第27話 真っ白なナタ
「トンカッケ……随分とまた変わっちゃいましたね」
「少しばかり痩せただけだから気にするでない」
「少しってレベルじゃないと思うよ!?」
ドワーフの特徴的な髭がなかったら人族の子供に間違えられるレベルじゃないか?
「随分と苦労を掛けたみたいで」
「や、これは俺が悪い。止め時を失って何度も食事を抜いたせいだ」
「ご飯はちゃんと食べた方がいいですよ?」
「わかっとる。良い仕事をするには体が資本だからな!」
激痩せした姿で言われても説得力が全然ないんだけど。
「とりあえず作業場だ。完成品を見せてやる」
そういって案内されると、やはり綺麗に片付けられた作業場。
それとそこに置かれていたのは鞘に納められていた一本のナタだ。
「刃は上向きにしていれるような形の鞘にした。あくまでもナタだから重量があるでな。そのくせ滑らせるとスパっといく切れ味だから下向きにすると危ないと思ったんだ」
「おお、そのレベルでしたか」
「おう。木製だと不安だったから革製だ。アサルトリザードの背中の皮を使っている。普通に抜いてもいいが、ボタンに紐かけにしてあるから真上からも取り出せるようになってるぜ」
「なるほど?」
アサルトリザードっていうのを聞いたことがないな。
「まあ対刃性の高い革製品で作ったって理解してもらえればいい。抜いてみてくれ」
「了解。へぇ刃は白いんだね」
純白のナタというのは初めて見た。もちろん白い色に近い鉄製品も過去には見たことあったけど、それらはナタみたいな形で加工されてなかったから。
「まあ金属じゃあねえからな。削りに削っていったらそんな色合いになった」
「すごいね」
引き込まれるような白だ。語彙力がなくなる。
「そのまんまでも十分に切れ味は確保できたし相当なもんだとはおもう。でも斬る専門の形の片刃の剣やナイフには劣る。そこは間違いないでくれ」
「まあナタだからね」
本来は叩き斬る武器だ。いや、叩き切る武器かもしれない。や、そもそも武器ではなく道具か。
「それと、魔力を流すと切れ味が増すわけじゃねえ。普通ならその物の形に合わせて魔力をまとわせられるようにするんだが、こいつはそうはならなかった」
「そうなんだ」
職人が武器を作るとき、その武器に合わせて自然と魔力が通るよう作るものだ。剣なら切れ味の強化とか、槍ならば刺突の鋭さ強化とかが普通だ。
だけど武器の元の素材によっては、強化ではなくエンチャントに近い特性を持つ武器ができることがある。魔剣とかそういう類の武器だ。
「もともとの素材の特性に引っ張られた。まあ魔物素材だと珍しい話じゃねえし、無理にそこを変えようとしてもいいものができねえからそっちに合わせて作ったぞ」
「うん。それはいいけど、どんな特性なの?」
「まず再生能力だな。多少の刃こぼれは自然と治っちまう。削ってて魔力を必要以上に流すと治りやがるから苦労させられたぜ」
「それは、いいね!」
「しかも持ち主にもその影響がでる!」
「へ?」
「つまり、こいつを持って魔力を込めながら戦えば、軽い怪我ならすぐに治せちまうんだ。さすがに骨折とかのレベルだとどうなるかわかんねえが」
「試すわけにはいかないもんね……というかめちゃめちゃすごくない?」
もはやそういう魔道具だ。ナタだけど。
「めちゃめちゃすげえなんてもんじゃねえ! こいつは完全に魔剣だ。いや、魔ナタか?」
「せめて魔武器って呼ぼうよ」
魔ナタはなんかダサい。
「あー、うん。まあ呼び方はどうでもいい。とにかくそういう特性がついたな。海の魔物の素材なんかをつかうと稀に再生機能はつくが、使用者まで影響がでるレベルのものなんか聞いたことないな」
オレもない。統一宇宙軍時代でもそんな武器を持っている知り合いはあまりいなかった。まあ軍人は支給品で戦うからそんな武器は持っていてもしょうがない。
あっても使用許可を取らないといけない。一部の武器マニアたちとかは持ってたけど。
「それともう一つ、こっちは攻撃に特化した特性だな」
「まだあるんだ。使い分けられるかな」
「再生の方はつけっぱでも構わねえからな。こっちのオンオフだけ覚えりゃ使い分けに関しちゃ問題ねえはずだ。ただし、使いどころはたぶん難しいぞ」
