5日目2 冷静沈着

『正午になりました。サバイバル5日目を開始します』



 乃愛のあの膝枕で正午のアナウンスを迎えた俺は、うつ伏せで乃愛のあの太腿に顔をうずめていた姿勢から、一応上向きになって不測の事態に備える態勢にチェンジする。




『生存者全員に討伐レベル+1ptの生存ボーナスを配布します』



『これまでに欠番となったスキルの再配分を行います』



 …ここまではいつもの通りだ。


 このまま何もなければ、またうつ伏せの姿勢に戻って乃愛のあの匂いを嗅ぎながら頭を撫でてもらうリラックススタイルに戻ろう。



『本日よりスキルの新規配分を開始します』



「なにっ…!」


「きゃっ!?」



 思いがけず重要なアナウンスが飛び込んできて慌てて身体を起こした俺は、乃愛のあの大マシュマロを下から顔面でボヨンと押し退ける形になったが、それはそれとして。



 …スキルの新規配分だと。


 俺は自分のスキルを急いで確認するが、どうやら変化は無さそうだな…乃愛のあはどうだ?


 乃愛のあに視線を向けると、手で胸をガードしながらジトッとした視線をこちらに向けているが…いやそれは悪かったけども。


 それはわざとじゃなくてですね…それよりもスキルをですね。



『本日より新たなクリーチャーを排出します』



 新たな怪物クリーチャー!?


 ここまでほとんど変化がなかったのに、今日から急にいろいろ起こりすぎだろ!



 俺は慌ててPCデスクに飛び移ると、地上カメラの映像に異変がないか血眼ちまなこになって隅々まで観察する。


 …今のところ新たな怪物は現れていないか。


 いや、さっきのアナウンスで『排出』と言っていたな?


 排出という言葉のニュアンスからすると、やはりどこかに怪物がスポーンするポイントがあってそこから人里めがけて進軍してくるのではないか…?


 そうなると、新型の怪物がこの拠点に到着するまでにはタイムラグがあるだろうし、その間にタレットの配備を…そうか、しまった!


 今日の午前中に調子に乗ってタレットを遠隔拠点に配置してしまったので、今は新たなタレットを生み出す枠の余裕があと1つ分しか無いじゃないか!


 今から急いでタレットを回収したとしても、再配置までのクールタイムがかかるし…ええ〜い、俺のバカバカ! こんな油断をするとは…!



 ともかく、今からでも急いでダミー拠点のタレットを回収して…むにゅん。



 …むにゅん?



「…誠一せーいち落ち着いて。誠一せーいちは強いし、誠一せーいちのシェルターは頑丈だし、誠一せーいちの大好きなおっぱいはここにあるよ…」



 いつの間にか後ろに立っていた乃愛のあが俺の頭を抱き抱えて、俺は無限の柔らかさに包まれていた。


 …それにより、俺の頭に昇っていた血が別の所に移動することで、急激に落ち着きを取り戻す。



 そうだな。

 何もそんなに大慌てする事もあるまい。


 これまでの防衛態勢でも怪物どもに対してかなりの余裕を持てていたし、仮に一時的に怪物どもの処理が追いつかなくなったとしても、何重もの耐爆防壁が核爆発すらも防いでくれるし、なによりおっぱいはどこにも逃げない。



 …ふふ、プレッパーは冷静沈着であるべきだと言うのに、どうにも俺は不完全な人間であることだ。



「…乃愛のあ、俺は必ずお前を守るからな」


「…うん、誠一せーいちはもう何回も守ってくれたし、最初にアタシを助けてくれた時もカッコよかったよ? ちょっとエッチだけど、めっちゃたくましいし…頼りにしてるからね」



 俺はPCデスクのチェアを反転させて、顔面を乃愛のあの柔らかさの中にうずめながら、ゆっくりと深呼吸する。


 そうすると、まるで全身が乃愛のあのいい香りに包まれているようで…身体の一部がHOT!HOT!であることを除けば、心身ともに焦りから解放されてリラックスしていくのだった。














「ギョバアア!!」


「ゲゲブッッ!?」



 俺が直接操作するタレットの5.56mm高速弾が鬼の革鎧を貫き、怪物どもは緑色の体液を撒き散らして倒れ伏した。



 …ふむ、やはりあんな謎ファンタジー装備では現代のボディアーマーのような対弾バリスティック性能は持ち得ないようだな。


 仮に今後、板金鎧プレートアーマーのような重装甲の怪物が現れたとしても、タイプBタレットのフルサイズライフル弾ならば貫通が期待できるだろうか?



