ある執事の話
沼津平成
第1話
「次の方、どうぞ」面接官が言った。
何度目かのドアのきしむ音がして、入ってきたのは老紳士だった。
F社の最終面接場。面接官を十五年やっている彼も面接場所で見たことがないほどの年齢の男だ。
「私はL公国の執事、トムでございます。ジョン・ジャン・ロバートソンと言ったら、わかってくださる方もいらっしゃるのではないでしょうか」
面接官はうなずいた。「しかしロバートソン氏、あなたの噂もここ数十年、ついに聞かれませんでした」
「あら、そうですか?」老紳士は聞いた。「ハウィーシティのほうでは今も有名人のはずですが……」
「ハウィーシティ、あっちとはまたずいぶん遠いですな……」面接官は遠い目をしていった。「ということは、今も現世に?」
「はい、百歳で見る社会は楽しいですよ」
そういうと老紳士は天国を望む窓から大空へ身を投げた……。
ある執事の話 沼津平成 @Numadu-StickmanNovel
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