2日目2 プレッパー生活 

サバイバル2日目 11:50




「やっぱみんな、お化けの種類が増える予想が多いね」


「まあ、一番ありそうな線だからな」



 昼食を早めに終えた俺たちは、不測の事態に備えて…と言ってもソファーに座っているだけだが、まあともかく正午を待っている。



 というのも、この異変は昨日の正午突然の脳内アナウンスから始まり、18時ちょうどにも討伐ポイント交換タイムという動きがあったため、2日目の正午にもなにか展開があるのではないかと警戒しているのだ。


 乃愛のあがスマートフォンでまだ機能しているいくつかのSNSから集めた人々の予測でも、この正午から『サバイバル』の難度がレベルアップすることを予測する声が多い。



 …まあ、たしかにここまでいかにもゲーム然とした展開だったので、デスゲーム物の創作物に詳しい日本人の感覚からすると、日々難度が上昇していく方がある意味「自然」であろうか。


 こんな超常現象に自然も何もないんだけどね。



 さて問題は、仮にゲームの難度が上昇するとしても…それがどの程度の勾配かである。


 ここまでは比較的穏当というか、いや地上に怪物が溢れかえっていることはちっとも穏当ではないのだが…しかし、地上の文明を破壊し尽くすような強烈さではないと言えるだろう。


 討伐ポイントによる物資調達も含めて考えれば、文明は滅亡を免れる可能性がとても高いように思われる。


 現状では警察や自衛隊といった実力組織が前面に出ているとしても、民間人であっても十分に備えればあの小鬼程度の怪物モンスターは撃退できるだろうしな。


 そうなれば、誰しもが討伐ポイントによる補給を前提とした生活を構築するという、それまでの社会とはかけ離れているにしても生存可能な環境が構築されていくだろう。



 それはそれで、ちょっと見てみたい社会の在りようではあるが…


 …まあ、それもこれもこの正午次第である。






『正午になりました。サバイバルニ日目を開始します』

 



 来た…!


 例の脳内アナウンスが、今日も正午ちょうどにやってきたぞ。


 さあ、どんな展開だ…?



『生存者全員に討伐レベル+1ptの生存ボーナスを配布します』



 …お!?

 これは、まさかの温情仕様…?



 脳内で討伐ポイントを意識してみると、なるほどたしかに俺の現在の討伐レベル8に1を足した値、つまり討伐ポイントの残数が9pt増加している。


 そうすると、俺は仮に丸一日怪物モンスターを倒さなかったとしても9ポイント、すなわち9000円相当程度の物資を交換できるわけか。


 これならば、閉じこもって隠れているだけの生存者でも毎日最低1000円相当分の水と食料が手に入るわけで、かなり長期に渡って生命を維持できるのではないだろうか。


 いやそれどころか、積極的に怪物モンスターを討伐してレベルを上げていけば、むしろ従来よりも羽振りの良い生活をする人も出てくるかも知れん。


 …ゲーム難度の上昇が予測されていたところ、予想外に人類にとって有利となる内容だったな。


 こりゃあ、地上との再接続もさほど遠くないシナリオに変わってくるかも知れ…



『お試し《トライアルモード》を終了し、以後クリーチャーは非スキル攻撃に耐性を獲得します』




 …なんだって?


 それは…まさか。




 乃愛のあと二人無言で顔を見合わせているが、しばらく経っても続きのアナウンスは聴こえて来なかった。



「…え〜と、アタシよく分かんなかった。どういう意味だったの?」



 乃愛のあは俺に答えを求めて来るが、ある種の想像はつくとはいえ俺にも確証はない。


 

 そもそも、よく分からん超常的存在からの一方的な宣告を受けているわけで、その意味を分析する材料が乏しく…いや、さっそく材料が見えてきたな。


 …やはり、想像の通りらしい。



 俺たちが座する居間スペースのつけっぱなしのテレビからは、それまで銃火器の威力で怪物モンスターを圧倒していた自衛隊が、一転して苦戦し今にも戦線が崩壊しようとしている様子が映し出されていた。



「えっ、急にどうしたの… 自衛隊じえーたいやられちゃうよ!?」



 映像の中では、正午以前には自衛隊の主力小銃その他の火器でバタバタと斃れさていた小鬼が、銃弾のダメージに耐えてジワジワとカメラに接近してくるという、人類にとって恐るべき事態が進行している。


