1日目2 スキル検証②

 次は『修理』を試したいが…しかし、乃愛のあのバイクを直すことは無理だ。


 これはバイクをピックアップトラックに積み込んでいる際に、すでに感覚としてできない事がなんとなく分かっているからな。



 おそらく、これはスキルレベルが足りないのだと思われ、対象物体の大きさや重量、複雑性などで総合的に要求スキルレベルが高くなるのではないだろうか?



乃愛のあ、バイク以外で何か壊れた物を持ってないか?」


「え、あるよ〜。 直してくれるの?」



 乃愛のあが嬉々として取り出した物はピンク色のファンシーカラーなスマートフォンで、なるほど液晶部分には大きな亀裂が複数入っている。


 これも怪物モンスターに襲われてバイク転倒時に破損したわけか、よく本人は無傷だったな。



「ううん、もっと前に落としてからずっとバキバキだよ。直してくれたら助かる〜」



 …いるよね、スマホの画面が割れてても平気な人。


 ちょっと俺には理解できない感性なのだが…まあ、ともかくこれはたしかに手頃そうな実験材料だ。


 俺は乃愛のあのスマホを受け取ると、自身のスキルに意識を向ける。


 その瞬間、スマホが光に包まれたかと思うと、あっという間に液晶面のヒビ割れが修復された。


 ふむ、『修理』のスキルレベルも1上昇したので、こうして使用していけばより高度な物も直せるようになるに違いない。



「ガチぃ!? やったぁ〜! スゴいスゴい! 1年ぶりにキレイになった〜!」



 そんなに長いこと不便を感じていたなら直せばいいだろうに、と思わないでもない俺だったが…そうした雑念は一瞬で頭から追い出し、今は大喜びで抱きついて来た乃愛のあの大きな双丘の感触に集中している。



 これはまだおっぱい始まってないんだよね…?(再確認)


 どうやら乃愛のあを喜ばせるたびに単発ぱらいのおっぱいが発生するようなので、今後も積極的に狙っていこう。




 お次はもう一つのレアスキル『DIY』だが…これに関しては、今この場では実験できないな。


 感覚でスキルの概要は掴めていて、たぶん材料に対して使用することで道具や設備を製造するスキルなのだが、実験しようにも文字通り材料が手元にないぞ。


 おそらくこれも材料の量や目的製造物の複雑性などに応じて、要求スキルレベルが高くなるだろうな。


 まあ、おいおい検証していくことにしよう。


 …もう一つのユニークスキルに関しても、こりゃ今はまだ使うべき時でないだろうしな。











 

「見て見て、あれって誠一せーいち鉄砲てっぽーと同じじゃない?」


 当面のスキル検証を一区切りし、二人でソファーに腰掛けてテレビのニュース映像を見ていると乃愛のあがアレコレと話しかけてくる。



 …ふーむ、長いことこの拠点で一人静かに暮らしてきたが、同居人が一人いるだけでこれほど賑やかになるものか。


 いや、コイツが特別に騒がしいのかも知れないが…まあ、なんだか悪い気はしない。



 今後は本格的な籠城生活が始まるわけだし、長期間のプレッパー生活においてはストレスの緩和も重要な命題となってくるからな。


 そのためこの拠点には、気晴らしのエクササイズマシンを備えている他、各種ゲーム機器や複数のHDDに収められた膨大な映画やドラマなどの娯楽も用意してある。


 しかし、俺を飽きさせないという意味では、アレやコレや何でも騒がしい乃愛のあほどの適任はないわけで、何よりこの左腕に今も押し付けられている柔らかなおっぱいこそ、この拠点に足りなかったラストピースだったのかも…




