第34話 先輩方の話

「スープの味が薄いな。だが具はそれなりだ。肉はあんまりないが」

「配給の食事だから仕方ないわよ。パンまであるのは良心的じゃない? それにほら! こんなに大きいわよ?」

「自分はこれじゃ足りんな。どこかに獲物がいないものか」

「この行列に近づいてくる魔物はいないんじゃないかなぁ」

「ふふーん、ちゃんと準備してるわよ!」


 ブレンダが一人勝ち誇ったような顔をしているが、そうではない。


「え? 何、その顔」

「初日の夜から備蓄に手を出しちゃうのはダメよ?」


 とミラさん。


「え? え?」


 困惑するブレンダ。


「保存の効かないものなら逆に食べちゃわないとだけどね。そんなの持ってこないでしょ?」

「そ、そりゃあ当たり前よ!」

「そういうのは後のためにとっておかないと」


 均等化された近代の軍ではないのだ。いつ食事にありつけられなくなるか分からない。自分の懐の抑えられるなら抑えた方がいい。


「少し離れたところに森が見えている。そこにいけば何かいるのではないか?」

「食いでのあるやつがいる森ならいいけど」

「森での狩りは正直苦手だ。できる奴に任せる。何人か向かってるみたいだし行ってもいいんだろ」

「一応許可取りはしておいた方がいいかもしれないわね」

「ならそちらを頼む。自分と、そうだな。ブレンダと行こう」

「あたし!? 別にいいけど」

「オレはいいの?」

「お前とは初対面だからな。まだ荷物を預けられるほどこちらを信頼できないだろ?」


 なくなっても場所は分かるようにしてあるけど、まあ確かに。


「……了解、楽しみに待ってるよ」

「ふん! 大物を期待しておきなさいよね!」

「大物、いるかしら?」

「「 いないだろ 」」

「なんなのよ!」

「いや、だって町近いし」


 そんな叫ばれても、いないものはいない。




「ランブレスバードだ。運よく二羽狩れた。それとコウモリ蛇。ランプレスバードの血抜きだけはしっかりやっておいたぞ。蛇は獲れたてだ」

「おおー」


 ランプレスバードは背の高い木々の生えた森に住む鳥の魔物。コウモリ蛇は名前の通りコウモリの羽をもった蛇である。どちらも毒もなく食べれる魔物だ。思ったよりもちゃんとした獲物を取ってきてびっくりである。


