4日目1 ルーチンワーク
サバイバル4日目 06:30
「起きて〜、ごはんだよ〜!」
うーん、今日も快調極まる目覚めだ。
世界がとんでもないことになったというのに、俺はむしろ絶好調で不思議なものだぜ…まあ、もちろんこれは
俺が壁際のキャンプストーブに目を移すと、そこではすでに
…本当に
その最たるものといえば、昨晩も俺の俺自身は果てしなく柔らかな
地上は冬に向かう季節だが、そうでなくともこの拠点は地下にあるため一年中ひんやりとしている。
従来は室温調整に電気ストーブを使用していたのだが、今後はもうずっと
外部電力が断たれた現在では電力の消費を抑えたいところではあるし、なにより
なにしろ医薬品も十分取り揃えているとは言え、病気になっても医者にはかかれないプレッパー生活である。
日々の健康を増進してくれる
…いくら払ってもすぐに元は取れそうだしな。
なにしろ昨晩だけでも3回も…いや、切り替えよう。
そして朝食がこれまた
椀に大盛りの飯に大根と菜っ葉の味噌汁、焼き魚は鯖で出汁巻き玉子にひじきと筍の筑前煮になめ茸おろしに、浅漬けも白菜をはじめ複数種類仕込まれている。
しかし朝からこりゃ豪勢過ぎないか?
昨日の午後から
…いや、それが俺なのか。
スマンなみんな(自省)
浅漬けはさっそく今朝から食卓に上っているが、
「お豆も浸しといたから〜。そろそろ柔らかくなってるし黒豆にしてぇ〜。お昼はキャンプ飯でぇ〜。晩は中華にするね?」
もちろんこんだけ美味いのだから、和食だろうが中華だろうがイタリアンだろうが、俺はなんでも文句ない。
チラリとキッチンの方を見やると、これまでにはなかった調理器具がところ狭しと並べられているのご見える。
これは
うーん、これほどの調理器具を使用することは俺の想定には無かったので、現状ではキッチンの収納棚に収まりそうもないな。
よし、今日はまずここから始めるか。
さて、もちろんここは俺のレアスキルである『DIY』の出番だ。
これは元から倉庫に貯蔵していた板材を数枚持ち出してきて、俺はスキルを意識しながら同時に手元の
棚と棚の間の高さは、そこに収める予定の鍋を実際に触りながら詳細な寸法を思い描いて…いよっと!
スキルが発動すると板材が次々と光に包まれて、一際眩く輝いたかと思うとあっという間に高さ1メートル程のキッチン棚が出現していた。
「すごーい、ほんとに一瞬じゃん! しかもお鍋の大きさにピッタリ…全部シンデレラフィットし放題だから気持ちいいね!」
さっそく上機嫌で鍋を納めていく
…ふむ、こりゃあとんでもなく有用なスキルだな。
なお、本当は調理器具全部を収めるサイズで作りたかったのだが、今のスキルレベルではこの大きさが限界で、しかもこれでしばらくクールタイムが必要である。
これもスキルレベルが上がれば強化されていくだろうか?
このキッチン棚の製作で『DIY』のスキルレベルが2になったので、今後も毎日の日課にしてレベルを上げていこう。
…まあ、そんなに毎日棚ばっかり作ってたら居室に収まりきらんので、当面は製作から即解体してストーブの薪にすることになるだろうな。
お次は昨日からすでに始めているルーチンワークだ。
俺はテーブルの上にタオルを敷いて、その上に皿を二枚重ねに置く。
破片が飛び散らないようにタオルをもう一枚追加して皿を覆うと…その上から警棒を振り下ろしてガシャンと叩き割った。
ほい、『修理』っと。
タオルを開いてみると確かに割れたはずの皿がキレイに元通りになっている。
うーん、こっちも凄いスキルだな…今後は拠点設備の故障を心配する必要もないかも知れん。
ふむふむ、現在のスキルレベルでもこの程度の皿の割れ具合なら、あと何回か連続で『修理』出来そうだな。
どうやら対象物の大きさや複雑さ、破損の程度によってスキルのキャパシティを消費するようなので、これも将来的に換気システムやら給水システムやらの大物を『修理』する場面に備えて、毎日地道にレベリングしていこう。
ソファーに座っている俺の脇では、
…そんなにハイペースで焚き木を増やされても消費に困るが、まあレベルが上がるからには上げたくなるのが人間心理というものである。
当面は前室に焚き木ストックを置くとして…その後はどうしようかな?
まあ、この辺もおいおい考えていこう。
『正午になりました。サバイバル4日目を開始します』
『生存者全員に討伐レベル+1ptの生存ボーナスを配布します』
『これまでに欠番となったスキルの再配分を行います』
…
…新たな事態はナシか。
なんと言っても二日目の急激な難易度変更が衝撃すぎたのだが、それ以後はこのデスゲームもさほど加速を見せていないな。
もちろん文句があるわけじゃないぞ、あんな急激な変更がポンポンあってはコチラの生存が脅かされるからな。
ここまでの推移でも地上社会が受けたダメージは計り知れないしな…
ということで、ストーブの前に屈んでキャンプ飯の準備を始めた
『分析AI』起動
──────────────
AI:
お役に立ちます
俺:
地上の状況をまとめてくれ
…
…
AI:
現在の地上の気温は12℃です。
よく晴れていますがクリーチャーの出没があるため、お出かけには武器をお持ちいただくと良いでしょう。
いかがでしたか?
