第6話 女漁って来い!

「戻ったぞ」

「よ、クラフィ」

「父さん、兄さん、おかえり」


 家の庭で矢を作っていると、狩りに出ていた二人が帰ってきた。

 二人が乗っていたカモジカの手綱を受け取ると、二人とも下りてくる。


「トドマとカララもおつかれさま。おいで」


 カモジカは二足歩行で短い翼のある鳥とカモシカの中間のような魔物だ。脚力がしっかりしていてバランス感覚も良く、それでいて人間が飼育できる魔物。

 山岳地帯や森のような足元が不安定な場所で活躍できる騎獣である。


「マッスルディアを獲ったんだって? やるじゃないか」

「設置しておいた罠の近くだったからね。そっちはどうだった?」

「こっちはストレイトボアが四頭だけだな」

「おー。大きさで考えると十分じゃない?」

「まあな」


 オレのように村の近くにきた魔物を狩るのと違って、森の奥まで入る狩人は獲物を狙うにも知恵を使う必要がある。

 周辺の獲物の生態系を崩したらいけないから、毎日同じ獲物を狩るというわけにはいかないのだ。

 まあ中には無尽蔵にいるんじゃないかっていう魔物も……キックバードなんかがそうだけどいくら倒しても出てくる魔物もいるけど。

 そんな話をしながら井戸から水を汲んで二人に渡す。森から帰ってきたから汗やら何やらで汚れているのだ。庭先で体を拭いているけど、田舎だから問題ない。


「トドマ、カララ」


 二頭も二人を乗せて森や野山を走り回ってきた帰りだ。魔物とはいえ疲れるのでバケツで水を与えてあげる。

 水を飲ませている間にブラッシングの準備だ。これは森の奥に入らないオレの大事な仕事である。


「解体と保存食の作成に母さんと姉さんは行っちゃったから、ご飯はまだじゃないかな」

「あー、そういえばそうか」

「まいったなぁ」


 二人は明らかに落胆した顔をしている。


「おなかすいたなら解体場いったら? なんかもらえるかもよ」

「いまストレイトボアを届けたばかりなんだよな」

「あー。だから鹿のこと知ってたのか。それじゃあ我慢してもらうしかないね」

「なんかないのか?」

「あると思うけど、どれが食べていいかやつなのか分かんないよ」


 普段だったら分かるんだけど、妊娠が発覚してソーカ姉さんとガイア兄さんがうちに来てるから食糧事情が普段と違うのだ。そんな中でつまみ食いなんかしたりさせたりしたら母さんに殺されてしまう。


「そっかぁ……なんかあるんだろ?」

「なあクラフィー」


 こいつらっ……オレの空間庫の中身を狙ってやがるな。


「……肉でいい?」

「「 さっすが! 」」


 何がいいかな。まあマッスルディアの話が出たし、ボアが取れたってことなんで別のにするか。


「はいこれね」


 二人に取り出したのはオーク肉で作られた骨付きのウィンナーだ。ばあちゃんにこっそりもらったのを森の中で焼いてそのまま空間庫にしまっておいた奴である。

 美味いし量も多いが長期保存にオーク肉は向かないから、余りそうなやつは優先的にもらっているので結構持っている。


「体拭いたらさっさと着替えなよ? 風邪ひくよ」

「「 風邪なんかひいたことねえ 」」

「……なんでだろうね?」


 オレは引くのに。


「トドマ、カカラ。お前たちはこっちだ」


 飼い葉を出してあげると、二頭ともよい食いつきを見せてくれた。こっちの二頭は素直でよろしい。

 二頭が食事を終えるまでに鞍を拭いたり装具が切れていない点検をして、片付ける。

 落ち着いたところで体を洗ってあげる。洗い終わるころには二頭とも夢の中だ。


「こちらもおつかれさまだ」


 家の中に入ると、父と兄がそろって眠っていた。まあメシになったら起こせばいいか。

 二頭の世話も終わったからオレも体を洗うことにしよう。

 部屋にいって水を魔法で温めて、体を洗う。石鹸も一応あるけど、女性陣用なので男の僕は使えない。悲しい。


「「 ただいまー 」」

「あ、おかえり」


 母と姉が帰ってきた。さて、夕飯はなんだろうな。






「ほら、こい」

「やあ!」


 狩人はあまり狩りをしない。これは体を休めると共に森も休める必要があるからだ。

 村自体の人口もそんなに多くないのに加えて、昨日オレが獲ったマッスルディアもある。

 冬に向けて保存食を作成する必要はあるが、肉に関していえば潤沢すぎる量が十分に確保できているので父と兄はお休みだ。


「ふ、はっ! は!」

「ほい、ほい、ほいっと」


 そんなお休みの父さんは、休みのたびにオレや兄さんの剣の手ほどきをする。狩人に剣が必要かって? これがまた必要なのである。中には剣を使う人型の魔物もそれなりにいるからだ。まあそういう連中は獲物ではなく駆除対象、食えるのはオークとかその上位種のブルオークくらいだからなぁ。


