王都での日々

第11話 ご挨拶

「アリアンナ=サイバロッサ。サイバロッサ男爵領の娘だ。よろしく頼む」

「クラッドフィールドと申します。よろしくお願いいたします」


 無事に教育も受け終わり、冬も終えて温かくなってきた季節。オレはお嬢様に着いてブロストウィル学園に入学をしていた。

 家はサイバロッサ家が王都に構えている別邸だ。領都の領主様の家よりよほど豪華なお宅。そこの使用人棟の一室を与えられているため、家賃はタダであるうえ、護衛として給料が毎月10万ウィカもでる。

 学園の入学費用も領主様の家が持ってくれるし、贅沢さえしなければお金はほとんど掛らずに生活もできる素晴らしい環境である。


「ジョージ=フォルトラである。フォルトラ男爵領の嫡男、よろしく」

「シンシアにございます」


 まず主人が挨拶をし、次に従者が挨拶をするのがこの学園での習わしらしい。席順は適当だ。だが子供のころからの付き合いがあるのか、すでに派閥のようなものができているようにも見える。


「お前達は貴族であり、その従者だ。一度の挨拶でなるべく相手の名前と顔を覚えられるようになっておくといい。社交界で恥をかくだけならいいが、場合によっては相手の顔に泥を塗るような結果になりかねん」


 全員の自己紹介が終わると、先生がそんなことを言いだした。礼儀作法の時に教わったとはいえ、貴族社会怖い。


「クラッドフィールド、覚えられたか?」

「たぶん」


 小声でお嬢様に問われたので、こちらも小声で返す。


「そうか、すまん」

「お嬢様も頑張ってください」


 毎回フォローできるわけじゃないんだから。


「それと明日初めての魔法の授業が明日あるが、毎年必ず怪我人がでるから加減をするように」


 毎年怪我人がでるのか。

 他にも細々とした連絡事項を受ける。とはいえこれらの連絡事項の大半は主であるお嬢様方向けの連絡事項だ。もちろん内容はオレも覚えるけど、どこどこの国のだれだれが来られる予定があるとか言われても関係ないとしか言いようがないんだが?


「お話、よろしくて?」

「あ、えっと……」

「イヴリン=サンドフェルズ様、お席をお譲りします」

「あら、ありがとう。気が利く従者ですわね」

「恐れ入ります」


 先生が立ち去ると、早速お嬢様に声を掛けられる貴族のお嬢さんが現れた。サンドフェルズ家は侯爵の家だ。サイバロッサ家と比べるまでもない、でっかい家である。おお、リアル金髪巻き髪だ。それとお嬢様よりも発育が良く立派に実っていらっしゃる。


