第29話 箱庭内の発展
「散々な目に遭ったなぁ」
カルロスさんとの模擬戦のあと、サンドフェルズ家の他の護衛とも模擬戦をさせられる羽目に。
それが終わったらカリンカさんとの合同訓練。
いきなりコンビネーションをとか言われても合う訳ないでしょ。
そして夕方になり、サンドフェルズ家御一行様が帰られたのでオレも解放されました。
「まあ、とりあえずいいでしょう」
今後、うちのお嬢様とイヴリン様が冒険者仲間として活動される際にはかりだされるのが決定してしまった。
とはいえその回数は多くないはずだ。
「ダンスの先生が決まりましたからね」
以前に打診してもらっていたお嬢様にダンスを教える先生がとうとう決まったのだ。授業の課題をクリアできたといってもお嬢様のダンスはまだまだ拙いレベル。
今後は社交界も増えていくそうなので、ダンスレッスンは必須。お嬢様のプライベートな時間はガシガシ減っていくのであった。
「そんなことより、こちらの開発が進みましたね!」
いまいるのは箱庭の中だ。自室に鍵をかけ、そこで入口を繋いだ。念のため箱庭の入り口を極限まで小さくして目立たないようにしている。
オレが箱庭に入ると、消えていた明かりがどんどんとつき始めた。普段は節電のため消えているのだ。
魔導核から電力を生み出しているので、魔導核に魔力をチャージする。いまのところ控えの魔導核もたくさんあるし自分の魔力で補填できる範囲ではあるが、施設が増えれば増えるほど厳しくなるのは目に見えている。
いずれは魔力充填装置を箱庭の外に設置したいが、魔力が豊富でかつ安全な場所というのはなかなか見つからない。というか見つけに行く時間がない。
ドローン達も気が付けば50機。作成する施設がなくなったら余らせるかもしれないが、プログラムを変更して別の仕事をさせればいいし、それでも余るなら空間庫にポイである。
「まずは解体と、熟成……肉の管理ドローンだな」
魔物の死体がとにかく多い。なんなら統一宇宙軍時代のものもあったりする。
「まあ宇宙イルカも宇宙イカもないけど。でかすぎて空間庫はいんねえし」
宙域で生活をしていた魔物だ。汚染が酷くて口にできない。除染したうえで毒素を抜けば食べられるが、そこまでしても『食べられる』レベルであって『美味しい食材』ではない。
「魔石だけ抜いてぽいだったからなぁ」
どちらもキロ単位の大きさの魔物である。通常であれば宙域空間で解体用にプログラムされたドローンが必要な部位を切り出したうえで、必要な部位だけを除染装置へ入れていた。
ちなみに除染したうえでイカはくちばしと吸盤が、イルカは歯と皮と骨が素材となっていた。持ってはいるがどちらも今は使い道がない。
「……そもそも除染施設がないや」
どちらも巨大だから相応のサイズの除染施設が必要になる。それぞれの魔石はやはり巨大で、宇宙艦で使われるレベルの魔導核に加工できるのが魅力的だ。とはいえやはり使い道がない。使うとしたら都市を守るサイズの結界石にするくらいか?
「まあやれる範囲でやりますか」
解体用にプログラムを書き換えたドローンを解体場に六機配置。同じく専用プログラムに書き換えたものを熟成場に二機、通常保管庫と冷凍保管庫、それに特殊物兼危険物保管庫にもそれぞれ二体配置だ。
「作業ドローンと清掃ドローンは分けたいな。ドローンを追加するか」
解体用にプログラムを書き換えたドローンにさっそく仕事を与える。魔物の死体を解体待ち区域に適当に積み上げておけばいい。あまり多く出しておくと解体が追いつかずに腐敗が進んでしまうのでとりあえず小物を百くらいだしておこう。
ドローンは死体を持ち上げ作業台スペースに魔物を移動させる。そこで魔物をスキャンし、体内の構造を調べ上げるのだ。
さらに解体用のプログラムには兆を超える種類の生き物の解体方法がインストールされている。それらの膨大なデータから最適な解体方法を調べ上げ、丁寧に解体をして極力処分する部位を減らしていく。
それでも不要になる部分は肥料にされるため、基本的に魔物に捨てる部分はないのである。
「肥料も使えるようにしたいなぁ」
魔物のあまり部位で作られた肥料は魔素をふんだんに含んでいるため、普通の農作物の味を良くするのだ。まあ過剰にあげると農作物が魔物化したりするからあげすぎ注意だが。
とはいえ現在はファームエリア自体を作っていない。囲いなどで区画を分けたうえで土を入れないといけないので後回しにしているのだった。さすがにただの土は空間庫に入っていない。岩ならいくつかあるんだけどね。
次に向かったのが試射場。武器の試し打ち場所である。
統一宇宙軍時代の艦長職につく前は前線勤務が多かったので、様々な武器を扱っていた。
だが当時と比較して体が小さく、手足の長さも違う。筋力も全然だ。