「どんなの?」
「刃を生み出すんだ」
「刃を、生み出す?」
「まあ見ないと分からんか。ちいと貸せ、つか危ないから置け」
「あ、うん。ごめん」
机にナタを置くと、それをトンカッケが片手に持つ。
「そっちの木の板を机に乗っけてくれ」
「はい」
言われるがままに机に板を置く。随分と太い板だ。
「魔力を込めて、刃を振るとこうなる」
トンカッケがいいながら、片手で峰を抑えながらナタを軽く振る。トンカッケ自身はそこまで魔力が多くないのか、あまり魔力は感じられない。
それでも……板を見ると四つほどの深い傷ができていた。
「分かったか?」
「うん、刃を生み出すっていうのは刃の分身が出るって解釈でいいかな?」
「ま、そうだな。こいつは元のナタを中心にどこに出すか、何本出すかなんかを調整できる。不意打ちにはピッタリだろうし、分かっていても近接武器同士じゃ対応が難しいわな」
「だね。ナタ本体を武器で受けたら他の刃を確実に受けるだろうし、どこに出るかは使い手しか分からないから全部避けるには相当距離を置かないとダメだ」
とんだ近接泣かせの武器である。
「ま、その分運用は難しいだろうけどな。どう使うかは任せるが、とんでもないモンが仕上がったのだけは分かるな?」
「うん。これはすごいね」
改めてナタを手に持つ。握りも手のひらに吸い付くようで、何年も使っている武器なのではないかと錯覚してしまうほどだ。これは単純にトンカッケの腕がいいからだな。
「握りは問題ないか?」
「うん、片手で持っても両手で持ってもしっくりくる」
「柄はシャリアウッドマンの足で作った。お前さんはまだ子供だからな、手の大きさも成長するだろうから体に合わなくなったら交換できるようにしてある。握り布にはレリックコットンの布を使っているから予備を渡しておくな? こっちにも置いてあるしまき直しができないようなら持ってきてくれ」
「握りに合わせるのは難しい?」
「そこまでクセの強い感じじゃねえかな? だがまあ自分でやって気に食わないようなら持って来い。その方が絶対にいい」
「分かりました」
その気遣いは素晴らしい。
「ま、いい仕事をさせてもらえた。そこで相談なんだがな」
「あ、やっぱり報酬はらう?」
「いや、それはいい。いらん。というかこっちが払わなきゃいけなくなるかもなんだが……」
「?」
「そのナタのな、削りだしたときにでた分の粉なんだが、削り粉として使ってもいいし金属に混ぜたら頑丈になりそうだしでな。鍛冶師としちゃ、このまま捨てるなんてとんでもない代物なんだわ。こいつを報酬代わりにさせてもらっちゃまずいか?」
「なるほど、そういうことね」
オレが背負うほどの大きさだった牙が、いまや一般的なナタのサイズだ。半分以上の量が粉末と化している。
「オレももらっていい? 何かに使えるかもしれないし」
「おう。なんか刃物を研ぐときに砥石にかけてやれ。あ、ただしあんまり力を入れると刃側が負けるからな?」
「気を付けるよ」
「ほんじゃ、そうだな……これくらいか」
「? そんだけでいいの?」
「こりゃあ鍛冶師からみれば魔法の粉だ。正直これでももらいすぎと思ったんだが、価値が決められん。それに量があればあるだけこいつに頼りすぎそうだ。だからこんくらいでいい。それでも価値は計り知れないものがあるからな」
「もっともっていけばいいのに」
「そうなるとこっちが払わなきゃならなくなるが、さっきも言ったが一点物の魔物の素材ってのは簡単には価値が決められんのよ」
トンカッケは全体の一割程度しか求めてこなかったし、それ以上は過剰だと首を振った。
いい職人さんに出会ったなぁ。
「とりあえず、試しに使ってみるかな……」
「おう、人に使う場合は気をつけろよ?」
「気軽には使えない気がする……」
予備武器の短剣がメインウェポンになりそうです。
とはいえ実際に試してみないことにはなんともならない。武器のレベルがレベルだし、久しぶりに黒い森まで足を延ばしますかね。
……試し切りやってもたけど、刃の分身がとんでもなかったです。
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