「すまんなクラッドフィールド」

「いえ」


 あからさまにホッとしてるし、小声でイヴリン様イヴリン様と呟くのはやめてくれ。せっかくのフォローが台無しになる。

 お嬢様同士での会話が始まると、今度は従者二人が暇になる。お互いに視線を合わせて、どうしようかと苦笑い。

 イヴリン様の従者は藍色のストレートヘアの女性だ。


「クラッドフィールドです。家名はありません」

「カリンカよ。同じく家名はないわ。よろしく」

「へえ、意外です」


 侯爵といえば大貴族である。そんな家ならば従者にも貴族や騎士に連なる人間がなるものだと思っていた。


「サンドフェルズ家は実力主義なのよ? 結構有名だと思ったんだけど」

「すいません、あいにくうちは田舎ですから」

「そうなのね? 確かサイバロッサ領は東の山間の領よね」

「良くご存じですね。サンドフェルズは確か、南の砂漠地帯の手前側の」

「その砂漠もサンドフェルズ領よ。広さで言えば恐らくブロストウィル王国で一番の広さね」

「それは凄いですね」


 砂漠か。何もないように見えて結構資源が埋まっていることが多いんだよな。それに砂や荒野が多いから採掘機械も設置しやすいのも利点だ。

 お嬢様は大丈夫だろうか? サンドフェルズ領について、どこまで……。


「クラッドフィールド、助けてくれ」

「……気のせいかな? 何か聞こえる気がする」

「気のせいじゃないと思うわよ?」


 いきなり上級貴族のお嬢様の前で助けてくれなんてやめてくれないかな。


「どうしよう、お茶会に誘われてしまったぞ」

「どうぞお受けしてください」

「そ、それはもちろん。だけどどうするか。手土産とか……」

「ご本人を前にして言うことではないです、お嬢様」

「はっ!?」

「ふふふふ、中々愉快な方みたいですわね」

「あうう」


 顔を赤くしているお嬢様というのも珍しい。


「週末、楽しみにしているわね」

「あ、ああ。よろしく頼む」

「……カリンカさん、あとでお時間を貰えますか?」

「正式の招待をされるよう、お手紙をお出しいたしますね」

「助かります」


 オレ、護衛であって執事ではないんですけど。






「んーっと、ここが冒険者ギルドね」


 王都はとても広いし人も多い。うちの村どころか領都とも比較できないほどの規模である。もしこれだけの人を初めて見ていれば、オレも圧倒されていたかもしれない。

 とはいえ初めての施設だ。少しだけ緊張する。


「どこぞの貴族の従者か。何か依頼か?」


 スイングドアを開けて中に入る。時間帯がいいのか、人はほとんどいないようだ。

 カウンターから野太い声がこちらまで届く。入り口を注視してるのかね?


「依頼という訳ではないのですが、イセリナさんという方に手紙を預かっているんですけれども」

「イセリナか。ちょっと待ってろ」


 強面のおじさんがカウンターの後ろに下がると、一人の女性を連れてきた。


「あたしがイセリナよ? 手紙を預かったって?」

「はい。母からです」

「母? んー?」


 手紙を渡すと、目を細めてこちらを見てくる。

 エルフの人か。今生では初めてみたな。


「お母さんの名前は?」

「アネッサです」

「……お父さんはジークリンデ?」

「そうです」

「すぐに読むわ。ちょっとこっちに来なさい」

「おいおい、アネッサとジークリンデの子だと?」

「しーっ!」


 父さんと母さん、名前が知られてる?

 個室に連れてかれ、座らされる。


「どこのお坊ちゃんが来たと思ったわ。その服は?」

「いまお世話になっているサイバロッサ家の使用人の服です。この後買い物も頼まれているので」

「……あんたホントにあの二人の子?」

「……どう答えればいいんでしょう」


 褒められてるのか貶されてるのか。


「あの二人の子にしては礼儀正しいわねって。それと奉公に出てるのも意外だわ」

「奉公には父さんが、まあ外に出ろと言われまして」


 嫁探してこいと言われたとは言いにくい。


「二人は、元気よね。とくにジークが病気になるなって想像つかないし」

「風邪なんか引いたことないって言ってますね。母も元気です」

「そ、ならいいわ。へえ、空間庫持ちねぇ」

「あ、そんなこと書いてあるんです?」

「言いふらすつもりはないわよ。あの二人を敵に回したくないもの」

「あのふたり・・・…」


 うちの父と母はどういうコンビだったんだろう。


「黒い森の素材を持ってるのね? ならそうね、ジュエルバイコーンの角はあるかしら」

「あ、はい。何本いります?」

「一本で良いわよ。てか二本も出されると困るわ」

「そうですか」


 ジュエルバイコーンは一本角の黒い馬の魔物だ。馬とはいえ魔物なので普通の馬よりもだいぶでかい。

 角が宝石のように光り輝いていて、一目見ればその価値は高い物であると分かる一品だ。


「320万ウィカで買い取るわ。とりあえず他はまたおいおい聞くから」

「はあ、まあ分かりました」

「ああ、それと冒険者カード発行しとくわね。カードがあれば買取の手数料が安くなるから」

「そうなんですね」

「とはいえ実績もないし。6級からでいいかしら」

「……実績がないなら一番下からじゃないんですか」

「ジークと! アネッサの子に! 一番下のランクの仕事を任せられますか!」

「や、知らないですよ……」


 ウチの両親は活躍してたんですかね。


「……ジュエルバイコーンを倒したのは?」

「自分ですけど」

「ほらー! やっぱりぃ!」


 そこで頭を抱えられても。


「あ、そっか。うちの村非常識だったんだ」

「思い出してくれたかしら! てか二人じゃなくて村単位でおかしいの!?」

「オレはそう判断してます」


 少なくともそういう連中の集まりに見えている。


「はあ、まあいいわ。とにかく、たまにでいいから顔をだして。黒い森やその周辺の魔物の素材は有用なものが多いから。代わりにお金払うし、ダンジョンとか行きたかったら紹介するから」

「はあ。じゃあ体を動かしたくなったら顔をだしますね」


 訓練だけだと鈍っちゃうからね。

 ・・・…なんか手紙を届けたらお金持ちになったんだけど。

 買い物ついでにお嬢様にお菓子でも買っていこうかな。

 それとも材料だけ買って自作を試してみようか。軍用のサバイバル本教本なんかと一緒にお菓子のレシピ本もなんか空間庫に入ってるんだよね。

 あとあれだ、短剣も買わないと。折れたままだ。領主様から一本もらったけど、ぶっちゃけなまくらだし、領主様からもらったものを折ったらまずい。

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