第15話 SGS-08A
「聞いての通り、しびれマンタが南の街道近くに出たらしいわ。討伐は一体あたり1万、素材の買取は状態により別途相談ね? 回収班を走らせるからそいつらに渡して。巣を見つけたチームにはボーナス10万。複数のチームが同時に見つけた場合は折半よ。騎獣の貸し出しは無料、ただ怪我させたりしたらその分はマイナスだから気を付けるように」
「「「 うぇーい 」」」
「イセリナ姉さんもでるんで?」
「騎士団からの依頼でねぇ。早期解決を望んでるみたいなのよね」
人の往来が多い街道に魔物が居座るのは、国として大問題になりかねないからじゃないかな。
「そりゃあ、負けてらんねえなぁ」
「姉さんに出られちゃあオレらが追いつかねえ」
「今回は広範囲調査よ? あたし一人じゃ手が足りないのよ」
6チーム22名とそれなりに大所帯となった冒険者の討伐チーム。もっと血気盛んな連中が多いのかと思っていたけど、意外と冷静に話を聞いている人が多い。
「しびれマンタ以外に普段見られない魔物がでたとこは?」
「聞かないわ。少なくとも今のところは報告されてないわね」
「南の街道の森側か? それとも山の方か?」
「どちらでも目撃されてるらしいわ」
「ってことは……なるほど」
次々と疑問を口にして回答を求める冒険者達。統率が取れているわけじゃないけど、全員しっかりと聞いているあたり、彼らがギルドから選ばれた精鋭であるというのが分かるな。
「巣の発見、騎士団に先を越された場合は?」
「もちろん……ギルティ」
「はっ、了解だ! すぐに出発すんぞ!」
「「「 おおー! 」」」
「騎獣を借りたい人は札持ってって騎獣屋のとこにいってねー」
走ってもいいけど、どれだけの範囲を移動させられるか今回は不明だ。騎獣を借りることにしよう。
「イセリナさん、オレも騎獣を使います」
「了解、というかクラフィくんはあたしと一緒に行動ね?」
「そうなんですか?」
「ええ、南の街道行ったことないでしょ?」
あ、ないや。
「……そうでした」
「迷うような場所じゃないけどね。あとクラフィくんは見た目子供だから単独行動をさせるのは、ね?」
「まあ分からなくもないですけど」
「ま、たぶん途中までよ。あたしも身軽なのがいいし」
「了解です」
「じゃ、一緒に行きましょ。騎獣いい子が残ってるといいわね」
「そういえば、何がいるんでしょう」
「たぶん借りられるのはオーガホースね」
「ああ、でかいやつですね」
Cランクの馬の魔物だったっけかな。
「いまのところ1匹ですか」
「本来はいない魔物だから1匹いるだけでも異常なのは異常なんだけどね」
イセリナさんとオーガホースを走らせて約1時間で現場に到着。そこから周りをうろうろとして主に空を警戒しているが、見つけたのは合計で5匹。自分で倒したのは1匹だけだ。
ギルドで選抜された冒険者たちの動きがよく、騎士も走り回っているからあまり出番がない。
「確かに巣がありそうね。卵から孵ってある程度成長したから散っていった感じかしら」
「でも群れって感じの動きじゃない」
「見つけやすい範囲は騎士に任せられそうね。森と山、どっちが正解だと思う?」
「山じゃないですか?」
「ふうん? 一応聞くけど根拠は?」
「どっちにもいるなら、山の高いところから流れてきてるのかなと。低いところから高いところに行くのは魔物でも大変ですから」
「いいじゃない。たぶん正解よ? でもあたしが行くのは森」
「?」
「他の冒険者に手柄をあげないとね。あたしはギルド職員だから」
「そういうことですか」
いい人だ。
「そ、だからクラフィくんは山に行ってもいいし、森にきてもいいわよ? どうする?」
「オレも森で。他のチームの邪魔になるのも避けたいですし」
少人数とはいえチームで動いている人たちがほとんどだ。そこには混ざれないだろうし、この時間から山に登るのはちょっと帰りの時間が心配になる。
「森では別行動にしましょう。森に入る冒険者が少なそうだからできるだけ多くのしびれマンタを片付けてちょうだい」
「了解です」
「森の奥には回収班も簡単には入っていけないから魔物の死体には魔物除けの匂い袋を置いておくといいわ。持ってるかしら?」
