第16話 救助
「イヴリン様、それにカリンカさんでしたか」
「クラッドフィールド? 危ないですわよ! 身を屈めて」
「や、危なくなくなったから顔が出せたのですが」
隠れていたのは知り合いでした。
「あ、あの数の魔物が……どこにいきましたの?」
「倒しましたよ。あっちに積んであります」
流石に目撃者がいたので死体はいくつかそのままにしてある。念動による礫を飛ばしたように見せるため死体には追加で攻撃をしているが。
魔物除けの匂い袋も近くの木に縛り付けておいたから他の魔物に食い荒らされる心配も、まあたぶんないだろう。
「クラッドフィールドくんは強いんですね」
「まあ魔力には恵まれていますので」
「まったく。カリンカが反対しなければわたくしが片付けましたのに」
「あの数にはあたし一人じゃ対応できないですもの。それに森でイヴリンお嬢様が本気を出したらすぐに火事です」
ああ、そういえばイヴリン様は火の魔法がお得意な方でしたね。
「こちらでは何を?」
「クズ魔石集めですの」
「満足な依頼がなかったから。最初のうちはこんなに魔物はいなかったんだけど、急にあっちからきて……どのような魔物か分からなかったので隠れたのですが、数が多くて出にくくなってしまってたのよね」
「なんでも山の方から流れてきているらしいですよ。今日は危ないですから戻りましょうか。今ならそこまで数はいないです。森の外まで案内しますよ」
「それは、正直助かりますわ」
「願ってもない話ですけど、クラッドフィールドくんはいいの?」
「何がです?」
「えっと、こんなところに来てるってことはクラッドフィールドくんも冒険者なのよね?」
「そうですね」
「じゃあ依頼で来ているんじゃ?」
「ちょうどその依頼の魔物を倒しまくった後ですから」
合計で百近い数を倒したんだ。文句はでないだろう。
「そうですのね」
「この辺りには本来でない魔物だそうです。冒険者ギルドもですが、騎士団も動いているみたいですからすぐに解決に向かうと思いますけど」
「数も多いですし、見たことのない魔物でしたわ」
「しびれマンタという魔物らしいです」
「マンタ……食べられますの?」
「へ?」
「ちょ、イヴリンお嬢様!?」
「だってサンドマンタは食べられましたわ!」
なぜかこぶしを握り締めて力強く言うイヴリン様。
「えーっと?」
なんとなくカリンカさんに視線を向けると、彼女はため息をつきながら答えてくれた。
「イヴリンお嬢様は……魔物食にはまられているの」
「はあ、というか普段食べている食べ物のお肉系は大体魔物食だと思いますけど」
「ですわよね!」
「え? え?」
「こうして冒険者として活動をしているのも、食べられる魔物をどんどん増やしていこうと思っているからですの!」
「そうなんですか!?」
「そうなんです……」
「うちの領は侯爵領といいますが、砂漠の範囲が広く農作物は一部の地域でしか育てられませんの」
「はあ」
砂漠地帯では自然とそうなってしまうんだろう。
「そこで我らのご先祖様は考えられましたわ! 育てられないなら魔物を食べようと!」
「……まあ変な考えじゃないですよね」
「そうですね……度が過ぎなければ」
度が過ぎているのか。
「うちも狩人の家系ですから食べられる魔物には詳しいですし、調理もできますけど……ちなみにこのしびれマンタは食べられるそうですよ」
「いけますのね!」
「いけるそうですが、すぐには無理ですよ?」
「なんでですの!?」
「天日干しにしてカラカラにしてから炙って食べるのが普通らしいです」
「すぐには食べれませんのね」
や、ただおなかすいているだけなんじゃないのかこの人。
「お酒のつまみ系ですか?」
「可食部位は大きくなさそうですね。油で揚げればいけないこともないかもですが」
「「 油で? 」」
「揚げ料理、知りません?」
「知ってはいますわ。でも侯爵家でもめったに出てこない高級品ですわよ」
おかしいな。うちの村では普通に普及してたんだけど。
「なかなかありつけられませんね。良質な油を、それもお鍋いっぱいの量が手に入る機会はほとんどないですから」
「……ああ、そういうことでしたか」
村の近くにはフレイムトランぺッターという魔物がいたから。
そいつの油袋の中には揚げ物に使うのに適した植物油がたんまり入っていた。揚げ物を食べたくなったらそいつを狩りにいけばよかったので、週に一度は兄さんと狩りにでかけたものだ。
近づくものに無尽蔵に近い炎を飛ばしてくるので、攻撃のたびに油袋の中身が減ってしまう。だから素早く倒さないと怒られる。確かAランクの魔物だったっけか。あ、Aだダメだ。
「もしかして、油って結構お値段したりします?」
「揚げ物に使えるような油は高いですよ。強い魔物由来のものがほとんどなうえ、可燃性が高いから運搬も危険ですし」
またウチの村クオリティだったか。
「生ではいけませんの?」
「肉にしびれ毒がしみ込んでいる可能性もあるから、やめた方がいいかと」
本当に残念そうに言うな。ああ、油で調理か。なんか唐揚げとか食べたくなってきた。
「あれ、イセリナさん?」
「あら、そっちも人命救助になったのかしら」
二人を森から連れ出すと、そこにいたのは疲れた表情で休んでいる多くの若い冒険者たち。
「森の中でうまく隠れてた子たちよ」
「……しびれマンタが探知能力に優れた魔物じゃなくてよかったですね」
「イセリナ様、こちらは持ち帰ってもよろしいのかしら?」
「え? 倒したの? 9級なのにすごいわね。クラフィくん手伝った?」
「二人だけでしっかり倒してましたよ。僕は周りを警戒したくらいですね」
帰り際にも戦闘があって、二人が試してみたいとのことだったので実際に戦ってもらったのである。
重装備のカリンカさんが敵の攻撃を盾で受けて攻撃を止め、強い魔法が扱えるイヴリン様が雷の魔法で敵を倒す。
イヴリン様の雷の魔法はかなり強力だ。まあ森の中だから使いづらそうにしていたけど。
カリンカさんの盾と鎧も特別なものらしい、見た目に反して軽く見た目以上に頑丈だとか。
「一応買取もできるけど、持ち帰るのね? 構わないけどどうするの」
「食べますの!」
「……なんか今日一番の笑顔を見た気がするわ、いいわよ別に。クラフィくん、まだ森に潜る? 結構な数を回収班が回収したって聞いたけど」
「どちらでもいいですけど、何かあるんですか?」
「彼らの護衛を頼みたいのよね。騎士もそれなりに出てるけど、やっぱりある程度実力の分かっている人に任せたいのよね」
そういって指をさすのは疲れて休んでいる冒険者の諸君。それと笑顔なイヴリン様と、背負い袋にしびれマンタをつっこむカリンカさん。
「知り合いもいますから請け負いますよ。オーガホースはそのまま任せてしまっていいですか?」
「いいわよ。こっちで使わせてもらうわ」
この人数を連れて歩くのに一人だけ馬なのは逆に面倒だ。
「であれば問題ありません」
「じゃあよろしく。護衛のお金も含めて後で清算するけど、まあ二、三日はちょうだい。」
「分かりました」
イセリナさんは頷くと、座り込んでいる冒険者たちに移動する旨を伝えだす。護衛と言われてオレに視線が向かうが、なんか諦めたような表情をされたのはなんなんだろうか。
「あ、巣が発見されたみたいね」
山の側から色のついた狼煙が上がっている。事件も解決に向かっているようだ。
「そうですか。良かったですね」
想定とは違ってたけど、久しぶりに実戦を味わえたから今日はよしとするかな。
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