第33話 冒険者として
「では行ってきます」
「ああ、気を付けてな。学園はこのまままとまった休みにするらしいから私は一度領に帰ることになるだろう。帰ってきたら屋敷に滞在してもいいが、領の屋敷に顔を出してくれても構わない」
「分かりました。道中そちらも気を付けてください」
「うむ」
フォルクスさんが出かけた翌日、オレも出発する日がやってきた。お嬢様や使用人に護衛チームのみんなに見送られて屋敷をでる。
作り直したサイバロッサ家の騎士服に、上から温度調整と防刃防魔機能の付いたローブを羽織って大きなリュックを背負う。
それなりに大荷物を背負ってるけど、似たような人が多くいる。目的地は同じだろう。
王都の北門を抜けると、そのまま列に並ぶように指示される。
言われるがままに並んで、学園で渡された札を見せるとまた別の場所へと誘導された。
「こっちが冒険者チームですか」
八十人ほどの集団だ。みんな貴族に雇われた冒険者なのかな?
受付みたいな感じのところがあったのでそこに行って札を見せる。何度か顔と札を見比べられたから一応サイバロッサ家の名前を言いながらギルドカードを見せる。
6級冒険者ということもあり無事に手続き終了。出発の指示がでるまでしばらく待機してくれとのことだ。
「どっこいせ」
他の面々と同じように、リュックを下ろして地面に座る。やはり大荷物の人間が多い。
手荷物が少ない人は魔法の袋保持者か、チームで荷物を分散させているのかもしれない。
周りを観察していると、大きな影がオレに近づいてきた。
「……お前みたいな子供までいるのか」
「うん?」
そこにいたのはでかい男と表現するしかない男だ。うん、でかい。それにごつい。岩みたいな男だ。重厚だけど動きを阻害しなそうなスケイルメイルを装備している。三十代くらいかな? 金髪でオールバックな男だ。
「ま、仕事なんでね。そっちもでしょ?」
「……まあ、そうだな」
立ち上がって手を前にだす。向こうは少しばかり表情を曇らせたが、握手に応じてくれた。
「ほう?」
「クラッドフィールド、6級だよ。よろしく」
「グラムス、3級だ。侮って悪かったクラッドフィールド」
「いいって。子供なのは事実だし」
「訓練だけでなく実戦も潜り抜けているようだな」
「まあね」
知らない人だけど、だからこそ貴族とかのしがらみがないから普通にしゃべれる。楽だなぁ。
「一人か?」
「そだね。一応別のチームに同じ貴族の護衛仲間がいるけど、この規模だと合流は難しそうかな。そっちは?」
昨日先に出発したフォルクスさんがいる。
「自分も一人だ。良ければ組まないか?」
「いいね。見張りとか交互にできる人探さないとって思ってたんだよね」
お互いの荷物とかを守れるからね。とはいえグラムスは鎧こそ着込んでるけど、短剣しか持っていない。
「心配いらない。魔法の袋を持ってる」
「いいなぁ。けどいいの? そんなこと言って」
「盗れるのなら持っていけばよいさ。盗れるならな」
そしてニヒルに笑う。どうやら腕っぷしで守るようだ。
「他にも声をかける感じ?」
「そうだな。何度か仕事を一緒にした顔がいくつかいる。ついでに紹介しよう」
「助かるよ。オレは知り合いいなくってさ」
リュックを背負いなおして、グラムスについていく。片手をあげて挨拶を男女二人組にしているようだ。
向こうはそれに気づいて同じように返事をしている。
女性は別の方向にも手招きをしていた。向こうもチームのために勧誘をしていたようだ。
「レイズ=ハーシェル、5級だ」
「私はミラ=ハーシェルよ。同じく5級、よろしくね」
二人組はご夫婦の冒険者らしい。二十代半ばくらいの二人組だ。
ざっくばらんに切り分けられた、肩までつくくらいの髪に無精ひげの男性。それと銀髪で人の好さそうな笑顔をしている女性だ。
「……声かけてもらえたのは助かったけどさ、なんで子供連れ?」
「ブレンダ、先に挨拶だ」
「6級のブレンダよ、獲物はこれ」
へそ出しタンクトップにデニムっぽい生地の太もも丸出しのパンツルック。いかにも素早く動きますといった見た目の赤い髪の女の子だ。でも荷物はオレと同じ感じだから窮屈そう。
腰に吊るした剣を二本見せてくる。長さが同じだし、両手で二本扱うのかな?
「グラムス、3級だ」
「クラッドフィールド。6級だよ」
「6!? あんたみたいなガキがあたしと同じわけ!?」
「まあ」
「うそでしょ!? なんか不正でもしたわけ!? だいたいあんたなんか見たことないんだけど!?」
「いきなりご挨拶だな……こっちに来たのは春からだよ」
とはいえ否定できないところが恐ろしい。
「イセリナ様と良く話をされてますよね? 何度か見たことあったから気になってたのよ。クラフィくんって呼んでも?」
「構いません。そうですね、イセリナさんには良くしてもらっています」
主に買取価格の面で。
「イセリナさんがぁ? あの人に目を掛けられてる子供ぉ?」
そんなのぞき込まれても困りますが。
「実はイセリナさんの隠し子とか?」
「耳を見なさい耳を。つうか似てる要素ある? それと隠す意味よ」
エルフと呼ばれる人種は耳は尖っている。あれは精霊付きが先祖にいる証拠だ。
星の魔力循環を司る山脈や巨木、海流の近くに住んでいるとそういう種が生まれることがある。人類の亜種とも進化種とも言われていて、人よりも寿命の長く能力が優れている場合がほとんどだ。転生前にも何度か見たことがある。精霊が豊富すぎてエルフしか住んでいない星もあったらしい。
「そうよブレンダちゃん。それにイセリナ様にも失礼よー?」
「むう、でも6級……ほんとに?」
「カードでも見せれば納得しますか?」
そういってポケットに手を入れてギルドカードを取り出して見せた。
「ほんとに6だ、負けた」
「勝ち負けなん? それと引き分けでは?」
「この子、結構苦労して6級に上がってるから」
オレ、手に入れたときから6級でした。なんかすいません。
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