魔力の最大値はかなり上がっているので当時よりも優っている部分はあるが、統一宇宙軍時代に使っていた武器は大半が支給品。つまり誰でも使えるように作られている武器だから魔力の大小は大きな差にはつながらない。
魔力が高いから有利になるのはリロードの回数とかで差がでるか、一部の特殊な武器がつかえるかくらいのものだ。
「とりあえずハンドガンだな」
スラッグTCC-06と07だ。他のメーカーのハンドガンもあるが、数が一番多いこいつらを使うのが一番だ。
スラッグTCC-06を構えてターゲットに向かって構える。こいつの有効射程距離は約55メートルだが、そこまで距離を取って使う武器ではない。15メートルほどの距離に的をだして、そこに向かって引き金を引き絞った。
顔、肩、体の中心、心臓の位置、それぞれに弾を打ち込んでいく。21発撃ち終わったら弾倉を交換、再び撃つ。
やはり連続して撃つと腕と肩に負担がくるな。子供の体は難儀なものだ。
「掃除もするか」
スラッグTCC-06は黒い森で使ったままだったのでメンテナンスをしていなかった。
過去に使われていたという火薬式の銃と違い汚れなんかはほとんどでないからメンテナンスの必要はあまりないが、たまに綺麗にしてあげたほうが長持ちするし気持ちがいい。
部品ごとに分けてクリーナーに入れておけば綺麗にしてくれる。
「さて、その間に次だ」
ハンドガンは要人警護の任務なんかに装備していくのが多かったが、任務で一番使ったのはアサルトライフルだ。
手持ちのアサルトライフルはで数があるのはスラッグAS900とSGS-08Aの二種類。
SGS-08Aは屋内戦や森林などで多く使われたもので、スラッグAS900は屋外戦で多く使われた。
威力と射程はスラッグAS900のが優れていたため、オレはこっちの方が好みだった。
「こっちのがきついんだろうなぁ」
威力が高い分反動が強い。とはいえ咄嗟に取り出して使うのはおそらくスラッグAS900だ。こちらをしっかりと試しておこう。
「ターゲットは、とりあえず100メートル地点にだすか」
アサルトライフルはハンドガンと違い速射性も連射性も射程も威力もすべてにおいて圧倒的に優れている。こいつの有効射程距離は500メートルとメーカー発表、スコープもついているからその距離までしっかりと狙いをつけることも可能だ。
まあハンドガンもオプションでスコープはつけられるが、重くなるから好きじゃない。
「では……まずは単発で」
トリガーの近くにある切り替えスイッチを下げて単発モードにする。スコープを覗きながら撃つ!
狙いからかなりズレた。
「かなりズレたな。モニター表示」
オレが銃を構えた姿がモニターに表示される。射撃をした瞬間をスロー再生、体がかなり後ろに押されているのが分かる。
「ひどいな」
自分のことだが、反動に負けすぎである。
「過重魔法の負荷を上げるか? でもあまり上げすぎると体の成長に良くないしなぁ」
難しいところだ。小さなころから体に負担がかからない程度に過重魔法で負荷をかけているが、肉体への負荷を考えてそこまで重くかけてはいない。
「撃つときにだけあげるか? でも慣れていない重量では素早く動けないかもしれない」
銃を撃つということは戦闘中ということだ。当然咄嗟の動きというものが求められる場面もある。そんな時に過重魔法に足を引っ張られてはいけない。
「とりあえず、踏ん張るか」
原始的だが確実な解決方法である。
あとは靴を変えるとかだな。本当は軍用のブーツを履きたいところだけど、今は騎士服と一緒に支給された靴を履いているのだ。
無駄に統一されているので別のを履くと目立つんだよなぁ。滑り止めだけでも交換しようかな。
スラッグAS900でもこれだけブレが生じるんじゃ、スナイパーライフルや魔導ランチャーなんかはひどいことになりそうだ。
特に魔導ランチャーは変なところに飛んだら被害がでかい。黒い森の時は過重魔法を解除したうえで肉体強化までしていたので扱えたが、魔導ランチャーは万が一の事故が自爆につながるのだ。
過重魔法を解除し肉体強化魔法の倍率を上げたら単発、連射のどちらのモードでもしっかり使用することができた。
「でも筋肉痛になるから嫌なんだよなぁ」
肉体強化は長時間使用したり、強化倍率を極端に上げたりすると筋肉痛になる。できればこれに頼らないで使えるようになりたい。
その後手持ちのスナイパーライフルの『轟雷X』と魔導ランチャーの『ファブル視線誘導ランチャーM2』をそれぞれ試した。
やはり普通に使うには難しく、過重魔法を解除し肉体強化をしてようやく使えるレベルだ。
M2を撃った時なんか肩が脱臼したかと思ったよ。
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