第13話 新しい武器を求めて

「このボクが命令しているんだぞ!」

「誰だよおめーは。子供のお遊びに刃物はあぶねーだろうが。さっさと帰れ、うちの店にはお前さんに売る武器はねえ。鍋だって売ってやらんぞ」

「なめるなよ! ドワーフ風情が!」


 うわ、しんどい場面に出くわしちゃったな。タイミング悪かったわ。

 って、あの方は。


「ザイールさま?」

「む? お前は?」

「あ、初めまして。サイバロッサ家に仕えているクラッドフィールドと申します。学園でクラスが同じですので」

「そうか、若の護衛のハインリッヒだ」


 壊れた短剣の代わりが欲しい。というか普通の短剣ではなく、もっと丈夫な武器を作ってもらいたいと思って冒険者ギルドでイセリナさんに相談。おすすめの武器屋を教えてもらった。

 そしたらなんか騒ぎの真っただ中だったわけだ。しかも知人、クラスメートである。

 思わず名前を呼んだら護衛の騎士に警戒されてしまった。もちろん学園に連れている人とは違う大人の護衛だ。

 貴族やその家族の護衛は普通、大人の騎士の仕事だ。学園内で大人をゾロゾロと連れていくのに色々問題が起きたからオレみたいに同年代や近い歳の人間が選ばれているが、一歩学園の外にでれば大人の世界である。

 学園への送迎の馬車には当たり前のように大人の騎士の護衛がついている。むしろ子供の従者は足手まといになりかねないのでお役御免になるのだ。おかげで学園が終わったあとの時間は結構自由にできる。まあ出かけるとお屋敷の人に買い物を頼まれたりするけど。


「なあ坊主、若のこと止めらんね?」

「や、家の人の仕事でしょ。それ」


 こっそり話しかけてきた護衛の騎士にこっそりと返す。なんでオレがよその貴族の家に関わらないといけないんだ。


「お前さんも用があってきたんだろ? ああなるとウチの若、なげえぞ」

「武器屋に睨まれるなんて真似、よくできますね」


 うちの村でそんなことをしたらどんな目に合うか……。


「む? お前は確かアリアンナ嬢のところの……」

「ご挨拶がおくれまし……」

「いいとも! それよりもお前もボクがどこの誰だか教えてやってくれ! ここの主人がボクには武器を打たないなどとふざけたことを言っているんだ!」

「ふざけちゃいねえよ。お前さんみたいなのにはあぶねえっつってんだ」

「ボクの武器を作らせる名誉を与ええると言っているんだぞ!?」

「話聞け」


 わあ、こりゃあしんどいわ。僕もあんまり時間がないから出直すかなぁ。あ、いいものある……けど、いいかな? ちらりとドワーフの店主さんに視線を向ける。目を背けたな、やっぱり自覚ありか。


「ザイール様、ザイール様。こちらの剣をご覧ください」

「だから何度も、む? なんだ?」

「この程度の剣しか打てないお店では、ザイール様の武器を作るには不足かと思われます……刀身のバランスも悪いですし、刃も少し歪んでいます」

「おお、確かに坊主の言う通りだ。若、こいつは若にはふさわしくねえ。こんな武器屋を選んじゃあ若の腕も落ちちまいますぜ」

「ふむ、確かに……美しくない剣だな! 王都で一、二を争う鍛冶師のいる店と聞いていたが、こんなものか!」

「ええ、さようです。旦那様に言って領内で作ってもらいましょう! 生まれ育った街で作られた武器の方がその人間にも合いますぜ」

「む? そ、そう、なのか? そうだな! アリアンナ嬢のところの! お前さんのところも面倒をみてやろうか!?」

「あ、いえ。ザイール様のお気持ちだけで十分です。オレの出身地は別ですし」

「確かにそうだな! では帰るぞ!」

「へい」


 た、単純でよかった。店を出ていくザイール様を見送ると、店主さんがこちらに声をかけてきた。






「物を見る目はあるみてえだな」

「すいません、お店の物を貶すようなことを言って」

「追い返してくれたからかまいやしねえよ、だいたいそいつは売り物じゃねえしな」

「そうなんですか? まあ他の武器と比べると明らかにレベルが落ちているので何かなとは思いましたけど。でもどこか引き込まれるような光沢の剣ですね」


 普通の鉄じゃなくて、何か魔物の素材でも混ざってるのかな?


「分かるか! いや、そうなんだよ! そいつはウチの孫が初めて作った剣でな!」

「は?」

「ライトニングラビットの骨を混ぜて作ったんだ! もう才能を感じたな! じいじのお店にって言ってきたからには店に飾るしかねえだろ!」


 光沢の原因はやはり魔物素材らしい。まあ絶対に買わないけど。


「……まあいいです。他の武器を見させてもらってもいいですか?」

「あ? ああ、そういや客だったな。まあ見るだけならいいぞ」

「欲しけりゃ買いますけど」


 客だぞ?


