第12話 魔法の授業
「なるほど。これは怪我人がでますね。お嬢様、オレから離れないでくださいね」
「ああ。これは危険だな」
初めての魔法の授業。その授業風景を眺めながら、オレは障壁魔法で自分とお嬢様を守る。
「ほーっほっほっほっほっ、中々有用な従者をお持ちみたいですわね!」
「すみません、あたしたちも入れて貰ってもよろしいですか?」
昨日お嬢様とお話をされたサンドフェルズ家のお嬢さんとその従者だ。イヴリン様の巻き髪が焦げてる。すでに巻き込まれた後か。
お嬢様が頷いたので、障壁を広げる。
「まったく、授業で初めて魔法を使う者がこれだけいるなんて嘆かわしい話ですわ」
「ああ、予め自分の力量を把握してしかるべきだろう」
お嬢様方二人がそんなことを言うが、まさにその通りである。
人々を魔物の脅威から守り、王国の版図を広げてきた家系が貴族の家系だ。そんな貴族たちは普通の人間よりも魔力量が多い。その血を受け継ぐ貴族たちの子供たちも当然、一般的な人間よりも魔力量が多い。
そんな子供たちが初めて魔法を使おうとするのだ。自分の力量を把握できておらず、扱えない量の魔力を練り上げて暴発。そのような光景が目の前で繰り広げられているのであった。
うちのお嬢様のように、自領でトレーニングしている人間も当然いるのだが、危険だからと魔法を禁止されて育てられた子供も珍しくないらしい。まあ確かにすべての家で魔法の家庭教師を雇える訳じゃないだろうし、それはしょうがないと思う。
とはいえいきなり暴発する危険性を放置して、魔法を行使させるのは教育現場としてどうなんだ?
学校側も配慮して欲しいものだ……先生方は鎧にローブと防御ガチガチだな。
怪我人が迅速に運ばれていき、素早く処置される。違う、そっちをメインにするんじゃなくて暴発させる方をなんとかしてほしいんだ。
「本当に危ないですね」
飛んできた炎の弾を障壁で止めつつ、飛ばしてきた人に視線を向ける。や、そんな驚いた表情をしたあとで親の仇を見るような目でみないでくれ。圧縮もされてないスカスカの魔法なんて当たったところでオレの障壁はビクともしないぞ。
「無属性の魔法ですわね? 珍しいといえば珍しい、のかしら?」
「無属性の魔法は適正者が多いと聞きますよ。ただこのレベルで運用できる人間はあまりいないと思いますけど」
「クラッドフィールドは優秀だからな」
「ありがとうございます、お嬢様。ですが、まあ地味なんですよね」
念動は遠くに離れたものをつかんだりするのに便利だし、障壁は御覧の通り防御に適している。身体強化や身体活性化も使い勝手の良い魔法だ。ただ効果はともかく見た目は地味なものが多い。
「魔法には華やかさも必要ですわよ?」
「そのようですね」
さっきから懸命に詠唱をして魔法を唱えている面々を見て、オレは笑いをこらえるのに必死なのだが。新手の拷問だろうか。
「次、クラッドフィールド」
「呼ばれたので行ってきます。障壁はそのままにしておくので動かないでくださいね」
「ああ、分かった」
「ほーっほっほっほっほっ! そうしますわ」
お嬢様方が頷かれたので、障壁を張りなおしつつ前にでる。
「適当に攻撃魔法を。的に当てるなり壊すなりすればいい」
「分かりました」
先生に言われて手を前に向け、魔法を放つ。
バギッ! と音が鳴り、木製の的が砕けた。
「……すまない、見えなかったのだが。風魔法のエアバーストかね?」
「いえ、無属性のショックです」
「……なるほど、分かった。詠唱が無かったが……」
「自分には必要ないので」
「……了解した。次はお前のところの主人だ。呼んできてくれ」
了解してくれた。良かった良かった。
「分かりました。お連れします」
お嬢様のところに行き、共に移動をする。
「風よ、切り裂け! ウィンドカッター!」
お嬢様が魔法を放つと、的がきれいに切られた。
「お見事です」
「素晴らしい結果でございます」
オレだけでなく、先生もお嬢様を褒める。この先生は平民かな?
あ、また来そうだ。お嬢様を中心に障壁を張る。
「っと、本当に危険だな」
「一人ずつ見ていると時間が足りないですからね。クラッドフィールドくん、障壁助かったよ」
「いえ、先生には必要ないかと思いましたが。ですが、もっと何とかならないんですかね」
先生も辟易としているみたいだし。
「元々はそれぞれのレベルを聞き取りして分けていたんだ。ただ個別の聞き取りでは正直に言わない子がそれなりにいるからね。こうして実際に痛い目を見てもらったうえでクラス分けをするんだよ」
「……家庭教師を雇えない家、とレッテルが貼られる場合もあるからな」
お嬢様も納得している。あれか、貴族的な謎プライドの話か。
「そういうことです。その点お二人は十分に合格レベルです。今後はどちらかといえば魔法の運用などの座学が中心になるでしょうね」
「了解した。先生、ありがとうございました」
「ありがとうございました。それでは失礼します」
爆風が消え、砂埃も収まったので先ほどと同じく壁の近くに移動した。
何も言わずにこちらに近寄ってくる子供がひのふの……。お嬢様、にらんではいけませんよ?
オレが小さく首を振ると、はっとして、再び凛とした表情に戻る。
「クラッドフィールド、彼らが入れるくらい障壁は広げられるか?」
「問題ありません」
「そうか。うちの従者の障壁内で良ければ入られるか?」
もうちょっと柔らかく聞いて差し上げて?
ほら、なんか嫌そうな表情をしている人が何人かいるもん。
「ああ、すまないが頼めるか?」
「わ、私も……お世話になりたいですわ」
とはいえ爆風やら爆炎が飛び交う実習室、魔法自体が直撃せずとも砂埃が大量に舞う状況だ。貴族の子じゃなくても嫌である。防げるのならば防ぎたいだろう。
気が付けばお嬢様を中心に怪我をしていない貴族たちの群れができあがっていた。そんなにくっつかなくても障壁の範囲は広いから……あ、見えないか。地面にラインを引いておこう。
あ、イヴリン様がまた巻き込まれた。
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