「ねえ〜、聞いてる〜? ほら、あれあれ〜!」



 おっと、すぐに自分の考えに没頭してしまうのは俺の悪い癖だな…いや、あるいはプレッパー病の一種なのかも知れん。



 えーと、なになに…


 乃愛のあに急かされてテレビモニタを見ると、そこには視聴者によりスマホで撮影されたと思しき自衛隊と怪物モンスターの戦闘シーンが映し出されていた。


 ふむ、乃愛のあの言う通り、映像内の高機動車に搭載されている軽機関銃ライトマシンガンは、細かなオプションパーツの違いを除けば俺が呼び出すタレットと同型に見えるな。


 バラ撒かれる5.56㎜銃弾が怪物モンスターをなぎ倒す様子も、俺のタレットとほぼ同等の攻撃力だろう。



誠一せーいち鉄砲てっぽーとおんなじのがたくさんあるし、すぐ安全になるかな…?」



 うーん、それはどうだろうか。


 たしかに、車載機関銃に限らず自衛隊の装備をもってすれば、あの小鬼程度の怪物モンスターを打ち払うことは難しく無いだろう。



 …が、しかし日本全国に沸き起こった怪物モンスター災害を鎮めるとなると、やはりネックになるのはその人員数である。


 なにしろ、日本の自衛隊とは陸海空全てを合わせてもわずか20万人余しかおらず、陸上自衛隊に限って…さらに前線展開部隊に限って言えばなおさら少ないのだ。


 仮にこれを10万人と見積もったならば、各都道府県あたり2000人と少しかいないのである。


 国民1000人あたりに1人未満の自衛官と言った方がイメージしやすいだろうか?


 ともかく、この人員数で日本全国を隅々まで掃討して回るとなるとゼロが1つ2つ足りないだろうし、おそらく各都道府県の主要な都市部や駐屯地を防衛するだけで、彼らは精一杯となってしまうのではないか。



「ふーん、そっかぁ…長くなりそうだねぇ。ま、ウチらは完璧安全だし、ノンビリしてたらいいよね!」



 …などと、俺と乃愛のあがニュース映像に対してアレコレと話し合っていると、PCからピコピコと注意を引く音が鳴る。



 ちっ、またか。


 地上監視のモニタを見やるとそこには数匹の小鬼が映っていて、俺は『タレット』の斉射でそれをなぎ倒す。


 先ほどの音はカメラ映像に対する動体検知ソフトによるもので、こうして動く存在が映り込めば警告してくれるわけである。


 と言うわけで、怪物モンスターの撃退そのものは実にスムーズなのだが…



「…めっちゃ多いね、お化け」



 そう、先ほどからなぎ倒してもなぎ倒しても、30分と置かずに新たな小鬼が湧いてくるだ。


 対処そのものはご覧の通りの楽勝なのだが…これはちょっと疑問だぞ。


 この拠点に到着して最初の襲来については、移動中のピックアップトラックを追跡されたものかと判断していたが、その後に湧いてきた奴らはもしかすると…

 


「生存者に引き寄せられてる…ってこと!?」



 俺が推論を述べると乃愛のあが驚きの声を挙げる。


 この山は丸ごと俺の所有物であり、昭和40年代にいわゆる原野商法で売り出された額面だけは宅地扱いの土地だ。


 これを競売業者経由で地権を買い集めた際に総面積約400ヘクタールと判明しているので、怪物モンスターどもがただ闇雲に彷徨うろつきき回るだけでこれほどのハイペース襲来となるのは不自然である。


 つまり、生存者である俺と乃愛のあに引き寄せられて、ヤツらは現れるのではないか。


 

 …今のところこれが一番可能性が高いように思われるのだが、この推論の意味するところにさすがの乃愛のあも可愛らしい愁眉を寄せている。



「それじゃあ…街とかはヤバいじゃん」


「だろうな」



 二人してテレビモニタに視線を移すと、そこには銃弾を浴びせても浴びせても次々と湧き出す小鬼の群れと自衛隊との、全国各地での激戦の模様が映し出されている。


 そうした激戦の映像に限って…やはり都市部の風景だな。


 こりゃあ、やはり現環境の最適解は自分の身一つでシェルターに籠ることか…いや、もちろんいまさら乃愛のあを追い出そうというわけでは…むぐっ!?



 俺の顔面は柔らかさに包まれていた。



「…安全になるまでいていいんだよね!? いまさら出ていけとか …毎日おっぱい! ドド〜ンと毎日おっぱい券で〜す!!」



 ま、毎日おっぱい券!?


 世が世ならばオークションサイトでどれほどの値段がつく代物なんだそれは…!?










『18時になりました。本日の討伐ポイント交換タイムを開始します』

 


 なんの予告もなく、突然脳内にアナウンスが鳴り響いた。

 

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