「その掛け声むかつくんだけど」

「そうか? だったら本気で打ち込んできな」

「だったらの意味がわからん……」


 とはいえ剣の腕は父には勝てん。兄さんには勝てる時もあるんだけど。


「お前はなんかなぁ、どこか余裕を感じるんだよな」

「そりゃ、身体強化を、残している、からね」

「それはそうかもしれんがなぁ」

「……じゃあ過重魔法を止めるけど」


 無属性魔法と空間魔法の合わせ技で、自分自身の重さを増やす魔法だ。これを日常的に自分にかけることで、日常生活がトレーニングになるという素晴らしい魔法である。

 統一宇宙軍時代に開発をして、それ以降ずっと使っていたので今でも使っている。


「残しとけ、それはそれでいい訓練だ」


 父さんと戦うには枷が文字通り重すぎるけど。


「というか、これを解いても勝てる気はしないんだけど!」

「そりゃ子供にそう簡単に負けるわけのもいかないから、なっと!」

「くっ、え!?」


 すこーん! とオレの剣が飛ばされてしまった。

 そして突き出される父さんの剣。


「……まいりました」

「はあ、またそれだ」

「型はあらかた覚えたし、運用もできてるって言ってるのは父さんじゃん」

「んー、そうなんだがなぁ。なんだろうなぁ」

「そういわれても訓練で手なんか抜かないよ? 体がしんどくなるから強化魔法を掛けたりはしないけど」


 強化魔法を使うなら、先に過重魔法を解いてからだ。


「まあなぁ、なんだろうな、この違和感は」

「知らないよ」


 この人は何を言っているんだろうか。


「ジークリンド、いるかぁ?」

「んあ? ああ、村長。どった?」

「こんなんが届いてな。お前んとこのクラッドフィールド、確か11だろ?」

「あ? ああ、そうだが」


 庭先に訪ねてきたのは村長だ。


「村長、こんにちは」

「おお、クラッドフィールドこんにちは。昨日は母が世話になったね」

「ばあちゃんにはいつも色々もらってるから」


 ばあちゃんは村一番の料理人だ。好き。


「母に言っておくよ。それとその母から漬物のおすそわけだ」

「おお! 助かります! ばあちゃんのは特に美味いんだよなぁ」

「うちのも首をひねってるよ。同じぬかを使ってるのになんでだって」

「いやいやいや、漬物談義はいいから。それで村長、こんなのって?」


 いいじゃん漬物談義。父さんだってばあちゃんのごちゃまぜ漬物セット大好きじゃん。


「ああ、領主様のところの娘さんの護衛の候補にお前さんとこの息子がひっかかったらしくてな」

「領主様のとこの? ああ、来年には学園に入る歳か」

「そうらしいの。それで歳の近い護衛を探しているそうで、魔法も使える子供となるとうちの村にはクラッドフィールドしかおらんしな」

「護衛って?」

「護衛兼付き人だな。学園に入る貴族の子は従者を連れていくんだ。学外は普通に護衛を連れていけるが学内には大人をみだりに入れるわけにはいかないからな」

「そうなの?」

「昔はよかったらしいがな。護衛の数が多くなったり政敵の相手で護衛同士が険悪な関係だったりして学園内で殺し合いが発生したとかなんとかがあったりしたらしくてな」


 その学校物騒すぎません?


「んで、表立って護衛が置けなくなったわけだから、同年代の子供を学園に在籍させて護衛をさせるクラスメートに置くようになったんだわ」

「そうなんだ? でもそうなると人数がすごそうだ」

「まあだから一人につき一人か二人ってのがなんとなくの決まりだな」

「へー」

「それと学園では魔法が使える人間というのも条件に含まれているな。貴族は魔法が使える人間がかなり多いし、授業に魔法の授業もあったはずだ」

「ああ、それもあったな。こいつは……大丈夫か? 大丈夫か」

「属性魔法ほとんど使えないけど?」

「少しは使えるのであろう? であれば問題は……まあ領主様が判断なされるか」

「いい加減だなぁ、というか面倒なんだけど……」


 そう思っていたけど、父さんがオレの両肩に手を置いて顔を近づけてきた。


「いや、行ってこい。そしてなるべく受かってこい」

「はえ? そんな大事なの?」

「いや、護衛自体はどうでもいい」

「こりゃジーク、良くないぞ?」


 村長の言う通りだと思う。


「父さん」

「いいか、この村には子供が少ない」

「うん? そうだね」


 人口が少ないからね。


「それに女の子がローラくらいだ」

「去年生まれたばかりだね。でもカーラもシンシアもいるし、近い歳の子なら他にも十人くらいいるよ?」


 こういうのってプラスマイナス何歳くらいで考えればいいんだろ? うちの両親に兄さんもだけど、結構若いうちから結婚している人が多い。


「まあな。だけど何人かは血が近い。生まれる子が呪われる可能性がある」

「あー、そういえば」


 この世界では呪いと呼ばれているが、近親婚は確かに影響がでる。


「つまりだ。お前の嫁のなり手が村にいねえ」

「ぶはっ!」

「笑いごとじゃないぞ」

「確かに、ジークの言う通りだな」

「え? え? 今そういう話の場面?」


 お嬢さんの護衛の話じゃなかったっけ?


「オレが伝手をつかって知り合いに声をかけても良かったが、まあせっかくの機会だ。女漁ってこい」

「言い方ぁ!」


 息子になんてことを言いますかね!?


「こいつの言い方は確かにあれだが、必要なことだぞ……最悪一生独り身だ」

「むー、確かにそれはそうかもだけど」


 以前の生活の時も、オーロラ基地艦に勤めていた子と結婚したしなぁ。


「村としても定期的に外の血を取り込まないといけないんだがな。どうしても近隣の村とのやり取りになってしまう」

「村長?」


 どうやら村長も賛成らしい。


「よし、行ってこい」

「馬と金を貸してやろう。すぐ行ってこい」

「まず手紙をちゃんと確認しようぜおっさん達」


 それと母さんにも確認を取った方がいいぞ? 何気にオレのこと大好きだから。

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