4日目2 援護射撃


 さあ午後はFPSゲームの時間だ。


 いや、ゲームというのはもちろんもののたとえである。


 実際に俺の拠点に多数取り揃えられたゲームの中にはFPSゲームも幾つかあるのだが、この手のゲームはマルチプレイで全世界のプレイヤーと競うから面白いのだ。


 外部との接続が断たれた今となっては、たとえCPUを相手にプレイしたところで物悲しさが募るばかりだろう。


 乃愛のあはああいうゲームは興味なさそうだしな…今は料理をしていない時間なので、俺のHDDに大量に収められている海外ドラマを見始めているところだ。


 ちなみに、乃愛のあが見始めたのは超常現象に挑む兄弟モノのオカルト系アメリカンドラマの第一シーズンで、アレを見始めたということは相当な期間はゲームに興味が向かうことはないだろう。


 あのシリーズはアメドラの例に漏れずシーズンごとに当初の面白さは薄れていくんだが、愛着の湧いたキャラクタの物語はついつい追いかけてしまうんだよな…



 閑話休題それはさておき



 午前中に各種スキルのレベリングを終わらせたので、午後はタレットを操作しての怪物撃ちに励んでいこうと思う。


 屋上に設置した2種類9門のタレットは普段『自動オートタレット』モードにしているし、それで問題なく『タレット』のスキルレベルは上昇しているのだが、俺が操作して怪物を倒さないと『射撃』レベルの方は上がらないので暇な時間には自分で操作していこう。



 …と言っても、いつ現れるかもわからない怪物を待ってひたすらモニタを眺めるのも気が滅入るので、ここは一工夫していくぞ。



 俺は『タレット』スキルに意識を集中して、『自動オートモード』の詳細な設定を行っていく。


 特に制限無く稼働させている時は怪物が射界に入り次第に斉射を加えているのだが…それでは俺が撃つチャンスが無いので、車庫ガレージから30m程の距離まで引きつける設定にして…と。


 よし、これでしばらく置いてみよう。









 ピコン!



 おっ、きたか。



 俺は肥満防止のために漕いでいたエアロバイクから飛び降りると、PC席に座って動体センサが反応したモニタを注視する。


 小鬼どもが出現したのは北西方向で、数は3体…よし、北角と西角のタイプAタレットで狙いを定めて、十字砲火だ。



 タタタタタタタタタタタタ…



 ボリュームを絞っている地上マイクからかすかに銃声が伝わってきて、その大人しいサウンドとは裏腹に殺傷力に満ちた5.56mm高速弾が怪物を薙ぎ倒す。



 よしよし、相変わらずカメラ越しの射撃では初弾を当てるのことが難しいが、そんなのワンマガジン撃ち尽くす勢いで斉射を浴びせれば問題にもならない。


 撃ちながら火箭を合わせていけばいいだけだからな。


 これを繰り返して、地道にレベリングしていこう。









 ピコン!



 …またか。


 もう何度目かも分からない警告音に、俺はエアロバイクから降りてスタスタと居室を歩む。



「またお化けなの〜? 忙しいね」



 ドラマに夢中だった乃愛のあも、あんまり俺がせわしなく背後を行き来するもんだから呆れた表情だ。


 俺がPC席に着くと、動体センサが示す対象は…これまた北西である。




 タタタタタタタタタタタタ…



 

 タレットの十字砲火で地に伏す小鬼が4体。



 …なんか、数がえらい多いこともそうだが、出現方向に偏りがないか?


 さっきから10分かそこらの間隔で次々と出現する小鬼どもは、この分だと24時間で100匹を大きく超えてくるだろうし、なによりそのほとんどが北西方向の木々の合間から姿を見せるのだ。



 しまったな…怪物にポップ位置という概念があるのだとすると、初日からシッカリ統計を取っておくべきだった。


 もしこれらの小鬼どもが拠点から見て北西方向、すなわち奈良県吉野郡方面の山中のどこかで固定ポップしていて、そこから生存者の気配を頼りにやって来るのだとすると…


 いやいや、それこそ詳細な統計がなければ判断できない話だ。



 ともかく、今からでも遅くはないから記録していこう。


 俺はモニタの一つを使って表計算ソフトに怪物の出現位置と数、そして出現時間を入力していく。


 ちなみに、表計算ソフトのセルを選択した状態でCtrl+:で日付、Ctrl+;で時間が一発入力できるからオススメだぞ(豆知識) 






 その後も俺は、断続的に発生する小鬼シューティングゲームをこなしながら夕食を挟み、しばらくシューティングを続けた後は討伐ポイント交換タイムも挟み、その後には入浴時間も挟み、そして就寝前には乃愛のあに挟まれ…いや、最後のは忘れてくれ。



 とにかく、統計のために午後の時間いっぱいを頑張って怪物撃退のマニュアル射撃に徹したところ、結果は以下のようになった。



───────────────


 実施時間 13:31〜20:15


 出現総数 76 (自動射撃分含まず)


 出現方向

  ┗北西 85.5% (65匹)

  ┗北東 7.9% (6匹)

  ┗西  3.9% (3匹)

  ┗南  2.1% (2匹)


───────────────



 …どうだろうか?


