第14話 納品のための解体

「うーん、いい依頼がないですわね」

「でもあんまり難易度を上げるのもあぶないですし」


 うん。何も見てない。すぐに移動しよう。


「あ、イヴリン様。クラッドフィールドくんです」

「あらほんとね。こんにちは」

「……こんにちはイヴリン様、カリンカさん」


 今日は体を動かすことにした。イセリナさんに鍛冶屋を紹介してもらったお礼もしたかったし、冒険者ギルドに顔を出すことにした。


「……お二人は何をなさっているんですか?」

「依頼を確認しておりますの。とはいえこんな時間帯では、良い依頼は残っておりませんわね」

「何か追加の依頼があればいいのですが、常設依頼のクズ魔石集めに手を伸ばすくらいしかないですね」

「そうではなく……いえ、お二人の格好を見れば分かりますが」


 騎士の中には冒険者も兼任してる人がいるって聞くし、貴族の中でも冒険者をやっている人は珍しくない。そう聞いてはいたけど……お嬢様と同年代の女性で、しかも侯爵家のご令嬢が冒険者をしているとは思いもよらなかった。


「ふふん、どうかしら?」

「結構こだわりましたよね」


 大きなつばの三角帽子に、いかにもっていう感じのローブ姿は魔法使いのいで立ち。

 従者であるカリンカさんは少し重量感のある鎧で、背中には大きな盾をつけている。重騎士とか盾騎士と呼ばれている装備だ。


「イヴリン様、大変お似合いになってます」

「ありがとう。うれしいですわ」

「あら、あたしはどうなの?」

「……鎧姿を褒められたいですか?」

「凛々しいとか、格好いいとか?」

「言われたいのであれば言いますが?」

「ごめんなさい、冗談です」


 学園の外だからか、フランクだね。まあオレもだけど。


「あ、クラフィくん。こっちこっち」

「「 クラフィくん? 」」


 あ、イセリナさんだ。


「はーい。今行きます。ではお二人ともまた学園で」


 なんかぽかんとしてる二人を置いて、イセリナさんに連れられてギルドの奥に。いつもの個室に案内される。


「あの二人は知り合い?」

「学園のクラスメートです。サイバロッサに奉公に出てるって前に言ったじゃないですか」

「ああ、そういえば。まあいっか。今日は何か置いてってくれる?」

「希望があるなら置いてきますよ。それと狩場の情報が欲しいんですよね。短剣を新調したので少し試したいんです」

「トンカッケくんのところ、良かったでしょ?」

「はい。色々と優遇もしてもらえました。イセリナさんも紹介ありがとうございました。これ、お礼のクッキーです」


 空間庫からパン屋さんのクッキーを取り出して渡す。


「ありがと……なんか普通に空間庫を使われるのにだんだん慣れてきたわ」

「かなりレアなのは自覚してますけど、結局ただの魔法ですからね」

「空間系の魔法使いって、全然聞かないんだけどね……とはいえそこから出てくるのがクッキーって」

「何事も使い手次第って話ですね」


 もっと下らないものを出し入れしていた人もいると思う。


「まあいいわ。とりあえず黒い森とかその近辺の依頼だと……一つ目樹魔の目玉とかってあるかしら?」

「ありますが、解体してないですね」


 頭の中で在庫状況を確認すると、言われた魔物を持っているのが分かる。


「解体、やったことある?」

「あります。1匹でいいですか?」


 僕は田舎の狩人の子だから解体はもちろん色々と仕込まれているのだ。


「できるならおねがい。目と根の部分が特に貴重なのよね、もちろん魔石も買い取るわ。体の木材も一応買い取り対象だから丁寧にやってくれたらおまけしちゃうわよ」

「ちなみにおいくらで?」

「完品なら35万ウィカね。解体もしてくれて状態も綺麗なら40万で買い取りましょう」

「了解です」

「なら魔物を出してこの袋に入れて。解体場は外の別棟よ」


 個室から解体場へ移動。村もそうだったけど、独特のにおいがするよね。


「目の部分をくりぬいたらこの容器に移してね。根を切る道具は流石にないわよね」

