第28話 お茶会へのご招待
「ほーっほっほっほっ! 本日はお招きいただき、感謝いたしますわ!」
「イヴリン嬢、よく来てくれた!」
前回の肉のダンジョンに向かった時は、発案がイヴリン様だったので彼女の屋敷で話し合いという名のお茶会が行われた。
しかし今回はこちらからの申し出、更に教えを乞う側である。招待しなければ失礼というもの、らしい。
何度もお手紙を書いては間違え、書いては書き直しを繰り返していたお嬢様。最終的にはマーサ様が頑張りました。
そんなマーサ様は本日、お嬢様の側付きでいらっしゃいます。侯爵家のご令嬢に失礼があったらまずいと、いつも以上に気合が入っています。
「クラッドフィールドくん。今日はよろしく」
「カリンカ様、ドレスもお似合いですね」
「ありがと、でもさまじゃなくていいわよ? いつものさん付けで構わないわ」
「そうなんですね?」
先輩冒険者として話を聞く以上カリンカさんも是非にとご招待を出したら、おめかししたカリンカさんが登場しました。
この辺は前もって聞いていました。なのでイヴリン様のお出迎えはお嬢様が、カリンカさんのお出迎えにオレが担当することに。
お嬢様は普通に同性だから普通に出迎えるだけでいいのに、オレはエスコートしないといけないのが納得いきません。
「なんか照れるわね」
「本当ですよ……」
お嬢様やマーサ様、シャーリーさんと練習をしたけど、やはり着飾った女性をエスコートするのは難易度が高い。
「ほら、見つめあっていないでいくぞ」
「そうですわ。あまり待たせるものではありませんわよ?」
こちらの苦労を知らないお二人はむしろからかうようにこちらに言葉を投げてくる。
困り顔になりそうになる表情筋を抑えて、カリンカさんを案内。
案内さえ終わったら話のメインはお嬢様方になるんだ。我慢我慢。
思っていたよりも周辺の魔物の分布に詳しいイヴリン様。なんでも王都自体に来たのは学園が始まる1年も前からで、冒険者としての活動も学園が始まる二か月前から行っていたそうだ。
「イヴリン嬢は活動的なんだな! しかも既に9級とはすごい!」
「ほーっほっほっほっ! アリアンナ様もすぐに上がれますわよ!」
「そうですね。あたしよりも強いクラッドフィールドくんもいますし」
二人を救助した経験があるオレは強者扱いになっていた。
「そうですわね。無属性魔法の障壁に加えてショックに、あの拾った石なんかを礫として放つ念動。攻防一体の魔法は侮れませんわ」
「そうなのか」
「ええ、そうなんですわ。ご存じありませんでしたの?」
「私の中のクラッドフィールドは剣士だぞ」
ああ、そういえばお嬢様との訓練では剣でしか戦ってないですから。旦那様へと剣を向けたときに障壁魔法で援護したくらいでしたか。
あと授業の時にやっぱり障壁でお守りしたくらいだ。確かに魔法のイメージより剣のイメージの方が強いかもしれない。
「剣士、ですのね。ああ、でも剣の授業の時はお互い派手にやりあっていますわね」
「そういえばそうでしたね。アリアンナ様のお相手をつとめていました」
「うむ。今は私の剣の師匠だ」
「何も教えていないですけど?」
お嬢様の鍛錬に合わせて剣を振るってるだけだから。
「……そういえば教わってはいない、か? いや、でも注意はしてくるよな」
「それは訓練ですから当然です」
踏み込みの良し悪し、剣の振りのコンパクトさ。逆に窮屈に振り過ぎていたり、肘や手首に負担がかかりすぎているなど。
お嬢様が振るうのはレイピアだ。普通の剣と違い力だけでなんとなく相手を倒せるものではないのだ。
元々十分に実力のあったお嬢様だが、最近は更に剣が鋭く、力強くなっている。スタミナが足りないからそこを補えればもっと強くなるだろう。
この人マジックブレードのSBランスと相性がいい剣の振るい方をしているんだよね。
「何気なく言われたことを取り入れてみると、意外と勉強になることが多いのだが?」
「剣の動きというのは色々ですから。お嬢様の流派ではない考えがオレの流派にあるんじゃないですかね? オレのは流派なんて立派なものではないのですが」
「そうなのか?」
「父から学んだものなので」
サンラッカ村流とでもいえばいいのか? 兄さんも父さんから学んだし、でも親戚一同も同じ剣を振るうのはダメらしいから、結構ばらばらだったりするんだよね。
「オレの剣は身を守るものであって、そこまで攻撃的なものは……いや、でも……うーん?」
うちの村の特性を考えると、対魔物特化の剣ではないだろうか? 技の名前なんかないけど、大振りする型はでかい魔物の首を掻き斬ることを想定している気がしなくもない。
攻撃以外の部分は相手から攻撃を受けない、受け流す、いなすが中心だ。人間とは比較にならない力を持った相手と戦うことを想定されている気がする。
「どっちなんだ?」
「よくわからないかもしれません」
「なんですのそれ」
だって個々の技の名前とかないですし。
