第2話

 

 両家の顔合わせ当日となった。

 この日はマーガレットが贔屓にしている腕の良い針子に仕立てて貰った新品の衣装を身につけていた。


 シャルロットの淡いミルクブロンドの髪色に合う深緑のドレスはシャルロットの希望通りに装飾やレースは少なめに大人っぽい仕上がりとなっていた。


 マーガレットは『もう少し可愛くしてもいいんじゃないかしら』と不服そうではあったもののシャルロットとしてはいつもと違う傾向のものを着るのには少し抵抗があるので遠慮しておいたのだ。



「ようこそいらっしゃいました。レヴァノン辺境伯爵」

「こちらこそご招待ありがとうございますラフレシア侯爵殿」


 侯爵邸の前まで出迎えてくれたのは数人の使用人を従えた侯爵本人であった。シャルロットはもう少し厳つい顔を想像していたのだが思ったよりも和やかな雰囲気を持った人であった。


「その、息子も今日は帰ってきているはずなのですが……」

「取り敢えず中へと入りましょうかお茶も冷めてしまうわよ旦那様」


 公爵は夫人に促されシャルロットとシャルロットの両親も侯爵邸の中へと案内された。

 談話室のソファへと両家とも座った所で公爵が口を開いた。



「――我が息子、レオンは極度の女性嫌いなのです」


(え……)


「しかし、レオンも十七歳そろそろ婚約者を探さねばならず、しかし、良家との縁談は全て本人が断ってしまいまして……そんな困っていた所に国王様から良い縁談があると紹介されたのがレヴァノン伯爵家との縁談だったのです」


「……。」


 シャルロットは己の運の悪さに絶句した。

 女嫌いの侯爵令息なんてシャルロットの望んでいた婚約者像の真逆だ。

 そんな人と婚約者となるなんて……、口下手なシャルロットが上手く関係を築けるとは到底思えなかった。


「その、レオンは王都の学園に通っていまして……本人とシャルロット嬢とも今回お話して見て欲しかったのですが」

「顔合わせがあるから早く帰ってくるようにと言ったんですけど……すみません」


 眉を寄せて困った様に微笑む侯爵と夫人の様子から二人がそのレオンという人物に手を焼いていることが目に見えて分かった。

 そしてまた、そんな人物が婚約者になるということにシャルロットは胃はキリキリと痛みを訴えていた。あぁ……痛い。


「ふむ、そちらの経緯はよく分かりました。しかし、私達の大事な娘をそう簡単には渡すことはできません。……こちらからも要求があります」


 いつになく真剣な面持ちでハリスは侯爵と向き合った。いつもは口下手で内気な父が今、格上の家柄の当主とこうして真剣に話している様子をシャルロットは初めて目にした。


「その要求、とは?」

「結婚までに、ラフレシア候爵子息がシャルロットへ愛情を抱くことです」


 シャルロットは『まさか』、と父へと目を向けた。

 なぜならそれは――。


「しかし、愛情の有無などどうやったら分かるのですか?」

「私がラフレシア侯爵子息に我が家に伝わる『秘術』をかけましょう」


 あぁ……やっぱり、とシャルロットは確信した。

 それは、レヴァノン辺境伯爵家に伝わる秘術であり、『一年の間に真実の愛を見つけなければ二度と人を愛することは無くなり、真実の愛を見つければその愛は二度と失われることは無い』という効果を持った呪いなのだ。

 この秘術はレヴァノン家の先祖であるレヴァノンの魔女が、とある姫の『永遠の愛が欲しい』という願いを受け入れて作った秘術だ。


「――分かりました。では、明日は必ずレオンを連れてきますので」

「えぇ、お願いします」


 こうして両家の顔合わせは一度終わり、シャルロット達は王都の旧レヴァノン邸に泊まることとなった。

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