 正午のアナウンスから1時間ほどで姿を見せ始めた新種の怪物どもは、一言で言うならば「武装した鬼」である。


 身体そのものも小鬼よりも大きく成人男性くらいあり、その身体を簡素な革の胴鎧で護っている他、手には刃渡り60cmほどの片手剣や手斧、中には投石縄スリングを装備した個体なども現れる。


 『掲示板』内では早くも「ホブゴブリン」という呼称が定着しつつあるぞ。


 …そのネーミングはまあ分かるんだが、生存者たちの意外な余裕を感じないでもない。



 いや、そんな冗談はさておき、この新種の怪物どもは俺のタレットの前にはさしたる脅威でもないのだが、他の生存者たちにとっては洒落にならない存在だろう。


 なにしろ、危険な刃物を持った相手と近接戦闘を余儀なくされる上に、原始的な投石縄スリングとはいえ飛び道具まで出現したのである。


 

 おかげで『掲示板』にも各地で崩壊の危機に瀕している生存者コミュニティの悲痛な声が飛び交っているのだが…しかし、どうも市庁舎を始めとして熊野市街地に多数存在する生存者コミュニティは様子が違うようだ。


 正午のアナウンスから結構な時間が経っているにも関わらず、熊野市街に出現する「ホブゴブリン」はチラホラといった数らしく、今のところ防衛が破綻する声は聴こえて来ない。



 …これには、続々と『掲示板』に寄せられている新規スキルの獲得情報と、生存者の中に近接戦闘のコモンスキル所持者が現れたことで怪物の撃退が可能になったコミュニティも多い、という事情も関係しているだろうが…


 それよりも。



誠一せーいち、またお化け来たよ! 3番カメラで…えーと、いっぱい!」


 乃愛のあの報告で俺は『直接照準ダイレクトサイト』を西方向のタレットに切り替える。


 視界ビジョンに飛び込んできた怪物の混成集団は…片手剣のホブゴブリンが4、手斧3に手槍が1、そして棍棒装備の小鬼どもが十数匹。



 タタタタタタタタタタタタタタタンッ!!



 俺が片っ端から銃弾を浴びせていくと怪物どもはバタバタと倒れ、そこにやや遅れて『自動オートタレット』の曖昧な照準による弾丸の雨が降り注ぐ。



 …こりゃあ、熊野市街地の怪物どもが少ない分は、あきらかにコッチに来てやがるな。


 援護射撃作戦は成功な訳だが、しかしそれにしても数が多い…!



「今度は2番! あっ、4番も来てるよ! えーとえーと…どっちもいっぱい!」



 先ほどからのべつ幕なしに押し寄せる怪物どもは、たおしてもたおしてもその屍を掻き分けるようにして湧いてくるのだ。



 …くそっ、いきなり難易度を引き上げすぎだろ!


 落ち着いて対処すればなんということはないのだが、途切れずに現れる怪物という圧力を前に俺は内心の苛立ちが高まり、だんだんと射撃の精度も落ちてきているように感じられる。


 落ち着け、落ち着くんだ…



誠一せーいちがんばれ〜! 今日も大活躍でカッコいいからぁ…誠一せーいちにはアタシからご褒美をあげま〜す ♪」

 


 ご、ご褒美!?


 俺の頭に昇っていた血液が下半身に移動することで、いっぺんに照準エイムが正確さを取り戻した。






 そんな乃愛のあのナイスアシストもあって順調に怪物どもをなぎ倒していると、夕方を迎える頃には第一波を捌き切ったらしく出現ペースも落ち着きを見せていた。



 …というか、冷静に判断してみると怪物出現のピーク時であっても、別段『自動オートタレット』のみで問題なかったと思われる(赤面)


 これはなんというか…お恥ずかしい話『直接照準ダイレクトサイト』で迫りくる怪物どもをじかに見たために、知らず知らずのうちに恐怖感に駆られていたんだと思う。



 …まあ、そうして頭に血を昇らせながら必死に怪物どもを撃退したおかげで、乃愛のあのご褒美という魅惑ワードに巡り会えたわけで結果オーライとする(ポジティブシンキング)


 ともかく、もうすぐ本日の『討伐ポイント交換タイム』なので、念の為スキルレベルが上昇した分のタレットを追加設置して後は『自動オートタレット』に任せておこう。





 …こうして、やたら気分の上下が激しかった迎撃の時間が終了し、この時点ではまだ俺が知る由もなかった事ではあるが、さらなる激動の『討伐ポイント交換タイム』が始まるのであった。


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