「ああ、でもお嬢様の剣とは相性がいいかもしれないですね」
「そうなのか?」
「ええ。オレの剣も受けない、受け流す、いなすの部分を重要視してますから」
敵からの攻撃は受けるなかわせが大前提。どこでどうかわせば確実に反撃できるか、どう反撃すると急所を狙いやすいか、それにはどうかわせば効率がいいか。そんな剣だし。
「なるほど! だから体さばきや足さばきで重なる部分があるのか」
「お役に立てているのならば幸いです」
オレもナタに持ち替えたから素振りとかしなおしてるんだよね。やはり短剣と比べると重量がある分、肩が開いて流されるときとかあるから。
「お嬢様方、失礼します」
「フォルクスか」
「どうかなさいまして?」
冒険者としての活動の話に際し、肉のダンジョンには次にいついこうか。そう言った話も終わり雑談に花を咲かせ始めるお嬢様方。
まあどの魔物肉が美味しいという話をイヴリン様が話されて、お嬢様がそれは食べたいなリアクションを取るという実にご令嬢らしくない話には花は咲かないかもしれないが。
そんな話で盛り上がっていると、護衛リーダーのうちのリーダー。フォルクスさんと向こうのチームリーダーと思われる人がお茶会室に入ってきた。
「どうかしたか?」
「……我々は、冒険にはついていかない方がよろしいのでしょうか?」
「それは……まあついて来ないでくれと言っても付いてこないわけにはいくまい? そのくらいの分別はあるつもりだぞ」
「あら? アリアンナ様はそれでよろしいので?」
「うん?」
「アリアンナ様、私はイヴリン様の護衛をしておりますカルロスと申します。普段、姫様が冒険者として活動をしている際には、付かず離れずの距離を保って警護をしております。完全にとはいきませんが」
そう挨拶をするのは、フォルクスさんよりもかなり歳のいった騎士だ。
「そんなことができるのか」
「ええ、姫様の冒険の邪魔はなるべくしたくありませんので」
「良く言いますわね」
「ほっほっほっほっ」
きっと揉めたんだろうなぁ。
「ですのでカリンカの修練は厳しくやっております。それで、こちらのフォルクス殿と護衛について話をしたのですが、姫様方に付いての護衛でないといざというときに対処できないとおっしゃいましてな。これを機に改めて護衛の……」
「いけませんわよ? これ幸いにとわたくしたちに付いてくる気がまんまんじゃありませんか」
「儂一人では何かあっても対処しきれなくなります。姫様に何かあった時はカリンカが命懸けで敵の足止めをし、その間に儂が対処に動く。これが最大の譲歩にございました。ゆえに不相応な装備までカリンカに与えできうる限りの強化をいたしましたが、よその貴族の子が関わるとなるとそうはいきません」
「私は問題ないが」
「アリアンナお嬢様、申し訳ありませんが問題しかございません。姫様に何かあればアリアンナお嬢様だけでなくサイバロッサ家に何かしらの賠償が求められるでしょう」
イヴリン様は侯爵家の娘だ。彼女に何かあれば誰かが責任を取らなければならない。護衛たちは勿論だけど、今回の場合は近くに立場の弱い『男爵家』の人間がいる。
責任を取らせることができる相手だ。
「そしてアリアンナお嬢様に何かあればサイバロッサ家も動かざるを得ません。それがきっかけで姫様のお立場が悪くなるでしょう」
カルロスさんの言葉にイヴリン様が表情を悪くされる。
彼女がどういう立場にいるかは不明だが、あまり良い環境にいるのではないのかもしれない。
「どうかご再考を」
カルロスさんの言葉にフォルクスさんも一緒に頭を下げる。
護衛としてはやはり近くで守れるのが一番だ。これを機に護衛の態勢を強固なものにしたいのだろう。オレもそうするべきだと思う。
「問題ありませんわ」
「姫様!」
「クラッドフィールドがおりますもの。守りに関してはカリンカを上回っているのではないかしら?」
「確かに。クラッドフィールがいれば問題ないな」
「アリアンナ様まで」
カルロスさんだけでなくフォルクスさんも声をだす。
「確かに姫様を一度は救った実績があったな。それは認めよう」
「……どうも」
「じゃが一度、それもたかだかCだかDだかのレベルの魔物を倒した程度! その程度の腕でうちの姫様を守れるとぬかすか!」
「いや、オレは何も言っていないんですけど」
というか護衛に関しては全面的にカルロスさんやフォルクスさんに賛成何ですが。
「このような軟弱そうな子供に姫様を任せられる訳なかろう!」
「うちのクラッドフィールドが軟弱だと? ご老体、面白いことを言いますね」
「いいですから、煽りを受けなくて。というかオレはお嬢様の護衛ですから何かあればイヴリン様よりお嬢様を優先しますよ?」
「うちの姫様をないがしろにするとはいい度胸だ! 表へでろ小僧!」
「いいだろう! クラッドフィールドの実力! 噛みしめるといい!」
や、だからオレはカルロスさん側の人間なんですけど!
