さですと時間がかかりそうですわね」
「まずは城の上。あそこを調べて大丈夫そうならミサイルとロケランブッパして数を減らす」
「喜んでですの!」
「結界のかなめの警備はよろしいのですか? ここが破壊されたら結界が消えてしまうのですよね」
「あ、そうだ。こいつを守る魔導核を稼働させないとだ」
台座側の四方に取り付けられた魔導核も起動させる。これは巨大な結界の魔導核を守る障壁を生み出す魔導核である。
ナイスだバルバトス。
「空間跳躍で移動するよ」
「では私は街に残ってでゴブリンどもを片付けるとしましょう」
「え? 今からミサイルやらロケランの弾とかが上から飛んでくるよ」
何言ってるの?
「それも修行でしょう。何、直接狙われなければ当たることもありますまい」
「爆発範囲にいるだけで致命傷になるからダメです」
許可が下りると思ってたのかこいつは。
「レイブンクロー9で狙撃してください」
「むう、仕方ありませんな」
「あとでウォッチャー8000を渡して見回りをしてもらうけど、まだダメ」
その後、雷纏う狼の式を作動させて街に放った。
この日は夕方になるまで狙撃を続けた。
翌日には結界内に空撮ドローンを飛ばして魔物の確認、大きな町だったからか地下なんかもあって魔物をすべて片付けるには更に一日かかるのであった。
======
カクヨムコン10に応募中です。
作品のフォローと☆レビューが順位に関係してそうな噂を聞くので、それらが欲しいです。ぜひお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます