2日目1 派生解放

サバイバル2日目 07:30




「ひっ…お化けだらけ」



 地上カメラのモニタを覗き込んだ乃愛のあが小さな悲鳴を漏らした通り、映像には車庫ガレージを取り囲む数十体の小鬼が映し出されている。



 うーん、やはりこうなったか。



 昨晩に就寝する前に…いや、詳細は伏せるが素晴らしい憩いの時間を始める前に俺は地上監視ソフトの通知音を切っていたのだが、一晩明けてみるとご覧の大盛況である。


 日が落ちても怪物モンスターが出現するペースはさほど落ちていなかったからな。


 まあ、一晩も撃退せずに放置していたら、当然こうなるだろう。



 さて、こうなると車庫ガレージ屋上に設置したタレットでは、車庫ガレージそのものが邪魔になって怪物モンスターを撃つ事ができない。


 小鬼どもは手にした棍棒で車庫ガレージの外壁やシャッターを盛んに叩いているが、まあ厚さ40cmものコンクリート壁や鋼鉄多層シャッターを木の棍棒で破壊する事は出来ないだろう。


 しかし、いくら突破されないからと言って、こんな気持ち悪い光景がずっと続くのは御免被りたいな。




 と言うわけで、もちろんこうなった場合の事は昨日から考えてある。



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甍部誠一いらかべせいいち

討伐Lv6

討伐ポイント 43Pt


《コモンスキル》

棒術1

射撃2

操縦1


《レアスキル》

修理2 

DIY1


《ユニークスキル》

タレット4

掲示板1

─────────────────────



 乃愛のあの下着を購入したため討伐ポイントの延べ総数は分かりにくくなっているが、昨日の内に追加で30体以上の小鬼を撃退していて、その時点で『射撃』と『タレット』のスキルレベルが上昇している。



 『射撃』の方が伸びが悪いのはもう一つ理由がよく分からないが、『タレット』が順調にレベルアップしたおかげで追加のタレットをあと二つ設置できるのだ。



 そして、その設置位置は…車庫ガレージから20mほど離れた位置にある、地上の気温や放射線量を観測するためのセンサーボックスの上である。


 このボックスもコンクリートの土台に埋め込まれているので、まあタレットの発射反動に十分耐えてくれるだろう。



 …よし、問題なく設置できたぞ。

 さっそく駆除していこう。




 映像の中で音もなく横薙ぎに斉射される5.56㎜弾と、それを受けてバタバタと倒れ伏す小鬼の群れ。


 …うーん、カメラ映像はタレット側からではないため、これは感覚的になかなか難しい作業だぞ。


 タレットの銃身が向いている方向を頼りに、大体の感覚でやっていくしかない。




 ほどなく、車庫ガレージを取り囲む怪物モンスターどもの内、センサーボックスから射角が取れる180度に位置するものは全て撃ち倒された。


 反対側をどうしようかと思案していると、好都合なことに残りの小鬼どもは敵愾心に燃える顔付きでセンサーボックスに向かってくるので、これも難なく…いや多少手こずりながらも駆除することができたぞ。



「やったぁ〜! 誠一せーいちマジ無敵〜♪」



 …うーん、乃愛のあは呑気に喜んでいるが、毎朝この作業をやるとなると、ちと問題があるな。



 地上カメラの解像度では車庫ガレージの外壁を詳細に観察できないが…たぶん、狙いが逸れた銃弾や怪物モンスターを貫通した銃弾が多数の傷をつけたことだろう。


 もちろん、厚さ40cmの耐爆コンクリート壁が5.56㎜弾ですぐにどうにかなるとは思わないが…自分の拠点を自分で傷つけるという行為自体に、なんとも言えない気持ち悪さがあるのだ。



 …それに、これを年単位で続けていれば、さすがの耐爆コンクリート壁でも深刻なダメージになるかも知れん。

 

 さりとて、俺が24時間モニタに張り付いてタレットを操作するわけにもいかんし…




 うーむ、なにか策を講じねばならないな。



 こんなことなら、対ゾンビ想定プレッパーのように高圧電気柵で車庫ガレージを覆うべきだったか…ん?



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甍部誠一いらかべせいいち

討伐Lv8 

討伐ポイント 98Pt


《コモンスキル》

棒術1

射撃2

操縦1


《レアスキル》

修理2

DIY1


《ユニークスキル》

タレット5

自動オートモード

掲示板1

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 …なんか、解決したっぽいぞ。



 『タレット』のレベルが5に達したことにより、スキルの派生モードが生えてきた。



 もう名前からして目標達成ミッションコンプリート感があるが…ともかく試してみるか。


 屋上のタレットを自動オートモード化して…と、これで新しい怪物モンスターが現れるのを待つとしようか。



「朝ごはん出来たよ〜」


「…ん、ちょうど片付いた」



 乃愛のあに呼ばれて俺はPCデスクからソファーに移る。



 …おお、俺の日常的な朝食はいつもシリアルかせいぜいパンを焼くぐらいだったと言うのに、乃愛のあの料理は朝から実に豪勢だ。


 テーブルの上には茶碗に盛られた飯、味噌汁、焼き魚に卵焼きに、ほうれん草の胡麻和えまであって、皿数といい色合いといい素晴らしい。

 

 うーん、俺が地上を掃討している間これほどの朝食が出来上がるとは、手際の良さにも驚かされるな。


 

 …そして美味い。


 こりゃあ、毎度の飯を食うだけでも相当に生活の質が上昇するぞ。



「次の交換タイムは調味料も揃えたいし〜、お味噌は赤味噌も欲しいなぁ〜。お買い物時間が短いから、お野菜はリストアップしといてぇ〜…あ! 圧力鍋が無いから欲しいのとぉ〜、あとあとお菓子作るのに軽量カップとかホットプレートとか…」



 タタタタタタタァン! タタタタタタタタァン!



 おっ、PCデスクのスピーカーから銃声が聴こえてくる。


 見ると『自動オートモード』化したタレットが小鬼を処理中で…ふむ、断続的に発射される火箭はやや精度が低いだろうか…?


 怪物モンスターのいる辺りにおおよその狙いで銃弾をバラ撒いていて、かなり目標を外しながらも連射力で制圧しているな。


 斉射を受けた小鬼どもは数匹が絶命に至らず地面でもがいているが、追撃の銃弾がバラ撒かれてすぐに動かなくなった。



 …ふむ、俺が狙うよりも効率は悪そうだが、それでもこうして自動で怪物モンスターを処理してくれることはありがたいぞ。


 狙いが悪い分は屋上タレットの数を増設して補うことにしよう。



 俺はスキルレベル分だけタレットを設置できるので、あと二つある空き枠を使用して車庫ガレージ屋上の隅対角に新たなタレットを設置する。


 よし、これで屋上中央に設置したタレットよりも近距離に対して俯角を取れるし、いずれ『タレット』のスキルレベルが上がったら残りの二隅にも設置して全周囲防御を完成させよう。




「はい! 次の交換タイムはこれでお願〜い」



 俺は乃愛のあから手渡されたメモを覗き込む。


 えーと、なになに…生鮮食品に加えて調理器具そのもののリクエストも多いな。


 なるほど、料理が出来る人間からすると俺の拠点はその面でも不十分だったか…準備不足と能力不足を指摘されているようで、プレッパーとしても耳が痛いところである。



 …まあ、言い換えれば乃愛のあがいる限り、俺の拠点の充実度はもう一段昇華されるわけで…ん?



「…乃愛のあ、これは何のために必要なんだ?」


「えへへ、それはねぇ…」

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