「これは、負けた方がいいのではないだろうか」
「良いわけがないだろう?」
「ええ、カルロスなんてコテンパンにノシてしまいなさい」
「え? ですけどオレも護衛側ですからどう」
「なんだと?」
「何か?」
うう……。
「頑張ります」
サイバロッサ家の騎士服に着替えて、木の剣を手に取る。
「こやつを倒したら、考えを改めてくれますな?」
「むろん」
「その代わり、クラッドフィールドが勝ったら今まで通り離れての護衛ですわよ?」
「承知! 小僧! 手加減など不要であるぞ!」
「はぁ……」
言われるがままに剣を構える。うん、やはり強いな。
「はあ!」
「っ!」
カルロスさんが一瞬で距離を詰めてくる! 回避を選択しつつも、木の剣でカルロスさんの剣を受け流す。
「ほう!」
「ふっ!」
返す刃で剣を振る。それは正面から受け止められた。
「ぬ? 重いな!」
過重魔法の影響もあるが、今の剣の振り方はナタの振り方と変わらない。普通に振られる剣よりも重さで叩き切る形の剣になっているからその影響もあるだろう。
「振り方、だけではないな。どんな仕組みだ?」
あ、魔法の方にも気づいたか。一手目で気づいた人は村以外では初めてだ。
「まあ、よい。だがそんな小細工で儂に勝てると思うなよ!」
「小細工ってほどのものじゃないのですが」
そして繰り広げる剣閃。返される剣撃。想定以上にこの人は強い! 受ける技術、というか守る技術だけでいえば兄さん以上だ!
「ストーンバレット」
「ほっと」
魔法も有りか! しかも無詠唱! 念動で飛んできた石の礫をそらしつつ、前にでる。
「ここで前にでるか! 若いな!」
「まだ十代ですからね!」
なんなら十代前半だ。そりゃ若いさ!
そんなことを考えつつも手は緩めない。剣で打ち合い、魔法を放ちあう。
カルロスさんの魔法はオレの上や左右、地面からも飛んでくるようになってくる。
手や杖といった支点となる部位以外から魔法を放つのは非常に難しい。これはいつの時代もそうだ。宇宙統一軍に所属していたころでもそれこそ対テロリスト特化の特殊部隊出身の者や、総合マジックアーツの選手くらいしかまともな使い手はいなかった。
それを難なくこなすあたり、このカルロスという男の技量の高さは相当なものだ。
騎士としてというよりは、戦闘に関しての経験値が半端ない。
「……なんでこんなに本気で戦ってしまっているんだろうか」
どうやってこの守りを崩せばいいか、とか。
こちらの攻撃に対しての反応がどうか、とか。
ちょっと楽しくなってきたな、とか。
実は土魔法以外の切り札があるんじゃないか、とか。
「何を考えているんだオレは」
「ふん、どうした小僧。降参か?」
あ、そうか。降参あり?
「あ、はい。降参です」
「「 え!? 」」
カルロスさんの質問に降参ですと答えると、驚きの声を上げるお嬢様ズ。
「オレ、お嬢様の護衛ですよ? もっと強固な警備体制にしたいに決まっているじゃないですか。正直冒険者として活動するのもあまり賛成ではないんですよ」
「まっとうな護衛ならばそうですよね」
カリンカさんも頷いている。
「……小僧、姫様を守れるな?」
「状況によります。それと先ほども言いましたがうちのお嬢様が優先ですよ」
「それでも構わん……。それよりもそっちのを鍛えることにしましょう」
「お、オレですか!?」
ご指名を受けたのはフォルクスさんだ。
「一定の距離を開けたうえでの気配の察知や状況判断。何よりもそこに駆けつけるための機動力。姫様の手を煩わせぬためにも色々と学んでもらわねばならん。しかし警護の体制は今のままでよいでしょう。こやつは儂にはない強さを持っているようだ」
なんでか知らないですがカルロスさんが納得してくれました。
「オレの負担がすごそうなんですけど」
「カリンカも鍛える」
「そんな簡単に言われましても……」
「儂のひ孫に不満か?」
「失礼しました!」
血縁関係がありましたか! てか孫じゃなくてひ孫かいな!
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