1日目3 討伐ポイント交換タイム


『18時になりました。本日の討伐ポイント交換タイムを開始します』



「…ええっ!?」


「…うおっ!」



 唐突に例のアナウンスが頭に鳴り響いたかと思った瞬間、俺の脳内には電話帳よりも分厚く巨大な本が現れていた。


 いや、これは言語で説明するのが難しいのだが…本当に本なんだ。


 意識の中における物なので実体はないのだが、ページをめくってその内容をハッキリと認識できる。



 本の内容を一言で言えば「お歳暮のギフトカタログ」が一番近いだろうか。


 最初に目に飛び込んで来たのは各種ブランドの米で、酒に意識を向けるとこれまた多様な種類の酒、タバコに意識を向けると知らない銘柄のタバコまで表示されて、交換に要する討伐ポイントも併記されている。




 …なるほど。


 急なことで驚いたが、でもまあ意味合いは簡単に推測できるな。


 なにしろさっきのアナウンスでは『討伐ポイント交換タイム』と言っていたのだから、きっと怪物(モンスター)を討伐する事で得られる討伐ポイントを消費して、食料その他の生存に資する物質を手に入れるチャンスなのだろう。


 怪物モンスターにトドメを刺す際に利用する以外にも、討伐ポイントに使い道があったわけだな。


 …いや、たぶん何かあるだろうとは思っていたけども。



 さて、よく見ると意識の端には『04:42』と数字が表示され毎秒減算されていくので、5分間限定のお買い物タイムということだろう。


 俺の手持ちの討伐ポイントも『32』と表示されているな…ふむ、値段の分かりやすいタバコと比較するに1ポイントは日本円にしておよそ1000円程度の価値と見られる。


 とすると俺は3万円ほどの買い物が可能なわけで、これが毎日あるイベントならばまず食うに困らない補給が出来る計算になるな。


 …


 ……


 …うーん、なんというか…もちろん生存可能性を向上させてくれるありがたいイベントなのだが、これだと俺がせっせと備蓄してきた物資の意味が薄れてしまうな…


 わざわざ味や栄養に難のある保存食を口にしなくとも、この『討伐ポイント交換』で毎日新鮮な食材を調達できてしまうのだ。



 …いや、もちろん嫌じゃないんだけどさ、なんというか…ね(テンション下降)



 などと俺が1人でアンニュイな気分に浸っているところで、隣に座っている乃愛のあがグイグイと俺の腕に膨らみを押し付けてくる。



「ねえっ! 誠一せーいちもおんなじのが見えてるんだよね? アタシは全然ポイントないからぁ〜、下着の替えが欲しいの…おねが〜い!」



 おっふ…買うのはいいが、俺には女物の下着の事なんかさっぱり分からんぞ。


 そもそもそんな物が…あるな。


 意識を向けた途端にカタログのページがパラパラとめくれて、本当に女物下着のページがズラズラと現れる。



 まあたしかに乃愛のあ用の下着なんて俺が備蓄していない物の筆頭だ。


 今日のところはアレコレと考えている時間も無いし、急ぎで必要な物資も特には思いつかない。


 明日の交換タイム(があるとして)、そこで購入する物資については後でじっくり考えるとしよう。



 さて、俺は乃愛のあが指定してくる品番の下着類を急いで次々と購入していく…のだが。




 …あ、あかん。


 ただでさえ現実の視界と脳内カタログのビションを並行して処理するだけでも頭が混乱していると言うのに、腕には乃愛のあの双丘がグイグイと押し付けられる感触があり、おまけに太腿のあたりをスリスリとおねだりするようにさすられて…情報量が多すぎて頭おかしくなってしまいます!









