第8話 SBランスとスラッグTCC-06
「ただいま」
「お邪魔します」
「おうおかえり」
「おかえりなさい」
家に帰ると、父さんと母さんが出迎えてくれた。そしてレイモンドさんを見て首を傾げている。
「かくかくしかじか」
「なるほど、世話をかけるね。村長のところにいって部屋を借りれるか聞いてみよう」
「助かります」
「馬も村長のところがいいだろうね、うちにはカモジカがいるから」
「そっか、一応魔物だもんね」
馬の中にも魔物はいるけど、騎士団の馬は騎獣レベルのものではないようだし。
「あ、母さん。お土産。布は外に干してあるね」
「布? ありがと、新しい服が作れるかしら?」
「お店の人に生地は選んでもらったから大丈夫だと思う」
それとリボンも束で渡す。
「これもお土産ね、ソーカ姉さんと分けて?」
「まあこんなに! うれしいわ!」
「父さんと兄さんにはお酒を買ってきたんだけど」
「よくやった!」
「預かります」
「よろしくお願いします」
思わず背筋が伸びてしまったぜ。
「一日余裕がありますので、明後日出発しますね? 明日はご家族でゆっくり過ごしてください」
「お気遣いありがとうございます」
「そうさせていただきますね。あなた、レイモンドさんを案内なさって?」
「了解、レイモンドくん。村長を紹介しよう」
父さんがレイモンドさんを案内しに外へ、母さんはご機嫌で食事の支度だ。
さて、体でも拭こうかしらね。
「明日、日の出前には出るぞ。ゆっくり休んでおけ」
「日の出前?」
「黒い森まで狩りにでる。お前も付いてくるんだ」
「はえ?」
それって成人してからじゃないの?
そう疑問にもちつつも、まあ連れていかれるんだろうなと諦める。明日は過酷な一日になりそうだな。
「黒い森、っていっても別に黒いわけじゃないんだね」
「ああ、全体的に生い茂っているから暗がりが多いが、別に木々が黒いってわけじゃないな」
翌日、まだ日の出前にカララに乗って父さんと出発。普段の森から山に向かって進み、長い洞窟を抜けてその先に到着。
ここは黒い森と呼ばれている魔物の領域だ。
山の中腹に空いた洞窟から先は崖になっている。横穴もあって、狩りの道具がいくつもおいてあることから、ここが基地的な役割になっているのだろう。
「ここから先はいくつものダンジョンが存在し、中の魔物があふれ出ている。それらが生存域を拡大させ外に定着しようとするんだ。縄張り争いをして、負けるようなのが山を越えてオレ達の村の方まで逃げてくる、そんな領域だ」
「聞いてはいたけど、すごいところだね」
気配が違う。濃密な魔素と……すでに悪意と感じている。何かに捕捉されているな。
「さて色々と言いたいことはあったんだがな。まあお前さんの実力を試すにはこういった状況の方が身になると思ったわけだ」
「は? 実力?」
「いや、訓練でも別に手を抜いているわけじゃないっていうのは知っているんだがな。こう、あれだ。なんか余裕があるって話」
「なんか時々言ってたあれのこと?」
「そう。でだ、お前は人に言えない奥の手を持っているんじゃないかと推測したオレがいるわけだが。どうだ?」
「いや、そりゃああるけど」
「でもそういうのは使えないのも悶々とするだろ? 何より咄嗟に使えないんじゃ意味がない。でもここでなら人に見られる心配もないし、殺しても大丈夫な、むしろ殺すことを推奨されるようなBランクやAランクやSランクの魔物しかいないから存分に扱えるぞ」
「は? A? S?」
「てなわけでだ。昼まで帰ってくるなよ? 死んだら化けてでろ」
「おわ、ちょ!? 担ぐなし!」
「重いな! どんだけ魔法で重くしてるんだ……まあいい、いって、こいっ!」
「投げんなぁぁぁ!」
担ぎあげられて、思いっきり崖から投げ飛ばされた。うお! いきなり鳥の魔物に捕捉された! 空中で食われるわ!
「しっ!」
咄嗟に弓を構えて放ち、鳥の魔物の目に矢を放つ。成功!
