3日目1 掲示板

サバイバル3日目 06:30



 キッチンで乃愛のあが鳴らすトントンという小気味よい包丁の音で意識が覚醒した俺は、目覚めた瞬間から今日を生きる活力に満ち溢れていた。


 充実した睡眠により身体から十分に疲労が抜けているのに加えて、身体の奥深くにあったけがれやよどみも抜け落ちた感覚があって、とても清涼な気分である。


 

 …いや、詳しく説明するつもりは無いぞ(拒否)



 一つだけ言えることがあるとするならば…要するに、ありかなしかで分類した場合には、”あり” のオプションだったという事である。



 さあ、もういいだろう…本日の活動を開始するぞ。


 この終末世界を生き抜くために。







 さて、まずは地上モニタの確認であるが、これは寝ている間も点けっぱなし(音量は非常に小さくしている)であるし、乃愛のあもすでに見ただろうから騒いでいないということは異常がないと予想される。



 まあ一応確認してみると…ふむ。


 モニタに映る真新しい怪物モンスターの死体は5〜6で、それを除けば森の木々が風に揺れるだけの平穏な光景が広がっていた。



─────────────────────

甍部誠一いらかべせいいち

討伐Lv10 

討伐ポイント 83Pt


《コモンスキル》

棒術1

射撃3

操縦1


《レアスキル》

修理2

DIY1


《ユニークスキル》

タレット6

自動オートモード

掲示板4

─────────────────────



 えーと、たしか昨日のおっぱいタイム前に確認した時は討伐ポイントが61だったので、夜の間に自動オートタレットが始末した怪物モンスターは22体というわけだな。


 ということは、今見えている5〜6体以外の死体はすでに塵と化したわけで…あ、そうそう。


 コイツら怪物モンスターの死体は、トドメを刺してから3時間程度で塵になって消え去るんだよね。



 いやぁ、このままのペースで撃退していたら拠点の周りが死屍累々で凄いことになるかと心配していたんだが、この辺はファンタジー仕様で本当に助かったぞ。



 さておき、『タレット』のレベルも上がったので、追加を設置して拠点の防備を盤石にしていこう。


 車庫ガレージ屋上の残りの二隅にタレットを配置して…と、これで合計5門のタレットによる全周囲防御がひとまず完成したぞ。



 …数が合わないじゃないかって?


 実は、昨日の夜の内に、ピックアップトラックの屋根の上に設置していた一番最初に俺が生み出したタレットを『消去』していたんだ。


 スキルの感覚から設置したタレットの消去と再配置も可能であると分かってはいたんだが、再配置までのクールダウン時間的な物が読めなかったので、昨日に追加の2門を屋上に配置するまでは慎重になっていたのである。



 実際にやってみると、消去から再配置まではおよそ半日というところではないだろうか?


 正確なクールダウン時間を確かめるために、もう1門分のタレット枠の空きを使って今すぐ実験をしてもいいんだが…まあ、そう焦ることはない。


 いざというときのために空き枠は残しておきたいし、実験はもっと余裕ができてからにしよう。





 よし、次は寝ている間に仕込んでおいたもう一つの成果についてだ。


 

 俺はスキルを意識して、脳内に表示される『掲示板』のUIを開く。



「おわっ…!」



 その途端、数万を超える膨大な書き込みログが奔流のように脳内に流れ込んできた俺は、あまりの情報量に圧倒されてソファーに尻もちをついてしまった。



「…どしたの、大丈夫!?」

 


 俺が変な声を出したもんだから、キッチンに立っていた乃愛のあが慌てて駆けつけて来る。



「ふぐっ…! モガモガ…大丈夫だ。思ったより『掲示板』のログが多かっ…モゴモゴ」



 俺は顔面を柔らかな膨らみで覆い尽くされて、とてもしゃべりにくい。



「あ〜、あれ書き込みが多すぎてよく分かんないもんね」



 乃愛のあは俺の頭部を抱きしめたまま納得している。


 …まあ、こうして乃愛のあの双丘に顔面を挟み込まれているのも悪くないのだが、昨晩はもっとクリティカルな部分をはさ…いや、この話は忘れてくれ。




 本題に戻ろう。


 昨日の地上の混乱の後、俺はもう一つのユニークスキルである『掲示板』の封印を解いたのだ。



 このスキルは、いうなれば広範囲に対する集団テレパシーのようなもので、この拠点を中心とする半径5kmほどの円内にいる人々を繋ぎ、あたかもインターネット掲示板のように文字ベースのやり取りを可能にしているのである。