「うう、なんて地味な」

「うん?」

「だって巣穴見つけて、そこに襲い掛かっただけだし」

「狩りなんてそんなもんだよ」

「そうよ。下級のころにやってたでしょ?」

「そうだけど」

「それより解体だが……誰かできるか?」


 大人たちが首を横に振っている。


「こういう小物は苦手だ。食える箇所が減る」


 首を振っていない大男は得意ではないらしい。


「じゃあオレがやるよ。道具借りるね」

「おお、頼む。何がいる?」

「こいつらが乗るサイズのまな板と、あとそうだね。鍋とかある?」

「あるぞ」

「……グラムスはなんで自分で解体とかできないのにこんなに鍋とか持ってるのさ」


 しかもでかいし。


「でかい獲物ならできるからだ。それとできる奴に任せるため」


 そんな自信満々に言わなくても。


「まあいいや、薪もあるし。竈を作るか。フライパンは?」

「ある」

「貸して」


 こっちもでかいや。

 とりあえず竈二つか。念動魔法で地面を盛り上げて形を作る。土だから少し固めないとだな。


「土魔法か」

「や、無属性。元素系の魔法って苦手なんだよね」

「そうなのか?」


 話しながら首が落とされた状態のランプレスバードに念動をかけて、血を更に絞り出す。

 竈を作った際にできた穴にそれらを捨てる。


「羽いる?」

「いらん」

「いらねえなぁ」

「何かに使えるの?」

「矢羽に。まあ大きいやつだけだけど」

「いらないわねぇ」

「じゃ捨てちゃうよ。てか食べれる部分以外捨てちゃっていい?」

「構わん」

「いいわよ」


 獲ってきた二人が首を縦に振ったので捨てることに。


「りょうかい。あ、薪に火を誰かつけといて。鍋を温めるから」

「あいあい。火つけるさ」

「水、使う?」

「魔法の水筒から出すからいいよ」


 腰にぶら下げた竹筒の水筒を見せる。


「量を気にしなくていいの? 結構なものを持ってるわねぇ」

「材料さえ用意すれば、作ってくれる知り合いがいるので」


 ばあちゃんがそうだ。さすがに魔導核で作ったこいつと比較したら少ないけど。


「結構高いわよね、それ」

「使用者登録してあるからオレにしか使えません」

「そういう意味じゃないわよ! てかその作れる人紹介しなさいよね!」

「や、材料を用意するのが大変だろう」


 ばあちゃんに頼む場合はこの竹筒に入るサイズでかつ純度の高い水属性の魔石が必要になる。つまりAランクの水属性でしかも小型の魔物。だいたい水中に住んでるやつだから倒すのが大変である。


「道中水が足りなくなったら言ってね。提供するから」

「……それは助かるわ」

「「 似たようなの持ってるから平気だ 」」

「まあ量に制限はあるけど、まだ大丈夫そうね」

「ぐぬぬぬぬ」


 話しながらも解体を進めていく。まな板の上でバラしたランプレスバードの皮を剥ぎ、骨から肉を削いでいく。

 こっそりと手持ちのランプでクリーニングの魔法をかけた布の袋に、ランプレスバードの一番太い骨を骨同士でぶつけてヒビを入れてから入れる。二匹目も同様だ。沸騰している鍋に骨を入れて出汁をとるのである。


「手早いな。というかちょくちょく色々浮かんでるんだが」

「念動の魔法だよ。一度に作業するには便利なんだよね」

「お、おう」

「さすがイセリナ様に目を掛けられてるだけあるわね」

「ふん」

「……腹、減った」


 一人語彙力が落ちてきてる。あんまり時間がかけられなそうだから手早くやろう。


「蛇は焼くか」


 スープに入れるには骨を取らないといけないから面倒なんだよね。各自でうまく処理してくれ。




「うまい」

「はぐはぐはぐはぐはぐはぐはぐはぐ」

「この味はなんだ? どこから出てきた」

「あ、流石に調味料は追加で投入したよ?」

「美味しいわ」


 パンが硬いのでスープで浸しながら食べる。

 配給品のスープがまだ余っていたらしいのでそれをもらい、鍋にぶち込んで水増しして薄切りにして軽く焼いたランプレスバードの肉とスティック状の固形調味料(コンソメ味)と塩を追加したものだ。

 コウモリ蛇は塩焼き。そっちはレイズさんが途中から代わってくれたので味付けは彼任せ。

 解体時にでたゴミはすべて土の中だ。竈もすでに崩してある。


「やっぱ熟成してない肉はうまみがいまいちだなぁ」

「そら獲れたてだから無理だろ。もっと魔素濃い魔物だったら関係なくなるが」

「熟成?」

「何それ」

「さあ……」

「もしかして、レイズさん以外料理しない感じ?」


 女性二人が頷いている。


「焼くくらいならできる」

「ワイルドだなぁ」


 グラムスはなんでも丸焼き派なんだろう。


「えっと、ミラさんも?」

「言うな」


 旦那さんからストップが入りました。


「しかし美味い。酒にもあうだろう」

「だな」

「あんた、冒険者じゃなくて料理人なんじゃないの?」

「確かに、こんな短い時間で簡単に料理ができるんですもの」


 どちらかと言えば解体の方が難しいですよ?