「うーん、流石にないかぁ」

「ないって? どんな武器が欲しいんだ?」

「魔力が通せる、太さのある剣か短剣でサイズの合うものがないかなと。ああ、ナタか。丁度いいかもですね」


 護衛依頼を実施するにあたって、ウォーオークとの戦いのときのように武器が壊れるのは避けたい。ただオレの体つきだと持てる武器が短剣くらいなのだ。普通の大人用の剣だと長すぎる。そして短剣だと普通の剣と打ち合うにはもろすぎて不足してしまうのだ。

 いま目についたのはナタだ。片刃だが短剣と長さはあまり変わらないし、短剣より頑丈だ。その代わりその分重くなる。

 材質によって多少は変わるが、やはり重さと厚みというのは武器に大きな影響を与える。

 それと村から出て領都で過ごしていた分かったことだが、普通の鉄の短剣では魔力を込めての強化は剣が耐えられない。鉄に魔物の素材を混ぜ込むなり、魔物の素材そのものを削って作る武器でないと魔力による強化の通りが悪いし、武器が疲労してしまうのだ。


「ナタ? 振り回すには力がいるぞ? 子供のお前にゃ無理……でもなさそうか?」

「鍛えているから大丈夫だと思います」

「ほほう、じゃあこっちにこい。あんま並べてないからな。いくつか店に出してないのを見せてやる」

「ありがとうございます」


 お店の裏、倉庫の部分だ。そこにはいくつもの武器やお鍋などの鉄製品がずらりと並んでいる。


「お、ナタだ」

「そりゃナタもあるわな。まあ鉄製の普通のナタだが」


 見事に普通のナタである。

 鞘から抜かずに持ってみると、思いのほかしっくりくる重さだ。大き目とは言ったけど、こいつは長さもちょうどいい。


「どうだ?」

「魔力、流しちゃまずいですよね」

「構わねえが、そんなに耐えられないぞ」

「……やめときます」


 売り物をダメにしちゃまずい。


「なんなら新しく打ってやってもいいぞ?」

「いいんです?」


 ザイード様にはダメって言ってたけど。


「むしろ打ってやらねえって話のがすくねえさ。今日みたいな勘違いした手合いはお断りだがな。そこらの冒険者共にだってちゃんと売ってやってるし、希望があれば作ってやったりもしている」

「はへえ」


 頑固な職人さんかと思ったら、そうでもなかったらしい。


「見た感じ坊主は武器の扱いも丁寧だしな。剣を見る目もあった。まああれは誰が見てもナマクラだが」

「あはははは」


 お孫さん、おいくつなんですかね。


「うわ、すっごいですね。あれも武器の材料なんですか?」

「ああ? あれか、あれはなぁ。武器の材料なんだが、加工ができないんだよな」

「そうなんです?」


 壁に固定されるように飾られている一本のでっかい牙。


「フレアドラゴンっつうとんでもない化け物の歯だ。とてつもなく硬いうえに火に強い魔物の素材だからハンマーで叩いて形を整えることができねえ。砥石で削って削って作業でないと形を整えらんねぇんだが……」

「だが?」

「あれ一つしかねえからもったいなくて使えん。がっはっはっはっはっ」

「ああ、なんとなく分かります……もしかして、素材の持ち込みとかすればそれで作ってもらえたりします?」


 あの牙と似たようなものが空間庫に収まってるんだよね。


「やれなくはないが、品物を見てからだな。何の素材だ?」

「名前は分かりません。なんか牛っぽい顔で筋肉質で大型のドラゴンみたいにでっかくってとんでもなく硬かったやつです」

「どこの化け物だそりゃあ。お前さんが倒したのか」

「はい。普通の方法じゃないですけど」


 ロケランブッパ祭りである。父さんも笑いながら見てただけだから本当に一人で対処する羽目になった。


「興味はあるな。ドラゴンの牙みたいな素材はたまに持ち込まれるが、少なくともお前さんが言うような特徴の魔物は覚えがない」

「まああんなのがたくさんいたら、人類は全滅でしょうからね。いくついりますか?」

「たくさんあるのか!?」

「単独で撃破してますから。牙と爪があります。それぞれ全部で20本くらいあるんじゃないですかね? 失敗したとき用のためにいくつか渡しておきますか?」

「できれば骨とかも見てみたいが」

「あー……どこの骨がいいか区別がつかないです。それと大きさが大きさですから」

「ドラゴンの、それも大型のサイズのものだもんな。そりゃそうか」

「というか王都に運び込むのに一騒動おきますよ」

「確かに牙でもあのサイズだからな」

「そもそもちゃんと見たわけじゃないので。牙もあれより大きいかもしれないです」


 戦っているときにしっかり観察したわけじゃないし、すぐに収納にしまったから体感でしか大きさが語れない。


「よし、今度持って来い。一つでいい」

「分かりました。でも一つでいいんですか?」

「失敗を勘定に入れてたらいいモンは作れねえさ。現物を見てみないと判断できねえが、でっけえ魔物ってのは大体硬い強いだからな。こっちも気合をいれさせてもらうわ。ただあいつと同じレベルだと削りでしか成型ができない可能性も十分考えられる。ひと月とかふた月レベルの仕事になりかねん」