 たった半日のサンプルではあるが、これを偶然の結果と見ることには無理があるように俺は思う。


 こりゃあ、明日以降も怪物シューティング&サンプリングを続けて行かないとな。




 …もし、万が一ではあるが、この出現傾向が今後も続くのだとすると…ある種の懸念が浮上してくることになる。



 俺たちの拠点から見て北西側に怪物出現スポットがあるとして、近辺で最も多くの生存者が現存する熊野市に向かうとすると、ちょうどここからは南東方向になるわけで…


 怪物どもの進路に俺たちの拠点がぶち当たるのではないか…?


 それならば、俺たち二人だけに対する怪物の襲来にしてはやけに数が多いことにも説明がつく。


 だって生存者一人あたりに対してこれほどの量の怪物が押し寄せるなら、タレットも無しに市役所だのマンションだのに籠城している地上の人類は、もうとっくに全滅していなければおかしいからな。




 …うーん、まだ確証はもてんが、ともかく寝ている間に怪物どもに殺到されては洒落にならんから、車庫ガレージ屋上のタレットを可能な限り増設しておこう。


 今日のレベリングで『タレット』のスキルレベルは14まで上昇しているので、あと5門を北西よりに配置して…と。


 これでなんとかなるように祈るしかないな。




 …ふぅ。




 一息に考えを進めた俺は、ここで意識して肩の力を抜きながら深呼吸をおこなう。




 …予想外の展望が見えてきて少し焦ったが、考えようによってはこれは好都合かも知れんぞ。


 なにしろ、この拠点とタレットの組み合わせはおそらく、現在の人類サイドにおける最強戦力なのだ。


 そしてこの拠点は、付近では最大規模の生存者を抱える熊野市をある意味では護るポジションに位置している。



 もし、この拠点が怪物どもの侵攻を防ぐ防波堤として機能するならば、地上社会への支援策などアレコレ考えなくとも、ただ拠点に籠もってタレットを撃ちまくるだけで文字通り援護射撃になるわけだ。



 …それはいい。

 それならばOKだ。



 俺には映画の主人公のように安全な拠点から飛び出して、人類のために大立ち回りを演じるなんてことは出来ない。


 もちろん危険だということが一番だが…それに加えて、どうにもそんなことは俺の性に合わないのである。


 だが一方で、俺の半生をかけて構築したこの拠点に籠もったまま押し寄せる怪物どもを遠隔操作のタレットで薙ぎ倒す…それは、アリだ。


 上手くは説明できないがそれならば俺の性に合う…いやホントに上手く説明はできないが。



 そうだな…


 これをえてたとえるならば、ベタベタのアクションゲームやPvPのRTSは全く好まないくせに、タワーディフェンスアクションや防衛型RTSは苦にならないタイプのゲーマーとでも言うか…


 …例えになっているのだろうか(疑問)


 

 ともかくそれはさておき。


 いずれこのデスゲームが終わりを迎えた時に、乃愛のあが再接続するための人類コミュニティが残っていて欲しい。


 それが熊野市を中心とする数万人規模であっても、まあ贅沢を言わなければ及第点だろう。


 それもこれも、俺のタレットとこの拠点がどれだけの怪物を処理できるかにかかっているのだ。


 


 よし…こうなりゃタレット型プレッパーの意地を見せてやる。





「やってやるぜ…!」









 

「え、まだするの!? さっきでもう3回目だよ…?」



 驚いた様子でこちらを見上げる乃愛のあ


 …どうやら俺がプレッパー特有の盛大な独り言を漏らしたせいで、乃愛のあにあらぬ勘違いをさせたらしい。



 いやいや、今のはそういういかがわしい話ではなくてだな…


 もっとこう、人類の存亡にかかわる決意を…



「ガチぃ? 誠一せーいちってタフだね…わ、 ホントにできそうじゃん! スッゴ〜い」



 あ…これは、俺の戦意の現れといいますか…


 俺は…その…


 タレットをですね…





「ふふふ…しょうがないなぁ〜。それでは誠一せーいち選手が新記録に挑戦です。がんばってくださ〜い…よいしょ」



 …よろしくお願いします!!(出場エントリー)


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