「ありますけど」
空間庫の中にいくつか入っているはず。
「……そういえばいらないわね。あとでまとめて預かるわ」
「あはははは」
しまっておけるからね。
「ま、いいわ。それとオーガホースは回収班に任せておきなさい。さすがに森の中は走らせられないわ」
「分かりました」
とはいえ森の前までは一緒に行動するみたいだけど。イセリナさんはなんだかんだ言って面倒をみてくれる。
「ま、短剣の試し切りができたからいいけどさ」
イセリナさんと別行動で森に入ると、しびれマンタの行動が変わった。
先ほどまでいた街道、というか平原では空を泳ぐように飛んでいた連中だが、森の中では木々にくっついたり地面にへばりついたりしている個体が多い。
木の上を泳いでいるやつなんかは今のところ見ていない。
短剣の届く範囲にいるので弓で戦うよりも倒しやすいけど……。
「なんか思ってたよりも数が多いな」
それとしびれマンタに倒されている、というか食い荒らされている魔物の死体がそれなりに多い。肉食の魔物だからなのか、ニョロスポアや走り小麦といった植物系の魔物は残っているけど。
山から下りてきたのは餌が不足していたのかもしれない?
「なんか苦戦してるっぽいけど」
逆に返り討ちにあったのか、倒されて食い散らかされているしびれマンタの死体も見かけられる。食い後的に狼系の魔物だろうか?
「なるほど。上空から攻めてくるからCランクね」
魔石のランクはDと言っていたから、自由に泳ぎ回れない森の中だと同格の魔物に負けるときもあるのか。
というかなんでわざわざ低いところを泳ぐんだろうか。
「と、結構開けたところにでたな」
それとそれなりに数の多いしびれマンタ。百はいないと思うけど……。
「あー、まずいか?」
少し離れた位置、大きい木の近くに人の気配を感じる。息を潜めているようだが、この距離でオレに察知されるレベルだ。いつ見つかってもおかしくない。でもないか? それなりに腕のありそうな人の気配が近くにあるし。
「……とはいえ、放置はまずいか」
腕のある人が隠れている人を助けてあげるとは限らない。そっちの人も戦闘中のようだし。
しかし一匹一匹は大したことないけど、この数をまとめて倒すのはしんどいし時間もかかってしまう。
地面に手をついて、砂利をつかんで放り投げ、念動でしびれマンタの群れに投げ込んだ。
「「「 !!! 」」」
声を上げるわけではないが、地面にくっついてたものは浮き上がり、一斉にこちらに顔を向けてきた。
「片付けますかね」
周りには人の目もないので、空間庫から一丁の武器を取り出す。
取り出したのはSGS-08A、ソーサラー&ガンスミス社が開発したアサルトライフル式魔導銃だ。
こいつはアサルトライフルではあるが、銃身が短いので森の中で使うのには便利。それと何気に発射音が小さい。でも総弾数は他のアサルトライフルより多いからこういう多数を相手にするときには便利な武器である。
「でもちょっと反動がでかいか、な?」
以前使っていた時は大人の体だったからそこまで気にはならなかったが、銃身が短い分反動が大きい。目標のしびれマンタがそれなりに大きいから問題はないけど、あまり距離を開けると外す弾がでてきそうだ。
そんなことを考えながら、こちらに殺到してきたしびれマンタに対応。一気にこちらに向かってきてくれたのを森の中に誘引、引きながら確実に一匹ずつ倒していく。
一匹当たりにトリガーを一度引く、それで倒せるから楽なものである。
背後に気を付けつつ、引き撃ち続けるとすぐにしびれマンタの数が減っていく。中には横に逸れるものもいたが使っているのは300メートル以上射程のある武器だ、逃がすような真似はしない。
そのように戦いながら、弾が切れたら弾倉という名の魔導核を交換しリロードを行いまた撃つ。
次第に視界は開けていく、敵の数が減り下がる必要もなくなっていった。
SGS-08Aをしまって、短剣に手をかける。
「もうちょっとだけ、慣らし運転がしたかったんだよね」
しびれマンタの顔が引きつったように見えたのは、きっと気のせいじゃないだろう。
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