第四十四章 悪役令息の苦悩(笑)
305. ラスボス戦直前で打ち切られるのはツラい
とりあえず、例の執事見習い二人は口頭による厳重注意となった。
厳罰に処すべきという考えもあったが、内容としては若者の
信賞必罰があるべき形と言えど、さすがにこれで厳罰を与えるのは狭量な気がして微妙だ。何より、二人と一緒に謝罪に来たセバスチャンの真っ青な顔を見てしまったらな……こんなくだらない事で、セバスチャンの監督責任を問いたくもないし。
……決して、どっちがミギーかヒダーリかわからないから面倒になったとかではない。
「リンクスとレヒトです」
「それな」
何はともあれ、この件はこれにて一件落着。君たちは有望な若手らしいので、今回の事はしっかり反省して仕事も恋も頑張ってくれたまえ。
心に若干モヤる物を残しつつも、俺は寛大な主としての
――後に、使用人たちの間で『
◇
「そう言えば……」
「どうかしましたか?」
ふと頭に浮かんだ事が無意識に口から出かけたらしく、呟きをヘリオトロープに聞かれてしまった。俺は一瞬悩んだ後、首を横に振る。
「あー……いや、何でもない」
「ですが」
「ほら、いいから仕事をしよう。楽しい楽しい仕事が俺たちを待っている!」
「……そんなに勤労意欲が溢れてる人でしたっけ?」
本日は公国の主ではなく、公爵領の領主としての仕事中。とは言っても、領の状況についてまとめた資料を確認するだけの簡単なお仕事だ。
しかも、資料の完成度が高くてわかりやすい。さすがはシェフレラに鍛え上げられた
アハハ、資料をめくる手がペラペラと進むよぉ! アハハハハ!
「そう言えば聞いたわよ。ヘリオトロープさん、二人同時に求婚されたんですって?」
ピタッ。
ディステルのその言葉に、俺の手が止まる。ヘリオトロープは困ったような恥ずかしいような、何とも言えない表情を浮かべた。
「……耳が早いですね。昨日の今日なのですが」
「屋敷の至る所で噂されてたから、勝手に耳に入ってきたのよ。色々と大変だったみたいね」
「揃いも揃って……」
ヘリオトロープが頭痛を堪えるように、眉間を揉みほぐしている。いや、うちの使用人どもは何をやってるんだよ。その噂の伝播力はおかしいだろ。
俺が呆れている間にも、ディステルは遠慮なく切り込んでいく。……こう言っては失礼だが、意外と恋愛話に興味津々なんだな。
「それで、返事はしたの?」
「あぁ、言われてみればしてませんね。あの後すぐに、
ヘリオトロープがこちらをチラッと見ながら言う。そう、さっき俺がふと思い出したのがその事だ。
あの二人がヘリオトロープに求婚した後、俺の顔を見て
なので、あの求婚に関しては未返事。ちなみにあれは俺の顔を見た二人が勝手にビビっただけなので、俺は決して悪くない。悪くはないのだ(※大事な事なので以下略)
「そうなんだ。じゃあ、何て返事をするつもり――」
「っ」
心臓が大きく跳ねた。ヘリオトロープは、あの二人のどちらかの求婚を受けるのだろうか。
いや別に気になってるわけじゃないけどほら付き合いの長い専属メイドの事であるからして半端な男には任せられないぞという兄とも弟とも言えない微妙な身内心が働いているような気がしなくもないんだけどそれはそれとしてヘリオトロープを娶りたいならまずは俺とランタナの屍を越えてゆけ――
「――って聞くまでもないわよね、そんな事」
「当然です」
「おぉい!」
ちょっと、ちょっとちょっと!! そこまで言っておいて、それはないだろ!?
「……クラウト君どうしたの、そんな奇怪な体勢を取って」
「ちょっと
エクソシ〇トごっこって言おうと思ったけど、ネタが通じないのでやめておいた。……いや、それはどうでも良くてだな。
何でそこで止めるんだよ……あまりの衝撃でのけ反るだけじゃ済まなかったじゃんよ……。
くっ、こうなったら自分で聞き出すしかない! なぁに、普段通りの会話の中でサラッと聞けばいいだけさ!
「やぁ、ヘリオトロープさん」
「な、何ですか、その話し方は?」
「私は、貴女に聞きたい事があります」
「え、えっと、何でしょうか」
おかしいな、何故か英語の教科書みたいな話し方になってるぞ? えぇい、もっと自然に自然に……。
「……えっと」
「はい」
「その……だな」
「…………」
「……ごめん、何を聞こうとしたか忘れた」
「は、はぁ」
……ほら、こういうのって俺が聞いたらハラスメントになるかもじゃん? だから上司としてホワイトな職場を目指すためにも聞かない方が良いんだよ、きっと!
「うぐぐぐ……」
それはそれとして、頭は抱えておく。まるで好きだった漫画がラスボス戦直前で打ち切りになった気分だ。この気持ち、わかる?
「……何をやってるんだか」
そんな俺を、ディステルが呆れた顔で見ていた事には気付かなかった。
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