 おお、いかにも職人さんって感じだ。


「それでいいものが手に入るなら」

「ああ、それと今使ってる武器も持って来い。手入れしてやる」

「助かります……」


 なまくらなので。






「てめえ、武器なめてるのか?」

「絶対怒られると思ったー!」


 翌日は買い物を頼まれたので翌々日。学校もない丸一日空いている日があったので、用事を言いつけられる前に屋敷から脱出した。護衛のリーダーには伝えておいたから問題ないだろう。


「間に合わせ、というか今の雇い主からのもらい物なので」

「それにしても、これはひどくねえか?」

「オレの体のサイズにあった武器だと、どうしても……」


 そうなのである。オレが持っている武器はやはり短剣なのだが、これ、武器職人じゃなくて領都の鍋とか包丁とかをメインで作っている人が作ったものらしいのです。


「はあ、こっちかこっちだな。間に合わせにはなっちまうが、どっちか買ってけ。どっちにしても予備の武器は持っていた方がいい。金はあるか?」

「おいくらで?」

「どっちも15万ウィカでいいぞ」

「高い……まあそれならこっちがいいかな」


 そういって短剣を購入。間に合わせにしては高い。


「しかし、参考にしようと思ったんだがこれじゃあだめだな」

「まあそういう流れだと思ったので、こちらをどうぞ」


 黒の森でウォーオークを相手にして砕けた短剣を取り出した。こちらはだいぶ使い込んでいるし、それなりに愛着のあった代物である。


「ほほう、こいつは……このレベルの刃物がここまで砕けるか」

「攻撃を仕掛ける瞬間に、多分強化か何かを使われたっぽくて」

「なるほどな。こいつも預かるぞ。柄は少しばかり太くなるが、癖に合わせて少し凹凸をいれといてやる」

「助かります。それと、こいつですね」


 背負いましたる布にくるまれた巨大な魔物の爪。魔物にくっついたままだったので一度王都から外に出て空間庫から取り出して歯と爪を取り出して確認したのだ。歯よりも爪のがなんとなく武器に合ってそうだったからそっちにした。

 王都の近くでも出せないサイズだったから、遠目に見える山まで空間跳躍させていただきましたよ。

 その後でまたしまって、冒険者ギルドによってイセリナさんのところで空間庫から取り出した。用意してなかったので布と縄はそこでもらいました。


「こいつはぁ、すげえな。触り心地がそこらのドラゴンの非じゃあねえ、立派な爪だ。大きさも大型種のモンにちげえねえな」

「爪だけなのに、オーラみたいなものを感じますよね。鋭そうなのではなく、堅そうなのを選んできました」

「まあ作るのはナタだからな。もちろん刃もいれるが、ナタみたいな刃じゃなくて剣の刃にしたほうがいいんだろ?」

「可能であれば」

「どうしても厚みがでちまうから、切れ味は普通の剣よりも落ちるが構わないか?」

「そこは強化魔法でなんとかできるんじゃないかな」

「切れ味の強化か。こいつにかけるととんでもないもんになりそうだ。そじゃあ預かるぞ。工房に運んでくれ」

「はい」


 言われるままに初めて工房に足を踏み入れる。なんか滅茶苦茶綺麗に整えられてるな。


「ここが仕事場?」

「今日のために片付けた。机の上に置いてくれ」

「なるほど」


 気合の入りようが違うな。


「ああ、それと連絡先をくれ。完成したときもそうだが、何かしら問題が起きたときとか、あと追加で金がどうしてもかかる場合には連絡をする」

「あ、そういえば料金は?」


 お金足りるかな? 場合によってはイセリナさんに何か買い取ってもらわないといけなくなる。


「いらん。これだけの素材を触らせてもらうんだからな」

「……助かるけど、いいの?」

「ああ、とはいえさっきの話通り、どうしても追加で金がかかるときは連絡をするが」

「了解、よろしくお願いします」

「ああ、任せとけ」


 翌日、すぐに連絡がきた。


「いろいろ試したが、並みの砥石じゃ削れん。ひと月ふた月といったがもっと時間がかかるかもしれん」


 うん、伝言じゃなくて直接言ってほしい。メイドのシャーリーさんが首をかしげていたから。





======


面白い! 続きが読みたい! もっと書けコラァ!

少しでもそう思った方は作品のフォローと☆レビューと♡をお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る