 俺が大混乱の内に5分間の『討伐ポイント交換タイム』を終えると、目の前のテーブル上には乃愛のあにせがまれるままに購入した女性物下着が多数出現していた。



「わぁ〜ありがと〜! キャンプだから地味なのしか持って来てなかったんだよね…良かったぁ」



 …なんだかよく分からんが、乃愛のあが喜んでいるならいいか。



 さて、落ち着いてみるとこの『討伐ポイント交換タイム』、下着購入後の時間で流し見したところでは…本当に金で買えるものならば、燃料でも工具でも建材でも、果ては重機から船舶までまさに何でも揃っているという感じであった。


 交換品目のランクに応じて討伐レベルが要求されるようではあるが、現時点の俺のレベルでもすでに不都合は感じないぞ。



 …こうなると、俺が数十年の籠城を見越してわざわざ保管年数に理論上限がないLPガスを、地下倉庫に膨大に貯蔵してきた意味が薄れてしまうな…(テンション下降)


 それなら普通に便利なガソリン式の発電機にしておけばよかったかもな…(テンション下降)


 他にも、将来の拠点の修繕のために乾燥コンクリートやシーリング材を、わざわざ厳重な耐湿コンテナに詰めて貯蔵してきたことも…(テンション下降)





 …と、落ち込むのはこのくらいにして、このサバイバルに新たな考慮要素が生まれたことを真面目に分析していこう。

 

 なにしろこれは、未曾有の災害に見舞われている人類にとって救いの福音となる可能性があるからな。



 これは大体どの災害シナリオでも共通なのだが、地上の社会に大混乱が生じると生産や物流が立ち行かなくなり、その結果食料不足による飢餓が発生すると考えられる。


 元から食料自給率の低い日本はもちろんの事、食料生産の豊富な国であっても物流がストップしてしまえば、その豊富な食料が手に入るのは生産現場にいる者だけになり都市部はどこでも飢えてしまうだろう。


 そして怪物モンスターが日夜闊歩する環境となると、その生産そのものもこれまで通りには行くまい。


 やがて食料を求めて都市部から大量に疎開する人々と、自身の生存環境を守ろうとする農村部の人々との争いが勃発し、怪物モンスターを交えた三つ巴の地獄が現出する…という、最悪のシナリオは回避されたかも知れないのだ。



 

 なにしろ俺が一個人で『タレット』により稼ぐ討伐ポイントでも、おそらく数十人の生存を支えるくらいは可能だろう(まったくやる気はないが)。


 今も都市部で激戦を繰り広げている自衛隊ならば、部隊単位で相当な量の討伐ポイントを獲得しているに違いあるまい。


 戦闘能力と物資獲得能力を兼ね備えた政府組織があるのだから、こりゃ地上の社会は相当に変容するとしても崩壊を免れる可能性が高いのではないか。



 …ふーむ、そうなると生存戦略の前提を、ガチガチの終末シナリオから一段引き下げた方がいいだろうな。


 当面は拠点でプレッパー生活を継続するとしても、長期的にはどこかの時点で地上社会との再接続を目指すことになるか。


 なんにしても、まずは地上の混乱が収まってからの話ではあるが…



「あ〜っ! 冷蔵庫に全然お野菜無いじゃ〜ん! さっきお野菜買っとけば良かったね…ま、みりんはあるからお魚を煮付けにしてぇ〜、お肉も唐揚げにしてぇ〜。ふふっ、なんかガッツリ系ばっかになっちゃうね〜? 男のメシって感じ〜」



 またしても一人の思考の世界に沈んでいた俺の耳に、キッチンで料理にとりかかる乃愛のあにぎやかな声が聴こえてくる。



 ほう。


 魚の煮付けとはまた、ギャルの見た目によらず随分と家庭的な…いや、そういえば乃愛のあのスキルにはそのものズバリ『料理』があったか。


 生鮮食品を継続的に入手出来ると分かった以上は、料理が出来る同居人は大変にありがたい存在である。


 …いやぁ、乃愛のあとは偶然の出会いであるし、拠点に招き入れることには当初迷いもあったのだが…こうして見事に俺の拠点に足りない要素を埋めてくれるとはな。




 その後、元々料理は得意という乃愛のあが作った夕食を二人で囲み、それはスキルの補正も相まってか乃愛のあ本人も驚くほどに美味であった。


 その後は少しくつろいだ後に、少々早目ではあるが、俺たちはサバイバル生活の1日目を終えるのだった。












 …なお、これに関してはあまり詳細に描写することは差し控えるのだが…
















 乃愛のあのおっぱいはとても美しかった。

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