「みんなは王都出身かな? オレ、田舎の狩人の子だからこういうの滅茶苦茶仕込まれたんだよね」


 この言葉で納得してもらえる。結構便利だ。


「自分は南からだが。その熟成というのには興味がある。どういうものだ?」


 うーん、言っててなんだけどシステム的に詳しいとかそういうわけではないんだよな。


「干し肉って味濃いじゃない? それのこと」

「!」

「なるほど!」

「理解したわ!」

「や、いいのかその説明で……」

「伝わればいいのさ」


 納得してくれたみたいだしいいじゃん。






「盗難ねぇ。なんでバレるのにやるのかな」

「こういった場だと刑罰を決めるのは騎士団の上役だからな。鞭打ちで済まされるか、最前線送り。まあ殺されることはあるまい」


 移動三日目。なんでも盗難事件があったらしい。

 というか普段からあったらしいけどオレの耳に届いたのは今日が初めてだ。


「やっぱり注意しないといけないわね」

「面倒なんだけどな。ギルドの合同依頼でもたまにある」

「ここまで大人数の合同依頼なんか受けることないわよ」

「そりゃ流石に国とギルドじゃ規模が違うんじゃない?」


 ブレンダは合同依頼を受けたことがあるのかな?


「オレが前に受けたのはあれかなあ、しびれマンタのときの。王都の近くだったから日帰りだったけど」

「なんかあったらしいわね。終わった後に聞いたけど、あれも国の案件だったらしいじゃない?」


 ミラさんの耳には入っていたらしい。


「今回とは全然違うね。ギルドでの合同依頼ってあんな感じだと思ってた」


 オレの言葉にレイズさんが少しだけ笑った。


「ギルド主体の合同依頼は、もっと金銭的にうまみのある依頼が多いぞ」

「え? そうなの?」

「合同依頼ってのは国とか領主とか騎士団が、人手が欲しいからって金を出すもんだ。大貴族が募集してる場合もあるな。ダンジョン案件が多い」

「ダンジョン案件が多いんだ……」


 レイズさんが説明をしてくれる。


「領主や土地の貴族の仕事だからな。連中が管理している土地のダンジョンは連中のだ。ダンジョンってのは突然生まれるからそれが見つかった段階で依頼を出す貴族が多い。んで、規模が大きくなりがちなダンジョン案件は合同依頼になることがほとんどだ」

「まあ放置はできないもんね」


 万が一氾濫でも起きたら、普通の村や町くらいなら簡単に滅ぼされてしまう。


「あとは無事に管理下におかれたダンジョンでの合同依頼だな。自分のところの専属部隊を作っている貴族もいるが……中の魔物の間引きとか、異常発生時の調査なんかは大がかりになることが多いからギルドが合同依頼にすることがある」

「あたし専用部隊に勧誘されたことあるわ。パスしたけど」


 スカウトも盛んらしい。


「それに対してギルド主体の合同依頼は、ギルドが人を出してでも大きく儲けが見込めるから出すもんが多いんだ」

「受けたことがあるの?」

「何度かな。ジュエルバイコーンの群れが見つかったときなんかは特に稼ぎが良かった」

「あれ、群れなんかあるんだ」


 魔物としてのランクは結構高いぞ? 足も速いし魔法も上手い魔物だ。


「確かに危険な手合いだったな。だからギルドも人を集めて合同依頼にしたんだ。ギルド主体の依頼にすればギルドに所属してるやつらは依頼を受けないと手をださなくなる。儲けを独占しやすくなるんだ。ジュエルバイコーンの場合は角が高く売れるからな。元々強い魔物で市場には流れにくい素材だ。値段はギルドが好きに決めれるんだよ」

「それは儲かりそうだねぇ」


 買取価格高かったからなぁ。


「怪我人死人も結構でたがな」

「ハイリスクハイリターンよねぇ。あたしみたいな回復組は待機してるだけで分け前貰えるから美味しいけど、前衛がしっかりしないと時間の無駄になることもあるのよねぇ」

「そういえば前衛がほぼ全滅したこともあったな」

「合同でやって全滅って……」


 損害がすごそうだ。


「む、連れてかれるな。前線送りらしい」

「連れていく側も大変よね」


 馬に乗って先行する兵士っぽい人が三組。それに引きずられるように手を縛られた男がランニングくらいの速度で去っていく。見せしめの意味もあるのかもしれないな。





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