あなたのお役に立てたなら幸いです。
──────────────
…この微妙にトンチンカンな返答を寄越してきたのは、『掲示板』スキルから派生した『分析AI』である。
この派生スキルは『掲示板』の全書き込み内容から学習を行い、対話形式で俺に分析した情報を提供してくれるのだが…ご覧の通りイマイチ頭が良ろしくないので、これもレベルアップでの進化に期待しているところだ。
なにしろ『掲示板』スキルとは、範囲内の生存者全員が書き込み可能な文字ベーステレパシー能力だからな。
そのあまりにも膨大な書き込みログから自力で有益な情報を選別するなど気の遠くなるような作業であるし、是非このAIくんにはもっと賢くなってもらいたいぞ。
まあ将来への期待はともかく、今は質問内容を具体化することで対処していこう。
──────────────
俺:
24時間以内に『掲示板』にアクセスした生存者のユニークID数はいくつか
…
…
AI:
現在、『掲示板』スキル範囲内で24時間以内にアクセスを行った者は、ユニークID単位で28384人います。
なお、これらの人物の現在の生存は確実ではありません。
──────────────
およそ3万人か…少ないな。
現在の俺の『掲示板』スキルがカバーする範囲は半径およそ15kmほどである。
この範囲には熊野市の他にも尾鷲市や御浜町、紀宝町などの三重県南部の市町村や、西は隣接する和歌山県の新宮市、北は奈良県吉野郡のいくつかの村も範囲に収めている。
俺はこれらの市町村の平時人口をハッキリと把握していたわけではないのだが…おそらく、本来は5万人以上の人口があったのではないだろうか?
遠方まで避難した者もあるだろうから、この減少分の全てが犠牲者とは限らないが、やはり地上では甚大な被害が広がっていると見て間違いないだろう。
───────────
俺:
最も生存者が多い場所はどこか、その様子も述べよ
AI:
最も多い生存者のコミュニティは熊野市内の市庁舎で、およそ1500人が立て籠もっています。
付近の警察署から警察官も多数合流しているため、実戦力においても最も優れる生存者コミュニティです。
───────────
なるほど市庁舎か。
1500人となると相当詰め込んだ様子だが…たしかに警察官が多数いるならば少なくとも初日は優勢に怪物を撃退していたのかも知れんな。
───────────
俺:
現在の市庁舎の防衛戦闘の様子を詳細に述べよ
AI:
市庁舎ではちょうど外壁の修繕工事中であったため、足場をそのまま防柵として利用し、また足場材を武器に流用しての防衛戦闘が行われています。
2日目正午以後は銃器による攻撃が有効でなくなりましたが、近接戦闘による攻撃は比較的クリーチャーに対して有効で怯ませる事が可能であり、外壁や足場から突き落とすことで物理的に排除を行っています。
また、スキルを有する2人の警察官はクリーチャーを直接打倒することが可能です。
───────────
ふーむ、なるほど。
倒すことは出来なくとも足場材などで物理的に排除してしまえば、市庁舎への侵入は最低限拒める訳か。
討伐ポイント交換タイムによる飲食の確保があるので、籠城戦の最大の泣き所である補給が最低限保証されているのも大きいだろうな。
──────────
俺:
その他の生存者コミュニティはどうか
AI:
その他の集会施設やマンション単位においても、籠城中の生存者コミュニティが多数存在します。
特にマンションは集会施設よりも出入口が封鎖しやすく、少人数でも効率的な防衛戦闘が可能となっています。
ただし、近接戦闘の連続により生存者は負傷や疲労に晒されており、すでに壊滅した生存者コミュニティも多数あります。
──────────
…やはり、なかなか厳しい様子だな。
AIくんの使用にもスキルのキャパシティ的な物を要するため、本日の情報収集は以上である。
地上の人々がこれからどうなっていくのかは分からんし、今すぐ俺に何ができるというわけでもないが…ともかくこれからも毎日のモニタリングは継続していこう。
俺はここでチラリと視線を向けて、ストーブに載せた鍋でキャンプ風ミネストローネを製作中の
…元から世捨て人同然だった俺はいいとしても、
もちろん、俺たちの生存を脅かすようなリスクを取るつもりはないが…その範囲でなにか取れる方策がないか、これからも考えていくことにしよう。
それがいつになるのか、そもそも可能なのかは、分からんが。
このフリフリと上機嫌で尻を振りながら料理に没頭する娘を、俺のできる限りではあるが…なるべく幸せにしてやりたいのだ。
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