 

 やがて、都市郊外の前線で怪物モンスターを抑えていた自衛隊も撤退を決断したらしく、前線に張り付いていたテレビクルーも慌ただしく避難を始め、中継映像は終了した。



 …あの脳内アナウンスの内容から類推するに、今後は怪物モンスターに対して通常兵器が有効ではないということだろう。


 すなわち、乃愛のあの『斧術』や俺の『棒術』などの戦闘スキルで近接攻撃を行うか、あるいは『タレット』のような特殊なスキルでないと、怪物モンスターどもを撃退する事は叶わないわけか。


 あるいは、俺の『射撃』スキルならば自衛隊の火器を使用しても有効だろうか?


 俺は『タレット』以外の火器を所有していないので、これは確かめようも無いことだが…



 …なんにせよ、これで地上文明の未来は一気に暗いシナリオに転落することになったぞ。


 なにしろ、このデスゲーム開幕直後の出来事を思い返してみるに、おそらく日本国内で対怪物モンスター戦闘が可能なスキルを有している人間は、その全員が生存していると仮定しても10万人しかいない事になるのだ。


 その何割が警察や自衛隊といった実力組織に属しているかは分からないが…そのスキル内容が乃愛のあのように近接武器オンリーであれば大幅戦力ダウンである。


 俺は従来から、彼らが日本全国の怪物モンスターを駆逐するには戦力不足だろうとは考えていたが、もはやそれどころの騒ぎではない。



 …これは、持たないだろうな。


 まだ事態の推移が飲み込めずポカンとしている乃愛のあの顔を眺めながら、俺は内心で超長期の生存戦略に方針を切り替えていた。


 事態を収拾した地上社会からの救援を待つというのは、もう期待できないだろう。


 むしろ、いかに現有の設備と能力で生存していくかである。



 俺が一人そう決断していると、やっと状況が飲み込めた乃愛のあが、形の良い眉根を心配そうに寄せながらコチラを見上げてくる。


 …まあ無理もない。


 こういう日がある事を妄想しながら生きてきたプレッパーの俺とは違って、乃愛のあはつい昨日まで文明の破滅など想像したこともないギャルだったのだ。


 それが僅か一日かそこらでこの事態である。

 さぞかしショックを受けているに…おっと。


 そこでPCのデスクから動体検知の警告音がして振り向くと、山道の入り口から出現した小鬼どもが自動オートタレットの銃火に晒されて倒れ伏している様子が映っていた。



 …ふむ、俺の『タレット』は全く問題なく怪物モンスターどもを処理できるな。


 今後のデスゲームの行方がどうなるかは分からないが…この拠点を可能な限り安全にして、行けるところまで生きていこう。



 タレットの働きに満足した俺がもう一度振り返ると、そこには明るく逞しくもどこか能天気な表情を湛えた、元通りの乃愛のあが復活していた。


 …ふふ、拠点の防衛が変わらないと分かって安心したか。


 適応能力が高くて結構なことだよ。



「…誠一せーいち、今日からおっぱい券は "ありあり" にしたげるね?」



 あ、ありあり…!?


 そ、そ、それはいったいなにがアリで…いや、逞しいにもほどがあるだろこの娘は! よろしくお願いします! (即時申し込み)











 その後は、時間の経過とともに坂道を転がり落ちるように、地上の文明社会は崩壊へと向かっていった。



 まず、正午のアナウンスから1時間と経たない内に、テレビ各局が放送の継続を諦め職員を避難させることを宣言し、程なくして実際に全てのテレビ放送が終了する。



 そして、政府から何らのメッセージも発せられないまま15時を前にインターネットを含む全通信が途絶し、18時の討伐ポイント交換タイムを終えて乃愛のあが夕食の支度を始める頃になると、外部からの電力供給が消失して拠点の内部電源が稼働し始めていた。





 …さあ、ここからが本当のプレッパー生活の始まりだ。



















 それはそれとして、その夜の乃愛のあのおっぱいは凄かった。


 何がどう凄いということをここに詳述するつもりはないが…


 ともかく、昨夜までのおっぱいは美術品としてのおっぱいだったが、今夜は実用…いや、これ以上は語るまい。

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