 これにより、付近のいくつかの山村と奈良県側の町を一つ、そして熊野市の郊外を範囲に収めているため、掲示板には一晩の間に数万もの書き込みがなされたという訳だ。



 えーと、書き込みのユニーク人数はおよそ2000人で…うん、やはり8割方は熊野市郊外の住人によるものだな。


 たくさん書き込んでくれたのでスキルレベルが上昇したのはいいんだが、内容を見てみると家族の安否情報を求める物やら自治体からと思しき公的情報の発信やら、ゴチャゴチャに入り乱れていて非常に混沌としている。


 今現在もリアルタイムで書き込みが殺到しているため、いわゆる「スレが早すぎる」状態だな。


 まあ、昨日の時点では掲示板を一スレッドしか立てられなかったので仕方あるまい。


 よし、スキルレベルが上昇した事によりスレッドをもっと立てられるので、整理していこうか。


 …それに加えて、今度は距離も伸ばして熊野市の市街地も範囲に入れるので、「熊野市外」「熊野市北部」「熊野市南部」の三つに分けて、ついでに一人の書き込みを10分に1回と制限しておく。


 これで多少は落ち着いて見られるスピードになるかな…?


 さらにもう一枚の掲示板は、書き込み者の属性を限定して…よし、範囲内の公的機関に所属する者しか書き込めない「公的情報」の専用スレッドにしたぞ。

 


 見ての通り、こうしたスレッドの運用やアクセス権限の設定はスキルの持ち主である俺の専権事項であるし…また今使用したように、アクセス者の情報を一方的に取得し、その属性ごとに振り分けたりする事もできるのだ。


 この「アクセス者」というのがミソで、書き込みを行った者に限らず閲覧者であってもこの情報取得から免れることは出来ないのである。


 だから、俺だけは常時書き込み内容の信憑性に関して裏を取ることができるし、全ログデータから一定の条件でのフィルタリングや検索も可能なので、今後の有効な情報収拾手段としていくつもりである。



 …こんなの平時に行ったら大変問題のある情報窃取行為だとは思うが、今は非常時だし実際に役に立ってるからいいよね?



 ちなみにアクセス者のうちスキルを保有している人物は2人だけで、その所属は二人とも警察官であった。


 スキル内容はなんと二人とも「剣術」で、これは警察官必修の剣道と関係があるのかも知れない。



 ふーむ、てっきりスキル保持者は自衛官が多数派かと想像していたが…範囲内にいる小隊規模の自衛官には誰一人スキルを持つものはいないらしい。


 …しかし考えてみると、いきなり発生した怪物モンスター騒ぎに対して真っ先に出動したのは警察官というのも頷ける話か。


 しかも、警察官は全員が武器を常に携帯しているしな。


 自衛官が銃を持ち出して発砲にいたるにはステップがあるだろうし、警察官が撃つ方がタイミングとして圧倒的に早かったのだと考えられる。



 などと俺が考察をしていると、新設したスレッドに早くも書き込みが殺到している。


 今のところ新たに範囲内に入った人々の困惑の声が続々と書き込まれて一時的に早いが…まあ書き込み制限があるのでじきに落ち着くだろう。


 「公的情報」スレッドでもさっそく警察や自衛隊を中心に住民誘導の呼びかけが行われているので、やはり一定の役に立ったと言えるのではないか。



 さてさて、新スレが無事稼働したところで、俺はここまでに書き込まれた情報のフィルタリングを…



「朝ごはんできたよ〜」



 むっ、まずは乃愛のあの激ウマ朝食の賞味に集中することにしよう。



 焦らなくとも、これから時間は腐る程にあるわけだからな。


 飯を食う時は飯を食うことに没頭するべきである。

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