第9話 スラッグTCC-07

「おう、随分とすっきりした顔してんな。上から見てたがすげーな。まさか竜種まで倒すたぁ」

「死ね」


 パンパン! とハンドガンで父の足元を銃撃。


「おわっ! なんだそりゃ! あぶねえだろ!?」

「うっさい、疲れたよ」


 見知らぬ森で凶悪な魔物と対峙してきたのだ。防衛ドローンのおかげで完全に無傷でかえって来れたけど、流石に疲れた・


「……んで、そいつがお前の切り札か?」

「んー、まあ切り札の一つ、だね」

「他にもあんのか? うお、地面に穴が開いてるな」

「そういう武器だからね」


 体の汚れを簡単に落として、椅子を取り出してそこに座る。この椅子も過去の時代の遺産だ。


「金属製の椅子だぁ? なんだそりゃ」

「あー、父さん。オレね、どうにも生まれ変わる前の記憶があるんだよ」

「は? 何言ってんだ? 精神攻撃でも食らったか?」

「……もっかい撃つぞ」


 銃を構えると父さんが後ろに下がる。


「悪い、冗談だって。しかし生まれ変わる前の、記憶?」

「たぶん、そう」

「ほーん。そんで?」

「生まれ変わる前のオレはさ、軍人だったんだ。で、その時に空間庫の中にしまっていた武器がこれ、他にも色々あるけど」

「クラフィ」

「何?」

「軍人ってなんだ?」

「あれ? 軍ってなかったっけ?」

「何のことかわからん」


 この国ってそういえば騎士団とかだよね。それに他国との戦争とか、ないのか!?


「えーっと、国を守ったりよその国を侵略したりするときに戦う専門の人。のこと?」

「騎士団みたいなもんか」

「そそ!」


 王国の戦力は騎士団とその下に兵士団があるだけだ。確かに軍ってのは聞かない。


「ああ、そういうことか。てか騎士団、じゃなくて軍人だっけか? どっかの国の所属か?」

「国っていうか統一宇宙軍」

「……聞いたことないな」

「だろうねぇ」


 手元で銃をくるくるさせて空間庫にしまう。さて、父さんの反応は?


「で、どんな武器があるんだ?」

「はえ?」

「さっきのは礫を放つ武器か?」

「や、魔力を弾にして撃つんだけど」

「魔力を? ああ、そういや穴が開いても中に何も残ってないな! 魔法攻撃だから霧散するのか」

「そうそう」

「ほー、威力はどんなもんなんだ?」

「ウォーオークの頭を貫けるくらいの威力」

「は?」


 まあそうだよね。鋼鉄製の短剣を砕くレベルの硬度を持っているウォーオークの、さらに固い頭を貫けるんだから。


「ウォーオークっつったか? あいつらくらいのレベルになると魔力で体が保護されてるから簡単には貫けねえはずなんだが?」

「そりゃ障壁貫通のエンチャントが自動でされるからね」

「障壁破砕? エンチャント?」

「生成された弾丸が、魔法的だったり電子的な壁だったりを貫けるようになってるの。こんな感じ」


 ウォーオークの死体をひとつだす。眉間に一発分の穴が開いているだけで他に外傷がないやつだ。


「……魔物ってのは大なり小なり魔力で体を覆ってるもんだ。特にAランク以上の奴らはな、その辺がおかしなレベルで備わってるからなかなか傷つけることができねえんだが」

「うん。そういうのを人の手で倒せるように開発された武器だからね」


 それと障壁を張れる人間を相手にするために作られた武器でもある。


「ウォーオークは肌が人に近いもの……まあ実際は豚だけどさ、そういうタイプだったから、魔力障壁さえ突破できれば弾丸が貫けるんだよね。さすがに甲殻や鱗を持ってるタイプの魔物相手だと、これよりも大きな銃が必要だけど」


 さっき追い返した黒い鱗を持ったドラゴンなんかの相手をするには、ハンドガンでは威力が足りない。アサルトライフルやショットガンもあったが、ある程度距離があったから山火事覚悟で魔導ランチャーをぶっぱなした。

 とはいえ流石にドラゴン。一発ではい退治、なんてことはなかった。にらみ合いになった後、去ってくれたのである。こちらとしては追いかけてまで戦うつもりもなかったので、そのまま逃がした。