空中で態勢を整えつつ、障壁魔法で足場を作る。
顔を上げるとニヤついた表情の父さんがこちらに矢を向けている。戻ることは許さんってか? つか息子にじゃなくてさ。
「重くなる魔法は解いておいた方がいいぞ!」
「というか息子に矢を向けないでこっちの鳥に向けろやぁぁ!」
障壁の上に着地したオレに襲い掛かる鳥の魔物。名前は分からんがなかなか素早い動きだ。でも足場があるから短剣でも迎撃できる。
しかしこのまま空中にいても襲われ続けるだけだな。崖には戻れないし、一度森に降りるしかないな。
「やってくれる、あのクソ親父」
こんなの虐待だろう。訴えにでてやる……まあ訴える先は村長なんだけど。村なんてそんなもんだ。
障壁を連続で張って足場を作り、順繰り飛び降りた先。いくつもの鳥の魔物が地面に落下している。食えるかもしれないから一応確保だ。空間庫にいれておこう。
「と、次が来そうだな」
味見をする時間もなく、次の気配を感じたオレは生い茂る木の枝へと飛び移った。
そこに現れたのは、ウォーオークだ。オークの最上位種であり、食卓にはめったに出てこない特上の肉。
「まじか」
思わず喉がなる。
そして思った。食いたいと。
気配を消したまま、思いっきり枝を蹴ってウォーオークの背後をとる。そして短剣でその首を思いっきり……かき切る!
「うおっ!」
甲高い音と共に、短剣が折れた! 嘘だろ!?
「ブモア!」
反撃! 回避だ! 地面に転がって距離をとる。よし、動きは遅い……けど、まさか剣がダメにされるとは。こっちの攻撃が当たる瞬間に、魔力で肉体を硬くしたっぽいな。とんだ早業だ。
「にやついてんなよ。にやつきたいのはオレだって一緒なんだから」
とはいえ手持ちの通常の武器では歯がたたなそうだ。あの短剣も鋼鉄製の上物で、切れ味はかなりのものだったのだから。
「さて、父さんに乗せられるようで嫌なんだが……こいつを見逃す手はないよなぁ!」
極上のオーク肉だ。逃がせるわけがない。
「使うぞ?」
空間庫から武器を選択。それは一本の黒い剣の柄だ。いや、この特徴的なグリップを見ても剣の柄とはこの世界の人間では想像がつかないだろう。
「SBランス、起動」
オレが『転生する前』に空間庫に収納しておいた武器の一つだ。父さんの言う通り、人前では使うことができないオレの攻撃手段の一つ。マジックブレードと呼ばれる近接武器。シャルマ警備保障が開発した魔導剣である。
「ふっ」
青白い光を放つ、魔力で構成された刃はあらゆるものを切断する。そんなお触れで開発されたマジックブレードの一つで、切断のみならず電撃警棒として運用もできる。また刃の長さも調整が効き、最長二メートルまで伸ばすことが可能だ。
ウォーオークの固い首を、音も感触もなく切り落とす。こいつも片付けしている時間はなさそうだ。空間庫に素早く収納。
「お代わりとは嬉しいね。とはいえ数が多いな」
オークはどの種でも大体3~8匹で行動することが多い種だ。こいつも例外ではないんだろう。
オレはSBランスを止めて腰につるす。次に取り出すのは魔導銃だ。
「空間庫ってのは時間が止まってるから便利だよな。あれからどれだけ時間がたってるかは分からないけど、こうして以前の物がまだ使えるんだから」
スラッグTCC-06。スラッグ社で開発されたハンドガンタイプの魔導銃だ。魔導核にチャージされた魔力で弾丸を生成、それを撃ち出すという単純な代物である。
「兜の一つでも被っていれば、別の選択肢だったんだけどな」
狙いをつけてウォーオークのむき出しの眉間に弾丸を撃ち込んでいく。6発の弾で6体のウォーオークが倒れた。
「さすがスラッグ社の傑作だ」
とはいえサイレンサーを付けている暇はなかったので、音が響いてしまった。
ここからどんな魔物が出てくるか分からないが、どちらにしても昼までは例の洞窟まで戻らせてもらえないだろう。
「せっかくだし、久しぶりに色々と試させてもらおうかな」
火事が怖いから魔導ランチャーや魔導ミサイルは使えないけど、それ以外の代物は試してみるべきだろう。
アサルトライフルにショットガン、使役符と防衛ドローンも試すか。
ああ、攻撃ドローンも試したい……けどあれはヘッドマウントディスプレイとセットだ。今の状況では使いにくい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます