7. クール系お姉さんの笑顔はハートブレイクショット

 何だかんだあったが、どうにかヘリオトロープから剣を教えてもらえるようになった。

 ……いや、いきなりナイフで斬りかかられた時はマジで死んだと思ったよ。死んだじいちゃんが手招きしてたもん。何で異世界にいるの?


 まぁ今までのクラウトの所業を考えれば、殺される可能性って低くはなかったんだよね。五分五分……いや三七……もしかして一九? 一がどっちかはご想像にお任せします。

 それでも彼女との奴隷契約を解除したのは、やっぱり元日本人としての意識――矜持きょうじと言っても良いのかもしれない――があったんだろうなぁ。奴隷ダメ。ゼッタイ。


 その甲斐もあってか、マイナスだった信頼度がゼロくらいにはなったかもしれない。命を懸けてようやくスタートラインとか、難易度がインフェルノである。

 そんなこんなで、ようやく強くなるための第一歩を踏み出せたのだが……ちょっと気になることが一つ。


「…………ヘリオトロープ」

「はい、何でしょう?」

「何で…………俺の紅茶を淹れているのかな?」


 ポットを片手にした彼女は、俺が何を言ってるかわからないとばかりに小首を傾げて、


「変なことをお聞きになりますね。


 と言って、再びカップに紅茶を注ぎ始めた。


 そう、奴隷から解放したにもかかわらず、なぜか彼女は未だにメイドを辞めていなかった。

 俺のことを嫌っているとハッキリ言ったのに、専属メイドを続ける意味がわからない。いや、美人メイドがお世話してくれるのなら秒で土下座できるけど。

 ま、まさか……!


「やっぱり俺を殺そうとしている!? まだ生かしているのは、証拠を残さない殺害方法を探してるだけなんじゃ……!」


 ヒイイイイィィィィ!! この間は恐怖と罪悪感がフタエニキワマリ、変な感じに悪魔合体した精神状態だったけど、次は素面しらふで乗り越えられる気がしませんよ!?

 などと頭を抱えて戦慄せんりつしていたら、隣で可愛らしく吹き出す音が聞こえた。


 音のした方を見てみると、そこにはクスクスと笑うヘリオトロープの姿が。

 初めて見る彼女の笑顔に心臓がドクンと跳ねる。クール系お姉さんの笑顔はハートブレイクショットだな。

 思わず見惚れていると、視線に気付いたのか「コホン」と一つ咳払いをした。


「そんなことはしません。確かに貴方のことは嫌いです。ですが、貴方の覚悟は見せてもらいました。その覚悟が本物かどうか、それを判断するためにもメイドの立場は都合が良いですから。それに……衣食住が保証されていますし」


 最後にちょっと恥ずかしそうに付け加える美人メイドの破壊力よ。妹系ヒロインが好きな俺だが、お姉さん系も嫌いじゃないぜ? ハイ、節操なしでゴメンなさい。

 とりあえず、そんなしょうもないことを考えられるくらいにはホッとした。元オタクの豆腐メンタルに過度なプレッシャーは胃に穴があきかねん。


「……そっか。じゃあこれから改めてよろしく、でいいのかな?」

「はい、こちらこそ。……あ、でも」


 ヘリオトロープはふと思い出したように俺の肩に手を置き、耳元に口を寄せて、


「私の期待を裏切った時は――――覚悟して下さいね?」

「…………」


怖えーよ!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る