「近いものはまあ持ってますけど、借りられるなら借りたいです」

「……そうね、了解。目はこのスプーンで、根はハサミでいいかしら」

「大丈夫です。枝葉は落としますか?」

「お願い」

「じゃあノコギリもお願いします」


 こいつの枝、滅茶苦茶硬いんだ。


「ふっふっふっー、ミスリルノコギリよ!」

「またいいものを」


 さすがは冒険者ギルド。

 とはいうものの素早く片付けられる道具がそろっているのは素晴らしい。解体は鮮度が大事だからね。

 テーブルに布を置いて、目の部分が下に向くように置く。後ろから少し強めに叩いて、目の部分の周りを満たしている液体を落とす。

 今度は目の部分を上に向け、液体を落として空いた隙間にスプーンを左右からいれてつぶさないようにゆっくりと持ち上げる。それなりに弾力があるので、そこまで力を入れなければ潰れたりはしないが、なんとなく慎重になる作業だ。


「おう、こっちにいたかイセリナ」

「はいはい? どうしたのかしら」






 解体作業を順調に進めていると、ギルドの受付にいた強面のおじさんが登場した。


「騎士団から依頼がきてるぞ。Bランクに対応できる人間を出して欲しいそうだ。お前さんも出れるなら出てほしいと」

「どんな案件?」

「南の街道にしびれマンタがでたそうだ」


 しびれマンタ? 村じゃ聞いたことない魔物だな。


「またぁ? どっかに巣でもあるんじゃないのかしら」

「だな。今回は駆除に加えて原因調査……解決も含んでも依頼だ」

「空を飛ぶ魔物は面倒なのよねぇ。強さは大したことないけど弓の射程がどうしても……クラフィくん、この後空いてるかしら」

「え? オレですか?」

「ええ。ジークの子供なら弓も使えるでしょ?」

「まあ森で生活していたので、しびれマンタって?」

「空を飛ぶ平たい魚の魔物、大きいやつで三メートルくらいあるわね。上空から麻痺性の唾を飛ばしてきて獲物を動けなくしてから襲ってくる魔物ね」

「厄介そうですね」

「そうなのよ。魔石のランクはDランクなんだけど討伐難易度はCね」

「あれ? Bランクなんですよね?」

「駆除だけならCだが、さらに調査も含んでだからな。てか珍しいの解体してんな。自分で獲ったのか?」

「はい」

「解体も丁寧だ。さすがジークの子供だな」

「父さんのこと知ってるの?」

「ジークは強かったからな。王都から離れて結構経つからあいつのことを知っている奴もだいぶ減ったが」


 こっちで活動してたの二十年くらい前なんだっけ?


「あいつの子でAランクの魔物も持ち込めるってんなら強さは十分だろうな。イセリナ、こいつは?」

「6級にしといたわよ」

「ならいけるな。他はどうする? 双翼なら帰ってきてるが」

「一応声をかけてみますか。他は……何件か酒場回って確認してみるわ」

「そっちはもう走らせてる」

「そ? なら楽できていいわね」

「ああ。南は雑魚魔物が多い分こっちの新人も多いし商人の出入りも多い街道だからな。騎士団も警備を出すって話だし……随分金が良かった」

「さすがに金の使いどころくらい知ってるんでしょ。着替えてくるわね。それでクラフィくん、受けれるかしら?」

「夜までに戻れれば平気です」


 今日はもともと体を動かしにきているから使用人服じゃなくて私服だ。護衛リーダーにもギルドで活動すると言ってあるから問題ない。


「じゃあ解体終わらせといて? あ、これお金ね。素材は机の上に置いといていいわ。ボガート、片付けお願い」

「ああ、誰かにやらせとく」

「よろしくー」

「ありがとうございます」


 あとは枝を落とすだけだからサクっと終わらせてしまおう。そう思っていたらボガードさんが代わってくれるとのこと。で、弓と矢を持ってこいとのこと。

 あ、そうですね。見た目持ってないですもんね。





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