「なんか光ってる剣も使ってたな」

「SBランスだね。これも強い武器だよ。雑に表現すると、なんでも斬れる刃こぼれがない剣」


 実際には何でも斬れるわけではないらしいが、少なくともこれは斬れませんって話は聞いたことのない剣である。


「剣にはみえねーなぁ」

「剣であって剣じゃないからね。警棒……スタンロットとしても使えるし。伝わってる?」


 ブオン、と音を立ててブレードを展開させた。


「ああ、なんとなくはな。しかし剣はいいな。ここじゃとんでもなく硬い魔物を大量に相手にせにゃならんから、剣がいくらあっても足りない」


 定期的に父さんやダズおじさん達、村の中でも上位に位置する狩人はここにきて魔物を間引いているという。確かにあのレベルの魔物と戦うと武器はすぐにダメになりそうだ。


「……んー、SBランスとスラッグTCC-007ならあげてもいいけど」

「マジか!? いいのか!? てかスラッグってのはなんだ?」

「使用者権限もつけれるから父さんにしか使えなくできるし。それにSBランスとスラッグTCC-07はメンテなしで長くつかえるから。あ、スラッグTCC-07ってのはさっき使ってたハンドガンの、まあ後継機だね」


 それ以上の武器もメンテがそこまでいらないものはあるが、素人に目の届かない場所で使わせるのは怖い。


「いや、でもさすがに悪いな。そんな貴重な魔道具を、しかも息子にもらうのは」

「いっぱいあるからいいよ。数えるのが馬鹿馬鹿しくなるくらい持ってるから」

「どんだけだよ!? なんでそんなに持ってるんだ?」

「まあ、色々あったんだよ」


 色々ありました。


「なるほどなぁ。そうか、お前さんのその余裕っぷりはあれか、経験からくるものだったわけか」


 父さんがなんか納得を勝手にしている。


「経験?」

「だってその軍人? だったんだろ? なら死に直面するような目に何度もあってるんじゃねーの?」

「ああ、そういう」

「それと比較したらオレとの訓練は、まあ結局訓練なわけだ。命の危機に瀕したわけでもねえし、いざとなったら武器もあるって状況だしな」

「うん。そうかも」


 そういって父さんがオレの頭をなでる。


「お前の判断は正しい。これだけ強力な武器なんだ、人に見せるべきじゃない。よくここまで隠し通してきた」

「父さん」

「オレもここでしか使わないし、ガイアにも含めて誰にも言わん。だからくれ」

「父さん……」


 色々台無しだよ。






「すっかり夕方だな!」

「ええ、ええ。そうだろうね!」


 あのあと、父さんにSBランスとスラッグTCC-07の使用者登録を行い、使い方のレクチャーをした。

 SBランスは魔力を圧縮した剣だ。重さがないことに文句を言っていたが、結局すぐに使いこなしていた。

 それに対しTCC-07はハンドガンだ。弓の名手でもある父だが、初めて使う武器なので狙って引き金を引き絞っても最初のうちは的にうまく当てることができなかった。

 どちらも魔力をチャージすればいいだけの武器だ。父さんも魔力量は多い方なので、半永久的に使えるだろう。まあ魔導核の劣化が起きるからその前に交換が必要だけど。

 スラッグTCC-07は最大24発の弾丸を放てるハンドガン。しかも使用中に魔力をチャージすれば何度でも弾を満タンにできる。必要魔力も低く、子供でも運用できるであろうといわれている優れものである。他の魔導銃は弾丸を空にしてからでないとチャージができないうえに専用の充填機が必要なものが多いので、この画期的なシステムのおかげで統一宇宙軍だけでなく、民間にも広まっている一品である。

 重量が軽すぎるから弾倉リロード式のスラッグTCC-06のが好きだけど。

 とにかくこの手軽に少ない魔力で高威力を放てる武器を持った父さん、最初の的当てでは満足できず、次は動く標的に試したいと森に降りてしまう。

 まあオレとしてもある程度使いこなせるようになってもらいたかったから了承したのだが、それが悪かった。

 この男、子供のようにはしゃいだのである。

 そりゃ弓矢よりいいよ? 単純に威力も高いし有効射程も長いし、魔力しか消耗しないし荷物にならないし。


「遊びすぎだよ……」


 SBランスとスラッグTCC-07をそれぞれの手に持って敵をばっさばっさばっきゅんばっきゅんの父。

 元々凄腕の狩人だ。武器の扱いにはすぐ慣れて、その勢いのまま調子に乗って戦い続ける。

 最初はきちんと両手で構えていたスラッグTCC-07も気が付けば片手撃ちで命中させるようになり、有効射程距離も把握できたのか魔物が顔を覗かせた瞬間にはすでに死んでいる、なんてことも多々発生。オレより使いこなしてないか?

