第7話 面接
「サンラッカ村の狩人、ジークリンドの息子。クラッドフィールドです」
「サンラッカ村のしかも狩人か……よく来たなクラッドフィールド、遠路はるばるご苦労」
「いえ」
軽い挨拶をするオレを驚いた眼で見つめるのは、結構野太い感じのおじさん。こっちは騎士系の人だな。それとその横にいるのが服装的に領主様。領主様も驚いてるな。なんでだろ?
領主様はこう、なんというか男前な人だ。しっかりと目をこちらに向けている。
「クラッドフィールド、サンラッカ村からか。良く来てくれた。ここまで何で来た?」
「村長から馬を借りてきました」
「ほう、馬に乗れるか」
あ、馬に乗れるってポイントになるのか。
「はい」
「どのくらいでついたかね?」
「三日ほどです」
「道中は?」
「近くの村に事情を説明し、それぞれの村の村長が宿を手配してくれました」
中には家に泊めてくれた村長もいたね。
「そうか、大変だっただろう。今日はどうするのだ?」
「町のふくろう亭に部屋をとっております」
馬も預かってくれる宿があって助かった。とはいえお世話は自分でしなきゃだが。
「そうか。宿泊分のお金はこちらで出そう」
「ありがとうございます」
村長からお金がでているとはいえ、それは助かるね。
「それと君は……魔法が使えるのかね?」
「え? あ、はい。あまり大がかりなものは得意ではないですが」
地味な魔法が多いんです。
「見せてもらえるかね?」
「あー、そうですね。室内だから……これがいいかな」
念動魔法で自分が座っている椅子を浮かせる。
「ほお、飛行魔法か? 珍しい」
「いや、この速度は飛行魔法ではなく浮遊魔法ではないか?」
「いえ、念動です」
「念動? 無属性か」
「はい」
「念動魔法、か? 他に魔法はどのようなものが?」
「ええと、自分は無属性魔法の使い手なので主に念動と、障壁と、衝撃波くらいです」
基本はその三つで、あとはその応用だ。空間魔法はいわゆる伝説的な魔法なので秘匿である。
「無属性か」
「一応火や水を出したりはできますが、まあそっちはいわゆる生活魔法レベルですね」
竈に火をつける種火を出したり、コップ一杯分くらいの水を生み出したり、水をお湯にしたり。
「なるほど。了解した。それと随分と鍛えているようだが……」
「自分は狩人の息子ですから。森には駆除対象もいますので」
「そうか、まあそうだな、サンラッカ村だものな……いや、いい。領主様、クラッドフィールドで決まりでしょう」
「だな。文句なしだ」
「?」
文句なしなんだ。
「クラッドフィールド、今日からここに住み込みで最低限の教育を受けてもらう。いいな?」
「え? ダメです」
「「 は? 」」
あ、まずったか?
「あ、いえ。馬を村長に返さないといけないですし、家族にも合否を伝えないといけないですから」
「ああ、そういうことか」
「ご家族思いなんだな」
普通だと思いますよ?
「町でお土産を買って帰るとも伝えてしまったので、一度村に戻らないといけないです。そのうえでこちらにまた来るのであれば問題ない、と思います」
「……まあそれくらいはいいだろう。ただこちらから騎士の人間をつけるぞ?」
「はい?」
「馬を返した後、今度は徒歩で領都まで来る気か?」
「ああ、それもそうですね」
空間跳躍で来れるけど。
「馬もこっちで出してやるからそいつと馬を連れて村に戻れ。一週間もあれば往復できるな?」
「馬とそのついてくる人次第ですが、多分大丈夫かと」
「ふ、足が速いやつを用意してやろう」
普通の子でいいですよ。
あの謎面接を受けた後、即座に宿に戻って待機せよと命令されたオレは宿に戻る。
しばらくすると領主様のところの騎士が宿に訪ねてきた。
「僕はレイモンド。騎士の一人だよ。話は聞いたよ、大変だろうけどよろしくね」
「よろしくお願いします」
レイモンドさんは僕と一緒に村まで帰ってくれるらしい。彼が乗る馬と、道中の水などが入った荷物を載せた馬を連れてきていた。
「すいませんがお土産がまだですから」
「そうだね、家族へのお土産は大事だね! 雑貨屋でいいかな? 案内するよ」
「あ、先に冒険者ギルドにお願いします。お金を作らないといけないので」
「うん?」
「会員じゃなくても魔物素材なら買い取りしてもらえるらしいですから」
「そういうことね。そっちも大丈夫だよ」
せっかく町まで出てきたからね。それなりにいいものを買って帰りたい。
「じゃあ冒険者ギルドだね。まあすぐそこだけど」
「あはははは、荷物を持ってきます」
空間庫からあらかじめ出しておいた大きな風呂敷。そいつをもってレイモンドさんについていく。
「ちわ、買い取りお願い」
「レイモンドくん? 今日は騎士のお仕事はお休み?」
「この子の付き添い。田舎からでてきたんだ。買い取りをしてやって」
「レイモンドさんは冒険者ギルドも利用されるんですか?」
騎士なのに?
「まあね、街道の魔物討伐なんかもするから、冒険者ギルドに登録している人も多いんだよ?」
「そうなんですね? あ、買い取りこれです」
「確認するわね。これは……いいわね。マッスルディアの角にキックバードの爪がひのふのやの、21本。こっちはサファイヤカブトの甲殻にクラッシュライオの角、ランクCとランクBの魔物素材ばかりね」
「父が選別してくれましたから」
「あら、お父さんも冒険者かしら? いいわ、これだけだと……買取は120万ウィカってところね」
「ひゃく!?」
「お、いいですね。お願いします」
父さんと母さん、それにばあちゃんにも大体の相場を聞いておいたからね。むしろ聞いていたよりも高めだ。
「ありがとー、ここのところマッスルディアの角が足りないから助かるわ。薬になるから常に買い取りしてるんだけど、あんまり入ってこないから」
「そうなんですね? またじゃあ持ってきますね」
村の近くまでは年に何度も来たりしないが、父さん達が月に何度か狩ってくるので角も入手可能である。もちろん村でも薬に加工しているが、過剰供給で余っているのが現状なのだ。
「いや、一気にお金持ちになったね」
「ですね。次は雑貨屋と……お酒を買いたいんですけど」
「雑貨屋はこっちだね。何買うの?」
「リボンとかですね。あと布」
母は髪が長いから。いくつかリボンを持っているけど、せっかくだからたくさん買って帰ることにする。ソーカ姉さんもいくつか持っていくだろう。
それと大きい布はそれだけで利用価値がある。くるんで馬に括り付けて持って帰るのだ。臭いは洗ってもらうしかないけど。
父と兄にはお酒だ。
「樽で買えそうだね」
「買えるかもですが運べませんよ。割れないように布でくるんでカバンに突っ込むしかないですね」
まあカバンに入れる振りをして空間庫に突っ込むんだけど。
「じゃあ雑貨屋と布屋、最後に酒屋か……メシ屋でもいいし、ふくろう亭でも買えるかもしれないかな?」
「布屋なんてあるんですね」
「あははは、ないね。服屋だよ」
「そうでしたか」
「どこも分かるから連れて行くよ。行きは一頭馬があくから多少荷物が増えても大丈夫だよ」
「助かります」
こうして買い物をもろもろ済ませて宿に戻る。その日のうちに出発し、町から村へ、村から村へと移動だ。
こうした移動にもレイモンドさんは慣れているようで、余裕の旅路となったのが助かった。
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