 そして戦闘が起きれば大量の死体が生まれ、それらに惹かれて次々と出てくる見たことのある魔物や見たことのない魔物。

 徐々に数も増え父さんに任せきりにできなくなって、一度に大量に倒せるアサルトライフルや、高威力のショットガンなんかも使うことに。

 さっき戦ったドラゴンサイズの大きな獣もいた。どこにいたんだあんな化け物。魔導ランチャーが何度も火を噴いた。使役符で足止めできなきゃ手に負えなかったぞ。


「いや、すげー威力のもあるんだな。それに竜も呼べるのか。あれもくれよ」

「流石に怖くて渡せないよ。あれ、距離の目算間違えると自分も味方も巻き込みかねない武器だから」


 ある程度の時間が過ぎると、とうとう魔物が攻めてこなくなった。そして夕日が沈もうとしている。

 大量に出た死体はオレの空間庫と父さんが村で預かってきたという魔法の袋に詰め込んだ。父さんの魔法の袋、かなり容量が大きいらしいのに入りきらなくなっていたな。どんだけ倒したんだ。


「まいったな。時間に帰らないと死亡扱いになるんだが」

「あー、そういえばそんなこと聞いたことがあるようなないような」


 仕方ない。


「とりあえず帰ろうか……トドマ、カララも。いくよ」

「おお、急ぐか」

「いいよ別に。まだ秘密あるから」


 オレは手をかざすと、空間跳躍の魔法陣を空中に呼び出した。


「あ?」

「いわゆるワープってやつだね。これでも空間魔法の使い手だから」


 自分の前の空間を開き、別の空間へとつなげる。アムールアドニスのような宇宙艦は長距離の空間跳躍を行うので魔導核を必要としていたが、同じ惑星内のそれこそ一日で移動できる程度の距離を移動する程度ならば自前の魔力だけでこと足りる。


「あー、そうか。空間庫って空間魔法なのか。そっかぁ、そうだよなぁ……なら転移魔法もあるのかぁ……お前、領主んとこの護衛やめてやっぱこっち残んねえか?」

「今更やめれるかっての。それよりおいてくよ?」


 大体言い出したのは父さんじゃんか。






「あらあら、ボロボロね」

「主に父さんのせいでね……」

「いや、まあ、うん。それってどうなんだ?」


 お前の武器が悪いみたいな目でこっちに視線を送ってくんなし。

 それとボロボロになったのは今日着ていた服だ。僕らはちゃんと体を拭いた後である。


「それで、何を取ってきたの?」

「ああ、そうだ。あれこれ回収させたんだったな。まずはストライクイーグルを出してくれ」

「うん? どれ?」

「空中で襲い掛かってきた鳥だ」

「あいつか」


 羽が黒くお腹が茶色い鳥の魔物だ。翼を広げるとそれなりに大きいな。


「んー、さすがにお庭でやろうかしらね」

「それがいいな。匂いもでるし」

「解体? 今からやるの?」

「「 だって時間ないでしょ? 」」

「……まあ明日出発だからね」


 しかも早朝だ。


「黒い森の魔物は解体したことねえだろ? 市場にも出回らないから解体の仕方や貴重な部位、食える部位なんかを知っている解体屋もあんまいねえんだ」

「クラフィは魔法のぽっけがあるからいっぱい持って帰っているでしょ? でもそのままにしておくのは勿体ないじゃない」


 というわけでお勉強の時間らしい。

 とはいえ基本的に鳥獣魚植物亜人なので解体の仕方に大きな違いはない。毒がきつい奴とか薬になる部分とかの知識と、解体の時に特殊な刃入れが必要だったり先にこっちの臓器をとらないといけないとか普段と違う手順のを取らないといけない魔物について教わったりした。

 覚えきれるかなぁ?


「メモ書きしとくか……」


 親の前ではもはや隠す気もなくなったので過去の遺物の一つを投入。メモ帳とペンだ。こんなものでもこの時代では見かける事のない代物。とはいえ父さんは知らんぷりだし母さんは説明に一所懸命でこちらを気にする様子がない。

 きっと父さんがあとで説明してくれるだろう。うん。


「ウォーオークはお腹と肩と足のお肉が絶品なのよね」

「何匹回収したかな? 魔法の袋の中身を確認するのが怖ええなんて初めてだ」

「いっぱいあるから僕のを出すよ。でも何体か解体を手伝って」


 頭蓋骨に穴の開いたウォーオークと頭部が切り離されたウォーオークを取り出す。


「綺麗な死体ねぇ。こっちは首を一閃? クラフィ、お父さんより剣の腕いいんじゃない?」

「馬鹿いうなよ」


 父さんちょっとへこんでない?

 母さんの解体談義と料理教室を経て夕食を取る。

 そのあとは就寝だ。翌日、レイモンドさんと共に領都に戻る旅路に出る。

 行きと同様、通り沿いの村での寝泊りの交渉はレイモンドさんが全部やってくれたから助かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る